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七福神シリーズ|祈紙(いのりがみ)編 【知恵は、心を温める「炭」になる】

正しいことが、誰かを傷つけることもある。理屈っぽいおじいちゃんが、魔法使いに変わる瞬間。

チリーン、 チリーン、チリーン、

祈紙(いのりがみ)が、福禄寿の手元に。

「……ふむ。頭が重たいほどに知識が詰まっておるのぅ」 福禄寿は、自分のさらに長い頭を撫でながら、ゆっくりと紙を開いた。

手元に届いた祈紙の色は、冷たさを感じるほどに整った「青磁色(せいじいろ)」。

「この祈紙は、神社で人間が詣でた際に願った思いのたけの強さで色が変わる。」

その紙からは、墨の香りと共に「正論」のトゲが放たれている。あまりに正しく、あまりに隙がない……ゆえに、誰の手も寄せ付けない孤独な色だ。

「七十代、元エリート技術職、源さん……。ほっほっほ。知恵を抱えすぎて、心が少し凝り固まっておるようじゃな」

七十代 元エリート技術職 源さん(自称・物知り博士)の祈紙

『最近の若者は言葉が乱れている。孫に正しい歴史を教えようとすれば「おじいちゃん長い」と煙たがられ、近所のゴミ出しを注意すれば「理屈っぽい」と避けられる。私の知識は、もはやこの世には不要なものなのでしょうか』

チリーン、
チリーン

「ほっほっほ。不要な知識など、この世には一つもないのになぁ」
福禄寿が杖をトントンと突くと、お供の鶴が「クワッ(説明が長いんだよ)」と横で欠伸をした。

源さんは、今日も公園のベンチで一人、分厚い専門書を読んでいた。
本当は、誰かと話したい。
自分が積み上げてきた「禄(キャリア)」や、長年かけて得た「寿(知恵)」を、誰かの役に立てたい。
でも、口を開けば「統計によれば…」とか「本来の定義は…」と理屈が先行してしまい、周囲との間に見えない壁を作ってしまう。

(私は、正しいことを言っているだけなのに……)

寂しさを正論でコーティングしてしまった源さんの祈紙。

福禄寿は、長い頭をゆらりと揺らした。
「知恵というものは、頭に詰めておくだけでは石と同じ。心を温める『炭』にしてこそ、福を呼ぶのじゃ」

福禄寿が杖で空をなぞると、源さんのもとに、小さな「事件」が舞い降りた。

公園で、一台の古いラジコンを抱えて泣いている少年がいた。
「動かないんだ……お父さんに買ってもらったのに」

いつもなら「構造上の欠陥だ」とか「扱い方が悪い」と言ってしまう源さんだが、なぜかその日は、福禄寿の「音」に導かれるように、少年の隣に腰を下ろした。

「……どれ、見せてごらん。これは、少し配線が拗ねているだけだ」

専門用語を飲み込み、少年にもわかる言葉で、優しく機械の機嫌を直していく。
源さんの「知恵」が、初めて「誰かの笑顔」のために、温かい手つきとなって動いた。

「動いた!すごい!おじいちゃん、魔法使いみたい!」

少年の真っ直ぐな瞳に、源さんの胸の奥の「正論」が、じゅわっと溶けて「福」に変わった。

「魔法ではないよ。……ただ、この子がまた走りたがっていただけさ」

源さんの顔に、理屈ではない、柔らかなシワが刻まれた。

「神様、私にも、まだできることがあったよ。……ありがとーな」

空を見上げる源さんの横で、福禄寿は満足げに目を細めた。
「そうじゃ。知恵は分かち合ってこそ、長寿の祝い酒より美味くなる」

隣では、鶴が「クワッ(やっと短くまとまったな)」と、また一回欠伸をした。




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