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なぜ金はこれほど強いのか?

――「何も生まない資産」が、いま最強である理由


金価格の上昇が止まらない。

2026年1月、金は遂に1オンス=5,000ドル を突破した年初から既に17%以上の上昇だ。まだ2月にもなっていない段階で、多くのアナリストが「2026年末」と想定していた水準を軽々と超えてしまった。興味深いのは、悪いニュースでも、良いニュースでも金が上がることだ。例えば、トランプ 大統領がヨーロッパへの圧力を強めたとき、金は急騰した。ところが、その圧力を引っ込めても、価格は下がらなかった。通常のリスク資産のロジックでは説明しづらい動きである。


今回の投稿は以下のThe Economist記事への感想だ。

https://economist.com/finance-and-economics/2026/01/27/what-is-driving-golds-relentless-rally


◼️「デバスメント・トレード」の中心にある金

現在 金が買われている理由ははっきりしている。それは 「デバスメント("debasement"/価値希薄化) への恐怖」 だ。アメリカの財政赤字の拡大、地政学リスクの常態化、国際秩序・制度への不信、そしてアメリカ国債やドルへの信認低下などだ。こうした懸念を抱いた投資家は、アメリカ国債やドルを売り、何千年も価値を保ってきた安全資産へと向かう。その最古の選択肢が金である。

実際、トランプ関税が本格化して以降、S&P500が1%以上も下落した日は27日あったが、その日は平均して金は0.6%も上昇した。しかし、面白いのは、株が1%以上も上がった日でさえも、金は 0.2%も上昇している点なのだ。金はもはや「リスクオフ専用資産」ではないのだ

◼️中央銀行だけでなく、「新しい買い手」が現れた

これまでの金の相場高を牽引してきたのは、新興国の中央銀行だった。特に中国を中心とした国々は、極めて保守的な姿勢で現物の金の在庫を積み上げてきた。地政学リスクに備えるためだ。しかし、最近の変化はそこではない。金ETFという形で、個人・機関投資家が一気に流入し始めた。世界の金ETF保有量は4,000トンを超えている。しかも、2025年だけで保有量は25%も増えている。評価額は 6,500億ドル超だ。とりわけアジアが顕著なのだ。過去2年間で、アジア拠点ETFの金保有量は 3倍以上 (460トン) に増えた。中国、日本、韓国の大型ファンドが一斉に動いている。これは「安全資産として」ではなく、リターンと分散のために金を買っているという点が決定的に違う。

◼️「金は何も生まない」——それでも無視できなくなった理由

金融の教科書的には、本来は金は扱いにくい資産だ。金はキャッシュフローを生まない。割引現在価値(NPV)で価格を説明できない。本質的には「将来誰かが払う価格」だけが価値なのだ。そのため、伝統的な機関投資家は長年に渡って金を軽視してきた。しかし、現実は変わりつつある。MSCIの分析によると、株60%・債券40%のポートフォリオで、債券の半分を金に置き換えるだけで、2025年の年間リターンは約4%も上昇し、しかもボラティリティはほぼ増えなかった。「パニック時に支えになり、平時もじわじわ上がる資産」というそんな都合の良い存在は、いまや他に殆ど存在しないのだ。

◼️それでも、金はまだ“過小保有”されている

驚くべき数字がある。Goldman Sachsによれば、アメリカ人が株式・債券として保有する総資産のうち、金の比率は僅か0.17%に過ぎないのだ。そして、重要なのはこの数字だ。金の保有比率が 0.01% 増えるだけで、金価格は約1.4%も上昇するのだ。つまり、アメリカ人がアジア並みに金を愛さなくてもいいから、彼らがほんの少し関心を向けるだけで、金は更に上がる余地があるのだ

◼️現物を扱う現場から見る「金」

因みに、私は自分のビジネスで、日々「現物の金」を扱っている。数字やETFの話ではなく、重量と純度を持った資産としての金だ。メディアで金相場高騰の話題が取り上げられる度に、取引は増える。コロナ以降はずっとそんな感じだ。そこで感じるのは、金は投資家の理屈よりも、人間の不安や本能に近い場所で評価されているということだ。通貨や制度が信用できなくなった時、人は最後に「物」に戻る。その極致が、金なのだと思う。

◼️おわりに

確かに金は何も生まない。しかし、何も信じられなくなった世界で、最後まで残るものでもある。そして皮肉なことに、「何も生まない」からこそ、
今の世界では、これほどにまで強いのだ。

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