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組織のベクトル合わせより、"心合わせ"を|価値観が違う人と働くということ

「組織のベクトルを合わせよう」

経営の現場で、よく聞く言葉です。

戦略を共有する。
目標を揃える。
同じ方向を向く。

──とても大切なことです。
組織を動かすために、必要なことだと思います。

ただ、私はこの言葉に、
長い間、小さな違和感を持ち続けてきました。

ベクトルとは、矢印のこと。
矢印は、揃えれば揃うものです。

でも、人の心は、矢印でしょうか。


「わかっちゃいるんですけどね」

研修やコンサルティングの場で、
経営者や教育担当の方とお話しする機会がたくさんあります。

その中で、
いちばん多く聞かせていただくのが、こんな声です。

「社内のコミュニケーションに問題があると指摘しながら、自分自身のやり方にも『これじゃいかんだろぉ』と悩むことが多々あるんですよ。わかっちゃいるんですけどね

この「わかっちゃいるんですけどね」の中に、現代の組織が抱える本質が、ぎゅっと詰まっている気がしています。

頭ではわかっている。
でも、動けない。

なぜでしょうか。

私は、こう思っています。

「ベクトルを揃える」ことには、すぐに着手できる。

でも、『心を揃える』ことは、どこから始めればいいか、わからないからです。


価値観が違う人と、どう働けばいいのか

ある人事部長の方が、
こんなことをおっしゃっていました。

「最近の若手は、価値観が違いすぎて、何を考えているのか、正直わかりません」

その気持ち、よくわかります。


今、多くの組織では、
4世代、5世代が一緒に働いていると言われます。

団塊世代、バブル世代、就職氷河期世代、ミレニアル、Z世代。

育った時代背景も、
触れてきたメディアも、
価値観の前提も、
まったく違う人たちが、
同じ職場で日々顔を合わせています。

そんな中で「ベクトルを合わせよう」と言われても、そもそも矢印の向きを決める基準が、それぞれ違うのです。


「最近の若手は…」と言う前に

あなたも、
こんな言葉を耳にしたことはありませんか?

「Z世代は何を考えているかわからない」
「ゆとり世代は、叱られることに弱い」
「最近の若手は、主体性や積極性に欠ける」

──こうした言葉の奥には、戸惑いがあります。

だからこそ、
ちょっと立ち止まってみてほしいのです。

今、その言葉を発している管理職世代の方々も、若い頃には、上の世代から同じように向けられていませんでしたか。

「最近の若いもんは、何を考えているのかわからん」

これは、いつの時代も、
上の世代が下の世代に向ける、永遠の決まり文句です。

そして、言われた側はいつも、
こう感じていたはずです。

「自分たちは、ただ、育てられたように育ってきただけなのに」

今の若手世代も、まったく同じ場所に立っています。

スマートフォンが当たり前にある時代に生まれ、SNSで世界とつながりながら育ち、価値観の多様性を前提とした教育を受けてきた人たち。

彼らもまた、
与えられた環境の中で、ストレートに育ってきただけなのです。

そこに「扱いづらい」というラベルを貼ることは、彼らにとっては、理不尽な決めつけにしか映りません。


私が大切にしている「心合わせ」

ここで、
私が研修で大切にしている言葉をお伝えします。

それは、「心合わせ」です。

ベクトル合わせは、
上から下へ、矢印を揃えること。

『心合わせは、横に並んで、
お互いの違いを確かめ合うこと。』

ベクトル合わせは、「同じになろう」とすること。

『心合わせは、「違うままで、わかり合おう」とすること。』


そして私は、こう考えています。

ベクトル合わせの前に、心合わせが必要なのです。

順序が逆になると、組織は機能しません。

心が合っていない状態で
「方向を揃えろ」と言われても、
人は動きません。
動いたフリをするだけです。

逆に、心が合っていれば、
ベクトルは自然と揃ってきます。
「この人たちと一緒に進みたい」と思える時、人は同じ方向を見るからです。


「お互いの違いを理解する作業」が、コミュニケーション

では、心合わせとは、
具体的に何をすることでしょうか。

私は、こうお伝えしています。

コミュニケーションとは、お互いの違いを理解する作業のこと。

「同じであること」を確認する作業ではありません。
「違いを理解する」作業です。

これは、簡単なようでいて、実はとても難しい。

なぜなら、私たちはつい、
「自分と同じはず」
「わかってくれているはず」と思い込みやすいから。

特に、組織の中で立場が上になると、
その思い込みが強くなります。

「これくらい、言わなくてもわかるだろう」
「常識として、こうあるべきだ」
「自分が若い頃は、こうだった」

──こうした言葉が出てきた時、
それは心合わせが止まっているサインかもしれません。


ベクトル合わせを推進しているあなたへ

もしあなたが、
組織の中で「ベクトル合わせ」を推進してきた方なら、どうか一度、立ち止まってみてください。

否定しているのではありません。

ベクトル合わせは、
組織運営に必要なことです。

ただ、その前に、
部下や同僚の周りを、ゆっくりと歩いてみてほしいのです。

彼らが、何を見ているか。
何に喜び、何に戸惑っているか。
どんな言葉に傷つき、どんな言葉に救われているか。

そうした「違いを知る作業」を、
日常の中に少しずつ織り込んでいく。

それが、心合わせの始まりです。


心合わせの、第一歩

最後に、
私が研修でいつもお伝えしていることを、
書き残しておきたいと思います。

『人は、思い通りには育ちません。』

「こう育ってほしい」と願っても、
その通りには育たない。

「これを伝えたい」と思っても、その通りには伝わらない。

ではどうすれば、人は育つのか。

米国の心理学者が、こんな言葉を残しています。

人は、言うようには育たないが、されたように育つ。

つまり、私たちが部下や後輩に
何を言うか」よりも、「どう関わってきたか」が、その人の育ちを作っているのです。

ベクトルを揃えようと、矢印を指し示すこと。

それも大事です。

でも、その前に──

相手のことを、ほんの少し、知ろうとすること。

何を見てきたか。
何を大切にしているか。
何に喜び、何に傷つくのか。

それが、心合わせの第一歩です。

そして、組織のベクトルを揃えるよりも、ずっと深く、ずっと長く、人と組織を育ててくれる行為なのだと、私は信じています。


Profile
桐生 純子|コミュニケーショントレーナー
法人を中心に30年・延べ15万人の研修現場に立ってきました。
「伝わらない」の多くは、言葉ではなく姿勢の問題です。
その気づきを、記事を通してお届けしています。
著書『こころのスイッチ』


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

「育成しているつもりが、なかなか現場に活かされない」
そんな場面が組織の中で続いているとしたら。
それは個人の問題ではなく、
"関わり方"の設計から変えられることかもしれません。
管理職の対話力・1on1・心理的安全性をテーマに
企業研修・講演を行っています。

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