商品より「世界観」が売れていた
― なぜ地方スーパーの投稿に「124いいね」が付いたのか?
私が経営する地方スーパーのInstagram投稿に、突然「124いいね」が付いた。しかも、普段の商品投稿の5倍以上の反響だった。投稿内容は、セール情報でもなければ、目玉商品でもない。
その投稿は、私の地元を旅する「イギリス人夫婦」と私の写真だ。そして、彼らとの何気ない会話について書いただけだった。だが、私は今回の反応を見て、
「ああ、自分は今まで“商品”を投稿していたつもりで、実は私の本当の“世界観”を隠していたんだな」と思った。
■地方スーパーなのに、「ロンドン」が出てくる
今回のその投稿には、ロンドン・フランス南部・北海道・アラスカ・パナナみたいな単語が突然出てくる。普通の地方スーパーの投稿では、まず出てこない単語だ。
だが、私の地元には、時々こういう「世界を移動している人たち」が現れる。今回は、友人にカスタムメイドしてもらった2人乗り自転車で日本を旅しているイギリス人夫婦だった。
さらにその数日前には、フランス南部から小型船で14年間も旅を続けている夫婦も来店していた。私の地元から北海道へ向かい、その後アラスカを目指し、最終目的地はパナマだという。もはや冒険家である。
■「売り込み」が無かった
今回の接客で、私が実際にこのイギリス人夫婦に「売った」ものは、日焼け止めとフェリー情報くらいだった。でも、多くの人はその投稿を「営業」として読んでいなかった。
むしろ、「この店、なんか感じいいな」として読んでくれたのかもしれない。
今のSNSで強いのは、「商売してないように見える商売」だと思う。
テンション高めの接客や、押しの強い営業ではなく、「必要以上に干渉しない、困っている時だけ助ける、過剰に距離を詰めない」みたいなスタンスの方が、むしろ信頼されるのかもしれない。
私はアメリカ留学時代、「外見や人種で人を判断せず、まず個人として尊重する」という感覚を強く学んだ。
だから、よほど困っていそうな人以外には、自分から積極的に話しかけない。だが今回のイギリス夫婦やフランス夫婦は困っていた。だから対応した。その自然さが、そのまま投稿に出ていたのだと思う。
■商品ではなく、「物語」になっていた
普通の小売店投稿は、商品・値段・セール情報などで終わる。つまり「情報」である。
でも今回の投稿は違った。今回の投稿は完全に、「日本の田舎を通過する世界の旅人たちの物語」になっていたのだ。
しかも私は元々、地理・地政学・海洋・航路・人類学・言語・移動する文明みたいなテーマが異常に好きだ。だから無意識に、フェリー・北上ルート・アラスカ航路・自転車旅みたいな「移動の構造」を面白がっている。恐らく読者も、その私の熱量を感じたのかもしれない。
■「日本の田舎 × 世界」が接続された
今回の投稿で、1番大きかったのはここかもしれない。多くの地方スーパー投稿は、地域の中で閉じている。だが今回、私の地元の日本の田舎がロンドン・フランス・アラスカ・パナマと、突然世界とつながったのだ。地元の読者はそこで、
「こんな田舎も、世界と繋がってるんだ」と感じたのかもしれない。
これは、単なる接客投稿ではなかったのだ。「海の上の交差点」としての地元が、突然見える瞬間なのだ。
■私自身が「商品」だったというオチ
今回、フォロワーが見ていたのは、実は外国人夫婦ではないのかもしれない。
たぶん、「このアカウントの中の人、面白いな」という部分、つまり私だったのだ。
フィラデルフィア留学、英語対応、地理好き、外国人との自然な距離感、ローカル知識など、全部が1つの投稿で初めて自然に繋がったのだ。つまり、私をスーパーの商品を売る人ではなく、「この日本の田舎を通過する世界」を観測している人として認識されたのだと思う。
■地方に必要なのは、「世界との接点」なのかもしれない
地元にいると、時々思う。人は意外と、「外の世界」に飢えている。海外。旅。航路。異文化。移動。
だからこそ、ロンドンから来た夫婦が、地方のローカルスーパーで日焼け止めを探している。その光景だけで、少し世界が広がる。
地方に必要なのは、巨大な再開発だけではないのかもしれない。
こういう、「世界と接続された小さな会話」なのかもしれない。
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