短編小説|七福神シリーズ3|【3話目 宮廷潜入と帝の懺悔】
静まり返った夜の宮廷。
月明かりが美しく降り注ぐはずのそこは、
今や異様なピンクの光に塗り替えられていた。
「きゃはっ! 見てぇ〜この輝き!
これぞ『トップ・オブ・ザ・宮廷』略して『トプ宮(きゅう)』に ふさわしい光ですわぁ〜!」
中臣房子が声を弾ませ、小箱の蓋を開ける。
中には、七福神から奪い取った恵比寿の鯛、
大黒天の小槌、弁財天の琵琶の……
主を失った「福徳」たちが、悲しげに鈍い光を放っていた。
「房子様、尊すぎますぞ!
この『ガチ恋結界』がある限り、不埒な侵入者は一歩も入れませぬ!」
道満がピンクのペンライトを指の間に挟み、 八刀流で振り回し、奇妙な踊りを奉納する。
ーーーーー 房子はついに小箱を帝へ献上した。
玉座の間
帝はひとり、房子から差し出された小箱を見つめていた。
「これが、かぐや姫を繋ぎ止める宝か。
房子よ、よくやった。これさえあれば……
あの姫も地上に留まってくれるだろうか……」
帝の瞳には、ただ純粋な
「愛する人を失いたくない」という
独りよがりな『重すぎる愛』だけが宿っていた。
その時だ。
ぱぁーーーーーーーーっ……!
眩い光が玉座の間を満たし、
ピンクの結界が紙を裂くような音を立てて弾け飛んだ。
帝が振り返った先にいたのは
――宝船に乗った七福神、そして、胸を焦がしたかぐや姫だった。
「……姫……?」
帝の問いに、姫は一歩踏み出す。
その瞳には、見たこともない険しさが宿っていた。
結界が破れ、房子と道満が慌てて駆けつける。
「お久しぶりね、帝。……今の私は激おこぷんぷん丸よ」
弁財天が、ボロボロの羽衣を揺らし一歩前に出る。
「帝よ、そなたが『宝』だと思って眺めているそれは、
我ら七福神の魂。それを奪うことは、世の福を奪うことと同じ。
そなたのしていることは愛ではなく、ただの略奪じゃよ」
布袋が大きな腹を揺らして嘆息した。
「略奪……? 余はただ、姫に贈り物を……」
「まだ分からないのかっ!」
毘沙門天の怒声が帝を貫く。
かぐや姫が静かに言った。
「帝、神々が人々に福を配るために積み上げた想いを、
あなたは踏みにじったのです。
奪った物で飾られた愛など、私には毒でしかありません」
帝の手がガタガタと震えだした。
小箱の中で福徳たちが、主を求めて鳴いているように見える。
「余は……姫が喜ぶと思って……。
良かれと思って……」
自分が姫を想うほどに、姫を苦しめていた。
その残酷な事実に、帝は力なく膝をついた。
房子はどこ吹く風とばかりに、
アヒル口のまま髪を指でくるくる回している。
「気づくのが遅すぎたわね。
反省会は後よ。まずは、その小箱を返してもらうわ」
弁財天が冷たく言い放つ。
だが、その前に道満が立ちはだかった。
「……フン。帝が戦意喪失しても、
俺には『房子様』という絶対的な推しがいる!」
道満が再びペンライトを握りしめ、
目を血走らせて立ち上がった。
「神だか何だか知らねえが、
房子様の笑顔を曇らせる奴は
――この俺が『出禁』にしてやるぜぇぇ!」
どす黒~い「桃色」の魔力が渦巻き、宮廷の床が激しく震える。
その圧倒的な狂気を前に、
それまで静かに髭を撫でていた寿老人が、
ふう、と深く溜息をついた。
「やれやれ……。年寄りをあまり歩かせるもんじゃないのう。
力尽くなら、こちらも『とっておき』を出すしかないかの」
寿老人が、杖を握るのとは反対の手をゆっくりと懐へ差し込んだ。
取り出したのは、鈍く銀色に光る小さな珠。
「寿老人! それは……!」
驚く弁財天を制し、
寿老人がその珠を静かに掲げる。
「月のかけらの珠――。
これを使うのは、神代の昔以来じゃが……致し方あるまい」
この珠は、神である七福神でさえ神代の昔以来というほど、
大昔から預かってきた賜物である。
暗転する宮廷
道満の放つどす黒い桃色の光を、
寿老人の掲げた珠から放たれた冷徹な銀の光が、
静かに、そして確実に飲み込み始めていた。
(――第4話、禁断の『月のかけらの珠』発動へ!)
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