七福神シリーズ|祈紙(いのりがみ)編 【罪悪感は、最高のスパイス】
痩せなきゃ、でも食べたい。その『葛藤』を、布袋が丸ごと飲み込んだ!
チリーン、
チリーン、チリーン、
祈紙(いのりがみ)が、布袋の手元に。
「……おやおや、なんとも脂っこい匂いがする紙だねぇ」 布袋が、丸々と肥えた指先でそれを拾い上げる。
手元に届いた祈紙の色は、こんがりと揚がった「山吹色」。
「この祈紙は、神社で人間が詣でた際に願った思いのたけの強さで色が変わる。」
山吹色は、一見明るく見えるけれど、よく見ると「欲望」と「自責」が油のように混ざり合っている。美味しいものを食べたいけれど、食べた後の自分が許せない……そんな現代人特有の揺れる色だ。
「二十代、会社員、しょう君……。ふむ、ダイエット中なのに台湾唐揚げの誘惑と戦っておるのか。よしよし、その悩み、ワシが預かろう!」
二十代 絶賛ダイエット中 しょう君の祈紙
「……また、やっちゃった」
しょう君は、鏡の前で自分の顔を見つめて溜息をついた。
キンプリみたいな、シュッとした「きれいカッコいい」男子を目指してダイエット中。なのに、帰り道に鼻をくすぐる揚げ物の匂い。
(ダメだ、ドバイチョコ餅も我慢したのに……ダージーパイの誘惑には勝てない!)
一口食べれば、衣のカリカリと鶏肉の脂が口の中に広がる。その瞬間は幸せだけど、飲み込んだ後にくるのは「自分はなんて意志が弱いんだ」という罪悪感。
その「ごめんなさい」の気持ちが、神社の賽銭箱に放り込まれていた。
「……ダイエット中なのに、誘惑に勝てません」
チリーン、
チリーン
布袋は、自分のはち切れんばかりのお腹をぽよんと叩きながら笑った。
「そりゃあ無理じゃ。ダージーパイは神の試練より強いわい」
布袋は大きく息を吸い込み、どっしりと座り込んだ。
「よいか。勝とうとするから苦しいんじゃ。ならば、こう考えるのじゃ。『今日はダージーパイに花を持たせてやるか』とな」
布袋が扇をひと振りすると、しょう君の心にふっと不思議な感覚が芽生えた。
「食べたい日は食べよ。その代わり、世界一幸せそうに食べるのじゃ。食べ物の恨みは恐ろしいが、食べ物の『喜び』は、体の中で光に変わるからのぅ。……そして翌日は、食べた分を消化するように動くのじゃ!……ま、わしには、できぬがの。フォッフォッフォ!」
その夜。しょう君は罪悪感を脱ぎ捨て、最後の一口まで「なんて美味しいんだろう!」と心から味わってダージーパイを食べた。心が満たされると、不思議と体も軽くなった気がした。
翌朝、目が覚めたしょう君は、昨日の幸福感をエネルギーに変えるように、自然と外へ飛び出した。
「よし、今日は一駅分、早歩きだ!」
グングンと速足で散歩し、坂道を駆け上がる。
「はぁーっ、いい汗かいた!昨日のダージーパイをあんなに美味しく食べたおかげで、今日は体がよく動くよ。幸せに食べるって、こういうことなんだね!」
額の汗を拭いながら、しょう君はキラキラした笑顔で空を仰いだ。
「いい汗かいたよ!ありがとう、神様!」
布袋は祠の奥で、満足そうに頷いた。
「そうじゃ。食べて、笑って、動く。それが一番の美容よな。……さて、ワシも散歩に……いや、やっぱり、ダージーパイ食べたくなってきたわぃ」
祠の奥から、
じゅわぁ……という幻の揚げ音が聞こえた気がした。
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