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和の進化 【ヴィーガンになる前に読む最後の肉食短編集】

2035年、東京・原宿。

マクドナルド原宿表参道店の2階VIPルームでは、極秘の会議が行われていた。テーブルには数種類のバーガーが並び、周囲には緊張感が漂っている。

「本日は当社の今後10年の戦略を決定する重要な会議です」

中年の日本人男性、高橋誠一朗CEOが切り出した。彼はトーマス・コウ前CEOの後任として、数年前に就任した人物だ。日本マクドナルドでは過去にも原田泳幸氏など日本人CEOが存在したが、高橋は特に持続可能性戦略に精通した経営者として知られていた。

「私たちは今、重要な選択の岐路に立っています。グローバルな代替肉トレンドと、日本の食文化の融合をどう進めるか」

会議室の壁面には、マーケットデータが映し出されていた。日本の食肉消費量の推移が示すグラフでは、牛肉の消費が緩やかに減少し、豚肉が依然としてトップの座を維持していた。

「韓国市場の最新調査結果をご説明します」

マーケティング部長の山田優子が立ち上がった。彼女は先月まで本社のアジア太平洋地域戦略チームに所属し、韓国を含む複数のアジア市場を研究するプロジェクトを率いていた。

「韓国マクドナルドはご存知の通り、2016年以降は韓国企業のDI社が運営しています。彼らのブルコギバーガーは、地元の味覚に合わせた豚肉パティと特製ソースの組み合わせで人気を獲得しています。最大のポイントはソースの開発でした」

彼女はタブレットをスワイプし、写真を拡大した。

「韓国では大手食品メーカーのオットギ社がブルコギソースを開発し、マクドナルド韓国の全店舗に提供しています。このパートナーシップが成功の鍵でした」

CEOはうなずき、次に研究開発チームのリーダー、藤本健太に目を向けた。

「藤本さん、私たちのプロトタイプを紹介してください」

藤本は立ち上がり、テーブルの上のバーガーを指した。

「これが『プレミアム豚テリ』試作品です。キユーピーと共同開発した特製テリヤキソースで味付けした国産豚肉パティを使用しています」

会議のメンバーたちは一斉に試食を始めた。

「驚くほど良い味です」とCFOのジェーン・スミスが言った。彼女はアメリカ本社からの派遣役員だ。「これならシカゴ本社も納得するわ」

「ただし、代替肉への対応も必要です」サステナビリティ部門の鈴木がコメントした。「特に都市部や若年層市場では」

藤本は頷き、2つ目のバーガーを指した。

「こちらが『ハイブリッド豚テリ』です。国産豚肉50%と、九州産大豆由来の代替肉50%を混合したパティを使用しています。テリヤキソースは同じです」

再び試食が始まった。

「違いがほとんどわからない」と山田が驚いた。「ソースの味が主役になっているから」

CEOの高橋はしばらく考え込み、最後に言った。

「決めました。両方のバーガーを並行展開します。地域と店舗タイプによって比率を変えていきましょう。そして…」

彼は少し間を置いた。

「最も重要なのはソースです。『ザ・テリヤキ・プロジェクト』として、日本の調味料メーカーとのパートナーシップを強化します。キユーピー、キッコーマン、ミツカン…彼らとの共同開発を最優先にしましょう」

会議室には新たな空気が流れ始めた。


その3年後、2038年の秋。

渋谷スクランブルスクエア前の大型ビジョンでは、マクドナルドの新CMが流れていた。「進化するテリヤキ、変わらぬおいしさ」というキャッチコピーと共に、多様な年齢層の人々がテリヤキバーガーを楽しむ映像が映し出されている。

スクランブル交差点の一角にある「マクドナルド渋谷駅前フューチャー店」には長い行列ができていた。店内に入ると、タッチパネルには通常の「豚テリ」に加え、「ハイブリッド豚テリ」、「プラント豚テリ(完全植物性)」の3種類が選べるようになっている。行列の中にいた中学生のリョウタはスマートフォンで注文画面を友達に見せていた。

「どれにする?」

友人のケンタは肩をすくめた。「どれも同じテリヤキソースなんでしょ?なら、プラントでいいんじゃない?学校の環境プロジェクトでポイントもらえるし」

リョウタはうなずき、プラント豚テリのセットを選んだ。

注文画面の下には小さなアイコンが表示された:「カーボンオフセット:-1.2kg」

カウンターでは、店長の佐藤が新人スタッフを指導していた。

「お客様は味で選ぶんじゃない。選択肢そのものを選んでいるんだ」と彼は説明していた。「どの選択をしても、同じテリヤキの味が楽しめる。それが私たちの強みだ」

店の壁には「Regional Taste Project」のポスターが貼られ、全国各地の特産調味料を使用したご当地テリヤキバーガーのラインナップが紹介されていた。九州醤油テリ、北海道バター醤油テリ、瀬戸内レモンテリ…

その隣には「マクドナルド×日本の味」という見出しの下、キユーピー、キッコーマン、ヤマサ、エバラ食品といった日本の調味料メーカーとのコラボレーションを紹介するパネルがあった。

リョウタとケンタは窓際の席に座った。ちょうどその時、電光掲示板に本日の販売比率が更新された:「従来肉:30%、ハイブリッド:45%、完全植物性:25%」

「去年より植物系が増えたな」とケンタが言った。

「でも味は変わらないよね」リョウタはバーガーを一口かじった。「このソースがあれば、中身は何でもいいかも」

窓の外では、紅葉が始まった街並みの中、様々な年齢、様々な服装の人々が行き交っていた。それぞれが異なる選択をし、異なる道を歩んでいる。しかし、彼らを繋ぐのは、時に共通の味わいと記憶だった。

佐藤店長はレジの上に掲げられたメッセージを見上げた。

「変わるために、変わらぬものを大切に」

それは、高橋CEOが3年前にブランド再生のために掲げた言葉だった。​​​​​​​​​​​​​​​​

#創作大賞2025 #お仕事小説部門 #カーボンダイエット #ヴィーガンになる前に読む最後の肉食短編集

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