初期設定の愛 1.はじまり
12歳の春、中学入学直後の4月。
何かを感じて振り向いた。体育の授業終わりのグラウンドだった。
じっと見つめ合う。時が止まる。
テレパシーだ。何かが伝わってきた。
この感覚は知っている。

ずっとこのままでいい。
すごい目だ。奥行の深い茶色い目。
吸い込まれていく。どんどん奥へ奥へ・・・。
絶対的な信頼感。この娘(こ)は信じられる。その時感じたのは、そんなものだ。
3秒くらいだったか。いや10秒かな。時間の感覚はない。
我に返ると、一緒に体育の授業を受けていたクラスメイトはだれもいなかった。一クラス分まるまるみんな、いたはずだ。
一人で校舎に歩をすすめながら、もう一度だけちらっと振り返る。
栗色の髪、白い肌、深遠な目、やや腰をかがめ、それでもしっかりとした立ち姿。素直そうだ。なんだか気持ちが安らぐ。彼女と一緒に見知らぬ女子二人。さっきは見えなかった。彼女一人だけが光っている。
それにしても、神秘的で中性的。美少女だな。
こんな美少女がいるのに、他の男子は気づいてないのだろうか。疑問が沸いてきた。もしかして、自分にしか見えていないのか。
体育着のゼッケンにでかでかと赤い字で”佐伯”と書いてある。
人間ではないかもしれない。天使か妖精か、いや女神だろうか。
とにかく見つけてしまった。何かが始まった。何かが起きている。
ざわざわ感。じわじわくる恐怖感。
彼女が自分にとって、”学校へ行く意味”、”生きる意味”、になっていく。
これは大げさではない。

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