短編小説|七福神シリーズ4話目|【使いの狛犬と言霊 七福神全力の祈祷】
七福神たちの前になんと!二足で立ちはだかる狛犬!!
嵐のような風と共に現れたその姿に、
神様たちは驚き、これから降りかかるであろう難儀を予感して頭を抱えた。
狛犬が担いでいた大きな袋が、床にドサリと降ろされる。
袋の中から転がり出たのは、たくさんの「鈍色の丸い塊」。
これは、苦しい苦しい胸の内を、
すがる思いで神へ祈った者たちの「言霊」が憤り、腐った塊だった。
それを見た瞬間、神様たちは、がやがやと騒ぎ出した。
「やっと一仕事片付いたというのに……分かっておるのか?」
毘沙門天が鋭い槍の先を狛犬に向ける。
「宴が台無しじゃ!気分が悪いぞ!」
温厚な福禄寿からも文句が飛び出した。
一方、大黒天は
「今のうちに腹ごしらえするしかねえ!」
と、残りのおにぎりと鯛を貪り、米粒と骨を撒き散らしている。
「ゆっくりお湯に浸かりたかったわ。疲労でお肌が荒れ放題よ……」
弁財天はあきらめ顔でため息をついた。
「いや、俺だって好きで運んできたわけじゃねえんだが……」
狛犬は鼻を鳴らし、口を尖らせてごもごもと喋り出した。
「北の神たちが手に負えねえって、放り出してきたんだよ。
ゆっくり腰を据えて話をする暇もねえぞ!ほら、見てみろ……」
狛犬が指し示した、「言霊」は、
まるで生き物のように重々しく脈打っていた。
塊から立ち上る冷ややかな煙が、祠の温度を一気に奪い去っていく。
「これは今すぐに、祈祷が必要じゃな」
寿老人が濁った「言霊」を覗き込み、表情を険しくする。
「強い悲痛な思いが、こんな濁った「言霊」になるなんて……どれだけ苦しいのか」
優しい弁財天が瞳に涙を滲ませた。
「よしよし、早く楽にしてやろうじゃないかぁ〜!」
布袋が宴の残りを袋に一気に流し込み、パンパンに膨らんだ腹を叩いて気合を入れる。
「よっしゃ、神たちよ、準備はいいか!」
寿老人が杖を床に突くと、
低く重厚な祈祷(きとう)が響き始めた。
七人の神様たちが円陣を組み、「言霊」を囲むと、
その体は黄金色に輝き出した。
――カァッ!!
神気と冷気が激しくぶつかり合い、祠の壁がミシミシと悲鳴を上げる。
「おおおぉ〜、うぉぉぉ〜……」
「言霊」から、何千人もの、
嗚咽が混ざり合ったような地を這う声が漏れ出した。
その時、狛犬が叫んだ。
「気をつけろ!こいつはただの「言霊」じゃねえ、ねばっこい『執着』が混じってやがる!」
塊が激しく震動し、真っ黒なヒビからドロドロとした泥のような影が溢れ出した。
大黒天の打ち出の小槌にベタベタと影が絡みつく。
だが、毘沙門天はひるまず、
槍をブンブンと振り回して影を払い飛ばした。
「エイッ!ヤーッ!」
腹の底からの叫びと共に、演武のような激しい動きで祈祷に参戦する。
囲炉裏の火は、神様たちの熱気を受け、激しく燃え上がる。
泥を出していた、「言霊」が七色の光をまとい始めた。
その不思議で圧巻の光景に、狛犬は口を開けたまま固まっている。
しーーーーーーーン。
壁の「歯ぎしり」が止み、
「言霊」は七色の光から、やがて煙となり、
「ふうーーーっ」
と祠の天井へ吸い込まれるように滲んで消えていった。
七福神みんなの祈禱によって、
「言霊」が七色の煙となり、昇華されたのだ。
「言霊」は消えるのではない。
それぞれの持ち主の元へ『守護の光』となって還っていくのだ。
これでもう大丈夫。
人々の願いは、七福神たちの力強いご加護に包まれた。
祠の中には、春の陽だまりのような温かさが戻っていた。
「これで……あの人たちの心も、少しは軽くなるかしら」
弁財天が空を見つめる。
「おうよ!今頃みんなの頭の上で、俺たちの福がフワフワ踊ってるはずだぜ!」
大黒天が小槌を叩くと、景気よく小判が飛び出した。
狛犬が大きなあくびをして、再び二足で立ち上がる。
「……さて、一仕事終わったところで。神さんたち、酒は残ってるか?
北からすっ飛んできたから喉がカラカラなんだわ」
その言葉に、神様たちの笑い声がドッと上がった。
外では、降り積もる雪を、汗をかきながら、
せっせと寄せていた宮司が、
ふと手を止めて首を傾げた。
「あれ?…今日は祠の辺りが、やけに賑やかだねぇ……」
神様たちの宴は、賑やかに、そして穏やかに続いていく。
七福神シリーズ1 終わり
また次回、よろしくお願いします。
前作は下記より、
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