短編小説|七福神シリーズ3話目|【祈紙へ捧げる祈祷 狛犬登場!】
雪深い山奥。そこは天界の一角のようで、古びた小さな祠(ほこら)がひっそりと佇んでいた。
そこでは七福神たちが、山のように積み上がった「祈紙(いのりがみ)」を前に、
あーでもないこーでもないと仕分け作業に追われていた。
大黒天が豪快に笑い飛ばす。
「ガハハハッ!寿老人〜、鼻垂れとるぞ〜!寝るなら寝ろよ〜!」
その拍子に、食べているおむすびの米粒が、
まるで雪のように辺りへ飛び散った。
「ちょっと!私の髪に米!米っ!飛ばさないでよ、下品なんだから!」
弁財天が顔を真っ赤にして、愛用の櫛(くし)を振り回す。
その隣では、寿老人が鼻水を垂らしたまま、
ボーッとした表情で鹿の頭を撫でていた。
しかし、その片手にはしっかりと長寿を願う祈紙が握られている。
強面の毘沙門天が黄色い祈紙を差し出し、困り顔で言う。
「おう〜布袋〜、これどうするよ?」
布袋は大きな袋を抱えながら、優しくも困ったように笑った。
「これかぁ〜。幼稚園のママ友同士のいじめ問題ってなぁ……
槍で突っつくわけにもいかんしなぁ」
そこに福禄寿が長い髭をなでながら、ニヤリと割って入る。
「ふむ……人間の短い人生の中の、僅かなひと時をこんなことに費やすとは愚かじゃな。
……これはワシに任せなさい。ちょいと知恵を授けてやろう」
仕分けが終わると、七福神たちは
「よし、じゃあ片付けるか〜」
と、それぞれ祈紙を手に、囲炉裏のまわりへゆるゆると集まっていった。
「はいっ!おれ一番乗りね〜!」
大黒天が大きな体を揺らして、囲炉裏の特等席を陣取る。
「ちょっと!次はわたしだから割り込まないでよ!」
弁財天が袖をまくり上げて応戦する。
「まあまあ、順番じゃ、順番……」
福禄寿がなだめる横で、寿老人はすでに囲炉裏の火をじっと見つめていた。
ここからが、さぁ〜本番。
人々の願いを天へと繋ぐ、神様たちの 「祈紙へ捧げる祈祷」 が、
今まさに始まろうとしていた――。
一人一人が祈紙を囲炉裏にくべ、
静かに祈祷を唱えながらお焚き上げを行う。
神のお仕事は、ひとまずおしまい。
「今夜の宴の始まり!いえ~ぃ♪」
ガッツポーズの毘沙門天。
「……ふう、仕事終わりのおむすびは最高ぉ♪」
再び口の周りに米粒をつけて笑う大黒天。
「ちょっと、鼻水拭きなさいよ!」
弁財天が寿老人にティッシュを突き出す。
「鯛、焼くよぉー! お酒もってきてくれ〜!」
大黒天の叫びに、恵比寿は大盤振る舞いで鯛とお酒を差し出す。
「布袋、袋からよーおにぎり出してくれっ!」
毘沙門天も、おにぎりを布袋にねだる。
大黒天が恵比寿の鯛を豪快に焼き始め、
脂がじゅわっと落ちて火がパチッと跳ねる。
七福神たちの騒がしい宴は続く。
一方その頃、巷(ちまた)では――
さっきまで泣いていた誰かが、ふっと心が軽くなったのを感じ、空を見上げていた。
……その時だった。
ヒュオオオオオッ!
突然、冷たく強い風が吹き抜け、祠の周りの木々が大きくざわめき、
雪がバサササァーと落ちた。
七福神を照らしていたろうそくの炎が、ふぅー……と静かに揺れる。
「はあ〜?どいつだよぉー」
「……はい!追加業務、入りましたぁ……」
神様たちから大きなため息が漏れる。
その視線の先――
暗闇からヌッと姿を現したのは、
サンタクロースのように大きな袋を背負い、
二足で堂々と立ちはだかる 「狛犬」 の姿だった。
次回へ、つづく。
前作は下記から、どうぞよろしくお願いします。
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