七福神シリーズ|祈紙(いのりがみ)編 【散りゆく桜、消えぬ面影】
片割れを亡くし途方に暮れるも、光は必ず照らしてくれる
チリーン、
チリーン、チリーン、
祈紙(いのりがみ)が、寿老人の手元に。
「ふぅ〜む……」
真紅の紙を手に、寿老人は黙り込んでしまった。
傍らで、お供の鹿が「寝ていないよね?」というように顔を覗き込む。
祈紙(いのりがみ)は、願いの重さをそのまま色に映す。
強ければ濃く、深ければ深く。
手元に届いた色は、あまりに鮮やかな「真紅」。
それは、長年育んできた愛おしい記憶と、一瞬で断ち切られた命への、激しい喪失感が入り混じった色だ。
「痛ましいことよのぉ……。六十五年もの歳月が、一瞬で幕を引くとは」
70代女性 チエさんの祈紙
ある朝、ゴミ捨てに出かけたまま、おじいちゃんは帰らぬ人となった。トラックにはねられ、ほぼ即死だった。
何も受け入れられなかった。ゴミ捨てに出かけた姿さえ見ていない。ただ、朝、布団から出た時のあの気配だけが、今も家の中に残っている。
救急車のサイレンで胸が締め付けられ、もつれるように玄関を飛び出したあの日。
共に過ごした六十五年の歳月が、ほんの数日の仏事で幕を閉じ、骨となった。
チリーン、
チリーン。
「無事に成仏できますように」
そう唱える気持ちと裏腹に、心は絶望に震えていた。
(私一人で、この先どう過ごせというの……。子供や孫の前では、平静を装っていなきゃね)
空の高いところで、寿老人が鹿を連れて、ぽわ〜ん、ぽわ〜んと漂いながらその姿を見ていた。
「……今はつらかろうが、時間が解決するものじゃ」
季節がいくつか移り変わり、孫の世話や趣味の詩吟に勤しんでいるうちに、あの鋭い不安と絶望は、少しずつ和らいでいった。
そして、再び桜が咲く季節がやってきた。
チエさんは、ひらひらと舞う花びらを見上げ、胸の中で静かに語りかける。
「また、来年も一緒に見られるといいですね、おじいちゃん」
穏やかな風が吹き抜け、チエさんはふと空を見上げて微笑んだ。
「神様、時間って心穏やかにしてくれるものですね……。ありがとうございました」
天界では、寿老人が満足げに頷いた。
「そうじゃ。形は変われど、共に見る心は消えぬもの。……さあ、また一年、ゆっくり歩こうかの」
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