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サイレント・サスティナブル 【ヴィーガンになる前に読む最後の肉食短編集】

「今年のエコ・ハーモニー・フェスティバルは、史上最もカーボンニュートラルなイベントになると約束します!」

大手音楽プロモーター兼環境活動家のマイケル・グリーンは、記者会見でマイクに向かって宣言した。彼の背後には巨大なデジタル看板が「音楽で地球を救う」というスローガンを輝かせている。

「出演者の移動には100%電気自動車を使用し、ステージ照明は全て太陽光発電で賄います。食品はすべてオーガニック、ローカルフード。使い捨てプラスチックは一切使用せず、会場にはカーボンオフセット仕様のコンポストトイレを設置します」

会場内のジャーナリストたちは熱心にメモを取っていた。環境保護に熱心な大物アーティスト「サスティナブル・ソウル」が出演する今回のフェスティバルは、音楽業界と環境活動の融合における画期的な試みとして注目を集めていた。

グリーンは続けた。「そして何より、今回のフェスティバルで発生するわずかな炭素排出も、アマゾンの森林再生プロジェクトを通じて完全にオフセットします。我々はこの地球と次世代に対する責任を果たします」


フェスティバル当日、主催者の予想を上回る観客が会場に詰めかけていた。サスティナブル・ソウルのファンたちは、公共交通機関やカーシェアリングを利用するよう呼びかけられていたが、会場周辺の道路は渋滞で埋め尽くされていた。

ステージ裏の楽屋で、サスティナブル・ソウルのリードボーカリスト、リバー・スカイは落ち着かない様子だった。

「これ、どうするんだ?」彼は焦った顔でマネージャーのジェーンに尋ねた。「通常の20%のパワーでライブをやれっていうのか?」

「太陽光で賄える電力はこれが限界なの」とジェーンは肩をすくめた。「全部の機材をフル稼働させたら、30分で発電容量をオーバーするわ」

「でも俺たちのショーは照明とパフォーマンスがすべてなんだぞ!」リバーは髪をかき上げた。「レーザーショーも、スモークマシンも、高解像度LEDスクリーンも使えないなんて」

「主催者に相談してみる」とジェーンは言った。「ちょっと待って」

彼女がグリーンと話している間、リバーは窓から外を見た。駐車場は車で埋め尽くされ、フードコートでは何千もの紙皿や木製カトラリーが使われていた。「環境に優しい」と謳われていたが、数万人規模のイベントは必然的に大量の廃棄物を生み出していた。

ジェーンが戻ってきた。

「彼らは妥協案を提示してきたわ。バックアップ用のディーゼル発電機があるらしいの」

「え?ディーゼル?」リバーは眉をひそめた。「それって全く環境に優しくないじゃないか」

「彼らの言い分は、ショーを中止するよりはマシだってこと。それに、排出される炭素はオフセットするから『実質的には』カーボンニュートラルだって」

リバーは黙りこんだ。彼のバンド「サスティナブル・ソウル」は環境をテーマにした楽曲で有名で、彼自身もヴィーガン生活を送り、環境NGOの顔として活動していた。

「皮肉だな」彼はつぶやいた。「環境に優しいコンサートを実現するために、結局は従来のエネルギーに頼らなきゃならないなんて」


ショーは予定通り開催された。ディーゼル発電機の轟音が遠くで響く中、サスティナブル・ソウルは彼らの代表曲「グリーン・フューチャー」を熱唱していた。

満員の観客たちは歓喜の声を上げ、何千ものスマホが一斉に空に向けられた。無数のLEDスクリーンが夜空に浮かび上がる様子は壮観だった。

ステージ裏では、グリーンがマネージャーのジェーンに近づいた。

「問題解決してよかったよ」と彼は小声で言った。「これで我々のメッセージは広がる」

「でも嘘じゃないの?」とジェーンが言った。「このイベントで使っている電力、9割以上が化石燃料由来よ」

「それが問題なのかい?」グリーンは肩をすくめた。「大事なのは、人々が環境について考えるきっかけを作ることだ。そのためには、少しくらいの妥協は必要さ」

「そうかもね」ジェーンは半信半疑だった。「でも次のツアーはどうするの?45都市を回るワールドツアーだよ?」

グリーンは自信満々に答えた。「すべての会場でカーボンニュートラルを実現するさ。もちろん、今日のような『創造的な解決策』を使ってね」

ステージ上では、リバーが観客に向かって叫んでいた。

「地球を救うために、みんなの力が必要だ!今夜、ここにいるみんなは変化の担い手だ!」

彼の上空では、宣伝用の小型飛行機が「エコ・ハーモニー・フェスティバル」の横断幕を掲げて飛んでいた。


フェスティバルの翌日、リバーは自宅のベランダでコーヒーを飲みながら、オンラインニュースを読んでいた。

「史上最もエコなフェスティバル大成功」との見出しが躍っている。記事には、イベントが排出した二酸化炭素はすべてオフセットされ、「実質的にゼロエミッション」を達成したと書かれていた。

彼はジェーンからのメッセージを開いた。次回のワールドツアーの詳細が記されていた。「全会場でカーボンニュートラル実現」の文字の横には、小さく「*オフセット使用」という注釈があった。

リバーはため息をついた。スマホの画面には「グリーン・フューチャー」のミュージックビデオが流れていた。4Kの高解像度映像で撮影され、複雑な特殊効果が施された美しい映像。その制作に使われた電力量や計算資源について、彼は考えたこともなかった。

彼は画面をオフにした。しばらくの間、真の静寂が訪れた。

「もしかしたら」彼はつぶやいた。「本当にサスティナブルな音楽って、サイレントなのかもしれない」

しかし、そんな音楽で誰がスタジアムを埋めることができるだろう?彼は笑みを浮かべた。皮肉な笑みだった。

#創作大賞2025 #お仕事小説部門 #カーボンダイエット #ヴィーガンになる前に読む最後の肉食短編集

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