短編小説|七福神シリーズ2|【第1話 祠の宴と、静かに始まる異変】
祠(ほこら)の夜は、七福神たちの爆笑と喧騒で満ちていた。
恵比寿は立派な鯛を小脇に抱えてステップを踏み、
弁財天が奏でる琵琶の調べに合わせ、
寿老人の鹿は酔っ払いのようにふらふらと首を揺らしている。
大黒天が打ち出の小槌を振って景気をつければ、
布袋は太鼓のようなお腹を揺らして「ガハハ」と笑う。
そんな中、鎧を脱ぎかけて
「はしたない!」
と弁財天にこっぴどく叱られているのは毘沙門天だ。
その傍らでは、つまみを盗み食いした狛犬が、
杖を振り回す寿老人にキャンキャンと追いかけ回されていた。
ただその狛犬、どこか落ち着きがなく、
時折、祠の外をちらりと気にするような素振りを見せていた。
「ぷはぁ〜! やっぱり宴といえばビールに限るなぉ!」
恵比寿が喉を鳴らしてジョッキを空にすると、
すかさず大黒天が突っ込みを入れる。
「おいおい恵比寿さんよ、ビールばっかり飲みすぎじゃねぇか?」
「おおお〜! 見事なビール腹だねぇ〜」
布袋が恵比寿の腹をポンポンと太鼓叩き。
「ぽんぽこリーン♪」
と小気味よく口ずさむ。
恵比寿は負けじとその手を払い除けると、
お返しとばかりに布袋の脇腹を「ぶにっ」と掴み返し、
「ぽんぽこリーン!! お前さんほどじゃあ、ないねぇ!」
一同は「違いない!」
とドッと沸き、祠の屋根が揺れるほど笑った。
夜が更けた頃、弁財天が琵琶の弦を艶やかに爪弾きながら言った。
「ねえ、誰か私の美しい音色に合わせて歌いなさいよ」
「よぉ〜し! 俺の美声を披露してやろうかぁ!」
むくっと立ち上がった毘沙門天の肩を、福禄寿が慌てて押さえつける。
「まぁまぁ、落ち着け。
前回の、あの耳を劈(つんざ)くような調子外れを忘れたのか?」
みんなは思い出し笑いを堪えきれず、
顔を背けてクスクスと肩を震わせる。
「じゃあ、オレが一節……」
狛犬が堂々と2足で、ぬくっと立ち上がり、
神妙に口を開きかけた瞬間、
「「「ダメーーー!」」」
全員の声が見事に重なった。
囲炉裏の火がパチパチとはぜる。
笑いの余韻が残る中、
静寂が祠を包み始めていた。
神様たちは、大仕事を終えた後の充足感に包まれ、
やがて泥のように深い眠りに落ちていった。
──翌朝。
差し込む朝日に目をこすりながら、恵比寿が起き上がった。
しかし、いつも右腕にあるはずの“ある感触”がない。
「……あれ? 大黒天、また俺の鯛を隠したのか?」
いつもの冗談のつもりで周囲を見渡すが、
どうやら、昨夜皆で焼いて食べた骨を除いては、
骨のかけらはない。
それどころか、もう一つの象徴の釣り竿も見当たらない。
起き抜けで眠い目をこすりこすり、大黒天が口を開いた。
「まだ今朝は何も食ってねぇぞ……。
って、ちょっとぉおーー、あれ!? 俺の小槌がねぇっ!」
隣で跳ね起きた大黒天の声が上ずっている。
福徳を象徴する彼の笑顔は消え、顔はみるみる青ざめていった。
その騒ぎで目を覚ます他の神たち。
怪訝な顔で辺りを見回し、自らの象徴を引き寄せて無事を確認する。
「……よかった…ちゃんと、あるわ」
弁財天は琵琶をギュッと抱きしめる。
寿老人は何も言わず、鹿をただ、ただ、撫でまわした。
「……待て。狛犬のいびきが聞こえないぞ」
誰かが呟いた。
昨夜、大の字になって大いびきをかいていたはずの狛犬も、
影も形もなく消えていた。
賑やかだった祠に、冷ややかな不穏な空気が静かに忍び寄っていた。
つづく
読んでくださり、ありがとうございます。
新シリーズの幕開けです。
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