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読書ノート|『火山のふもとで』松家仁之

夏になると仕事場を「夏の家」に移動する設計事務所で仕事をしている人々の物語。山のふもとでゆっくりと流れる時間と、ひたすら美しい景色が文章から浮き上がってくる。

マリネした骨付きの羊肉のまわりに、皮をむかずに大きく切ったじゃがいもや人参、玉ねぎを並べ、オーブンに入れる。豆腐とクレソン(先生は馬セリといった)の味噌汁をつくる。

『火山のふもとで』

手の込んだ料理がたくさん登場し、大切に作られていることがわかってとても素敵だった。今はやりのご自愛や、丁寧な暮らしのようだけど、彼らにとってはそれが日常なのだ。

なぜこんなにゆったりとした時間が素敵なのだろうと思いながら読み進め、そうかスマホがないからだとふと気づく。空の色で時間を感じ、声を聴いて鳥を探す。今、そんな時間はわざわざ環境を整えないと手に入れることができない。

その中で描かれる仕事は、静かで、だけどどこかで熱い炎が燃えているようだった。設計コンペを目指して作業をしているとき、確かに忙しそうなのだけど、声を荒げたりイライラしたりすることなく、淡々とそれぞれの作業に向き合う人たちで、それぞれが尊敬できる人物だった。鉛筆を削るサリサリという音が、耳のそばで聞こえるような気がした。

主人公が見ている景色の描写を読んでいると、建築や花や鳥の話をしているのに、そのときの感情や、状況への不安や、思考がなぜか次々と私の心に運ばれてくるのである。彼の頭の中を、細かく説明されるよりもはるかに深く覗いているような、不思議な体験だった。

大切に大切に心にしまっておきたい一冊。

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