加速する絶滅 【ヴィーガンになる前に読む最後の肉食短編集】
銀河観測記録:地球観測日誌
記録者:ゼータ・プライム
観測歴:約2億3000万地球年
「観測報告を始めます」
私は記録装置に向かって語りかけた。銀河評議会に提出する最終報告書だ。私の声は通常よりも低く、少し震えている。この2万年の観測期間で、あまりにも多くを目撃してしまったからだろうか。同僚のガンマが隣で静かに聞いている。彼の皮膚の色は、感情を抑えようとする時特有の淡い灰色に変わっていた。
「地球という惑星の生命進化において、最も特異な種族の消滅プロセスを目撃しました。彼らは自らを『人間』と呼んでいました」
私はデータキューブを爪で軽くタップし、記録映像を再生した。青い惑星の表面で光の点が増殖し、やがて夜の半球が網目状の光で覆われていく。美しい光景だ。私たちの故郷の星でさえ、これほど明るく輝いたことはない。
「彼らの文明は、我々の観測記録上、前例のない速度で発展しました。石器から宇宙探査まで、わずか1万年程度。銀河標準では瞬きほどの時間です」
私は一度息を止め、思考を整理した。データに感情を混ぜてはいけない。これは科学的観測なのだ。それでも、かつて彼らの都市に降り立ち、彼らの音楽を聴き、彼らの本を読んだ記憶が、私の第三の心臓を締め付ける。
ガンマが喉の膜を震わせて補足した。「比較対象として、以前この惑星で繁栄した『恐竜』と呼ばれる種族は、衰退から完全な絶滅まで約1万年を要しました。隕石衝突という外的要因があったにも関わらずです」
彼の事実に基づく冷静な分析に、私は感謝の意を込めて頷いた。「対照的に『人間』は、自らの意志で絶滅へと突き進みました。彼らの最終的な絶滅プロセスはわずか300年。銀河でも稀に見る急速な自己消滅です」
記録装置に次の映像が映し出された。それは人間が「産業革命」と呼んだ時代の開始点だ。私は彼らの歴史書を読み、彼らの言語を学び、彼らの夢と恐怖を理解しようと努めた。それが観測者としての義務だった。
「彼らは化石燃料という、過去の生命体のエネルギーを掘り起こして燃やすという方法を発明しました。これにより、惑星の気候システムが急速に変化し始めました」
私は言葉を選びながら続けた。この瞬間、私の声が少し高くなった。感情を抑えることが難しくなっている。
ガンマが不思議そうに尋ねた。彼の四つ目は混乱を示すように左右に揺れていた。「彼らには因果関係の理解能力がなかったのですか?」
「いいえ、逆です」と私は答えた。「彼らは非常に優れた知性を持っていました。彼らの科学者たちは、文明崩壊の可能性を200年以上前に予測していました。気候変動のメカニズムは完全に解明され、対策技術も開発されていました」
私は一瞬、2096年のパリ会議に潜入した記憶を思い出した。人間たちが必死に議論していた姿。希望と絶望が入り混じる彼らの表情。観測者として干渉できなかった無力感。
「では、なぜ?」ガンマの問いは単純だが本質的だった。
「これが最も興味深い点です」と私は言った。私の皮膚の色が、思わず興奮を示す鮮やかな青に変わったのを感じた。「彼らは知っていながら、行動しなかった。彼らの社会システムが、長期的な生存よりも短期的な利益を優先するよう設計されていたのです」
次の映像には、激しい嵐、干ばつ、海面上昇によって荒廃する都市の様子が映し出された。私は一度だけ、大西洋の海面上昇で水没しつつあったニューヨークという都市を訪れたことがある。人間たちが必死に家族の写真を救出し、思い出を抱えて高台へ避難する姿を今でも忘れられない。
「彼らの物語は銀河の歴史上、最も奇妙なものの一つです。致命的な問題を完全に理解し、解決策を持ちながら、それを実行しなかった種族」
私の声に苦さが混じっているのを感じたが、抑えることができなかった。観測者としての冷静さを保つことの難しさを実感している。
ガンマは思慮深げに言った。「彼らの知性は、自らの本能を克服するほど発達していなかったということですね」
「正確には違います」と私は説明した。私の記憶回路が、最後に地球を訪れた時のことを鮮明に呼び起こす。北極近くの小さな村で出会った老女の言葉。「私たちの子孫のために」と言いながら、彼女が植えていた木々。「彼らの中には、問題を解決しようと懸命に努力した個体もいました。しかし、彼らの社会構造がそれを阻害したのです。彼らは自分たちが作り出したシステムの奴隷となったのです」
最後の映像が流れた。散り散りになった人間たちが、荒廃した環境の中でかろうじて生き延びる姿。彼らの人口は90%以上減少し、高度な技術を失い、再び原始的な生活に戻っていた。それでも彼らは踊り、歌い、物語を語り継いでいた。
「最終的に、彼らは完全には絶滅しませんでした」私の声は少し明るくなった。希望が感じられた。「少数の集団が適応し、生き残りました。今日の地球には約50万人の人間が残っています。彼らはかつての文明の影で、シンプルな生活を送っています」
私はあの村で見た子供たちの笑顔を思い出した。単純な技術で作られた風車。再利用された古い都市の部品から作られた住居。
ガンマは第二の心臓に手を当て、感慨深げに言った。「皮肉ですね。彼らは『進歩』と呼ぶものを追い求めて自らを破壊し、結局は原点に戻った」
私はガンマの方を見た。彼の表情には珍しい感情が浮かんでいる。観測対象への共感だ。それは禁じられてはいないが、奨励もされない。しかし、私も同じ感情を抱いていることを認めざるを得なかった。
私は最後の言葉を記録した。
「人間という種は、知性と自己破壊の希有な組み合わせを示しました。彼らは星々への旅を夢見ながら、自らの足元を崩した存在でした。銀河の歴史における警告として、この記録を提出します」
記録を終え、私はガンマに向き直った。私たちの目が合い、互いの瞳に映る地球の青い光を見た。言葉にはできない何かを共有している感覚があった。
「次はプロキシマ・ケンタウリ系に向かいましょう。そこでも知的生命体の兆候が観測されています」私は事務的な口調に戻ろうと努めた。
ガンマは窓の外の青い惑星を見つめながら言った。三本の指で窓ガラスに触れる彼の仕草には、別れを惜しむような優しさがあった。
「彼らも同じ道を辿るでしょうか?」
「それは彼ら次第です」と私は答えた。しかし心の中では、人間たちに出会ってから感じるようになった、奇妙な感情—希望—を抱いていた。「銀河の歴史は、賢明な種族よりも、運の良い種族で満ちています」
私は密かに記録していた人間の音楽—彼らが「ベートーヴェン」と呼ぶ作曲家の「第九交響曲」—を思い出した。彼らの言葉で「喜び」を称える壮大な歌だった。
私たちの観測船は静かに地球軌道を離れた。後には、かつては繁栄し、そして自らの短期的欲望に敗れた文明の残骸と、新たに始まりつつある単純な生活が残された。
歴史は繰り返す。しかし、人間ほど効率的にそれを行う種族は珍しい。そして、人間ほど希望を持ち続ける種族も珍しい。
私は密かに、いつの日か彼らと再会したいと思った。これは公式報告書には記さない感情だった。
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