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量子コンピュータ小史#3:量子超越への道

前回の続きです。

1990年代後半から2000年代にかけて、量子コンピュータの実験的実装への挑戦が本格化していきます。イオンを電磁トラップの中に閉じ込めて量子ビット(qubit)を実現する方式や、超伝導回路を用いる方式など、複数のアプローチが提案され、それぞれの長所・短所が比較検討されるようになりました。超伝導方式は微細加工技術を活用できるため、拡張性の面で期待が高いとされ、現在もGoogleやIBMなどが研究をリードしています。一方でイオントラップ方式は非常に高い精度での操作が可能で、イオンドラップの研究を手掛ける企業や大学も増えてきました。
他にも、半導体技術を転用したり、光を使った方式などがあります。日本では比較的光方式が活発で、最近も大きな動きがありました。

1.超伝導方式
超伝導回路を利用し量子ビットを構成。電気回路上で操作しやすく、量子ゲートの実装が比較的容易。

2.イオン捕捉(トラップ)方式
真空チャンバー内にイオン(電気を帯びた原子)を電磁場で捕捉し、レーザー光で量子状態を制御する方式。

3.光方式
光子を量子ビットとして用い、干渉や位相制御などを用いて計算を行う方式。

4.半導体方式
半導体に閉じ込めた電子などを量子ビットとし、電圧やマイクロ波で制御する方式。

5.ダイヤモンド空孔方式
ダイヤモンド中の空孔(NVセンター)に局在する電子・核スピンを利用した量子ビット。光で読み出し可能。

6.トポロジカル方式
マヨラナ粒子などを利用し、位相的に保護された量子ビットを構成する理論的な提案(ここは基礎研究段階)

上記記事

2010年代半ばに入ると、カナダのD-Wave社が「量子アニーリングマシン」を商用化したことで、量子コンピュータが実際に購入できるというニュースが話題を呼びました。厳密には汎用コンピュータというより、特定の最適化問題を解くための装置ですが、「量子技術が実用段階に入った」というインパクトは大きく、他社もこぞって量子関連の研究を強化するきっかけとなります。

そして、2019年にはGoogleが従来コンピュータの性能を超えたことを示す「量子超越性(量子サプレマシー)を達成した」と発表しました。彼らの実験では、従来のスーパーコンピュータでは1万年かかるとされる計算を、量子コンピュータがわずか200秒で完了させたと報告されました。

この成果は世界に衝撃を与え、「ついに量子コンピュータが古典コンピュータを超える瞬間が訪れた」とする見方も広まりました。ただし、この実験の評価には議論もあり、IBMなどの競合企業は「最適化された古典アルゴリズムなら数日で解ける」と反論しました。それでも、量子コンピュータが単なる理論から実験的な実証へと移行したことは明らかであり、技術の可能性を強く印象づける出来事となりました。

とはいえ、量子コンピュータの大規模実用化には多くの課題が残されています。特に、量子ビットのエラー率が高いため、誤り訂正技術の確立が不可欠です。現在の量子コンピュータは「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)」(誤り訂正処理をしない)と呼ばれる段階にあり、エラーを完全に制御することができていません。この問題を克服しなければ、大規模な商用利用には至らないでしょう。

最近だと、上記の量子超越性を初めて唱えたGoogleが、2024年12月にその後継版でさらなる飛躍を遂げました。こちらは過去記事に委ねます。

Googleによる発表記事が下記です。気になる個所があるので引用します。

Willow’s performance on this benchmark is astonishing: It performed a computation in under five minutes that would take one of today’s fastest supercomputers 1025 or 10 septillion years. If you want to write it out, it’s 10,000,000,000,000,000,000,000,000 years. This mind-boggling number exceeds known timescales in physics and vastly exceeds the age of the universe. It lends credence to the notion that quantum computation occurs in many parallel universes, in line with the idea that we live in a multiverse, a prediction first made by David Deutsch.

(和訳)
このベンチマークにおける Willow のパフォーマンスは驚異的です。今日の最速スーパーコンピューターでも10 の25 乗かかる計算を 5 分未満で実行しました。文字で表すと、10,000,000,000,000,000,000,000,000 年になります。この途方もない数字は、物理学で知られている時間スケールを超えており、宇宙の年齢をはるかに超えています。これは、量子計算が多数の並行宇宙で行われているという考えに信憑性を与え、 デイビッド・ドイチェが最初に予測した、私たちが多宇宙(マルチバース)に住んでいるという考えと一致しています。
(和訳と強調は著者によるもの)

上記記事

前回#2で登場したドイチュが出るのは違和感ないのですが、それが「多宇宙(マルチバース)を予測した」、という個所が???です。

それを知るためには、ドイチュの人間関係を把握しておく必要があります。

Wikiより

量子コンピュータを構想したファインマン含めて、指導教官はジョン・ホイーラーというつながりがあります。

ドイチェから見ると兄弟子(?)にあたる一人にヒュー・エヴェレットⅢがいます。実はこの人が量子力学の新しい解釈である「多世界解釈」を発表し、隣のドウィットがその解釈の伝道師となり、ドイチェもそれを支持しているという流れがあります。

多世界解釈は過去にも触れたので詳細は下記記事に委ねますが、ようは量子は1点に確定(収縮)せず分岐し続ける(このふるまいを多世界または多宇宙と定義)というものです。

それをGoogleの公式Blogでしれっと書いているわけです。筆者の一人(か全員)にこの解釈のコアなファンがいるのは間違いないでしょう☺

話をマクロに戻します。

Google含めて民間企業が積極的に投資を行う背景は、金融や創薬、マテリアル開発など、量子コンピュータがもたらす経済的効果です。
特に量子シミュレーションは、従来のスーパーコンピュータでは不可能な精度で分子の挙動を解析できるため、新薬開発や新素材の研究に革命をもたらすと期待されています。

今後の展望として、誤り訂正技術をどこまで効率的に実装できるかが鍵を握るといわれています。古典コンピュータと協力して活用する「ハイブリッド型」のシステムも有望視されており、量子アルゴリズム自体の革新も続いています。いつ、どんな形でブレイクスルーが起こるのかは予測が難しいものの、量子力学の原理を最大限に利用する計算装置――量子コンピュータは、確実にその姿を少しずつ現実世界へと定着させつつあります。

これからの技術進歩に注目しつつ、新しい「量子の時代」に向けて胸を躍らせていきたいところです。

<イベント案内>
日本で「量子フェス」を企画している橋本幸士教授を招いたイベントを開きます。今話題のAIと物理を融合する「学習物理学」の取り組みについて赤裸々に語ってもらいます。超面白いので、このテーマに関心がある方はぜひ遊びに来て下さい。

<参考リソース>

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