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女神憑き: 02話 ライブハウスにて

 百人くらい入る小ぶりのライブハウスだ。

 亜美の所属するバンド「グランナッパー」は前座で二曲演奏する。会場をあっためる役目。
 客入りは悪くない。メインのバンドのファンが殆どだろう。

 亜美のバンドにもホームのようなハコで、客層は冷淡ではないが耳が肥えている。まだ皆街の喧騒を引きずりながら、ライブに期待してザワついている。

「どーも『グランナッパー』です。二曲やらしてもらいます。最初はみんな知ってるカバーで、聞いてください!」
 リーダーが客に告げる。
 亜美やメンバーも準備万端。

 グランナッパーは四人構成で、リーダーがベースとメインボーカル、ドラム、キーボード、紅一点の亜美はギター。
 たまにワンマンもやり、物販もそこそこける中堅どころのバンドだ。
 亜美も結成時から所属し数年経っている。メンバーも変わらず仲がいい。思えば奇跡的に居心地のいいバンドだ。

 タ、タ、タンタンタン!
 ドラムフィルを合図に、曲が始まる。

 亜美は足を踏ん張り、目一杯ピックを振り下ろした。
 イントロの爆音がアンプを突き抜け、狭いハコの壁床の輪郭が振動でブレる。
 客の身体も吹っ飛べと全ての力を叩き込んで音圧と旋律を生み出す。
 幾人かは受け止めて歓声をあげてくれる。

「姐さんの入りは世界一威勢がイイ」

 仲間にそう冷やかされる所以だ。イントロでヘロヘロなんて笑い話もある。
 他は人並みってことかい。そうだろうさ。でもイイよ!

 開始五秒で精魂尽きても良しというプレイング。
 瞬間ごとにそう念じて亜美は弦を叩き込んだ。

 先程突っ込んできたトラックのイメージが脳裏に浮かぶ。
 フロアにグルーヴが広がる。初見の客も殆ど輪の中に入っている。

 ――今日はハマる日だ!

 二曲目、今日のラストはバンドのオリジナル曲で、亜美のギターソロが長めだ。
 最初で会場のテンションも上がっているのでやりやすい。
 ボルテージ全開でも乗り切れる。

『――フ、フフフーン♪』
 香織の透けた身体が、舞台袖でノリノリに、腕振り腰振り踊っていた。

 上手くはないが、ダンサーに見えなくもない。
 と言っても亜美以外に姿は見えない。

 生前の香織はここでは客席にいる側だった。
 演奏に没頭する亜美には声をかける余裕はない。
 バンドも自分も会場も香織も一体感を感じて心地良い。

 ――ソロだ。
 リフを刻み、アドリブも思いの儘に入れ、観客に届ける。
 亜美は陶酔した顔をメンバーに向け、音色とリズムを合わせソロも終盤に入る。

 ――シャン、シャン、シャンシャンシャン。
 鈴の、いやタンバリンの音がする。

 結構リズムに合う。近い。
 亜美の真横で香織がタンバリンを鳴らしていた。
 汗を光らせながら、ちらりと亜美を見、ニッと笑って演奏に参加する香織。

 観客はどよめいた。タンバリンが宙に浮かび勝手に鳴っているように見えるのだ。

「これ演出? だよね」
「あのギター姐さん、時々こういう手品みたいの入れるンだよ」
「ピックから青い電流火花みたいのがでてたことも」
「意外な一面」
「けっこうイケるな!」
 客がテンションを取り戻し、熱狂に愉快な演出への賞賛が加わった。

 亜美は咄嗟にタンバリンが自分の体の近くに来るように調整し、香織と向かいあい演奏を合わせる。
 亜美のギターが宙に浮いたタンバリンと相対しているように見える。あまり離れては即興の手品としても不自然だ。

 ソロが終わりしばらくして曲も終わった。
 羽虫か妖精のように亜美の周囲を飛び回っていたタンバリンは最後、ドラムのフィニッシュと共に亜美の頭にシャリンと乗っかった。
 かなりウケた。

「いやー、亜美姐さんいいね!」
 演奏が終わった楽屋ではメンバーが亜美を労った。
 亜美は演奏の消耗と虚脱でまだ言葉が出ず、ニンマリ微笑むくらいしかできない。

『亜美、楽しかったね! 飛び入り演出はサービスだよ』

 正直、香織の予測できないイタズラが広まるとヤバい気もするが、気分はかなり良かった。

「……楽しかったね」
 メンバーと香織にいう。

 ――香織の参加もうまいことやれば面白いかも。みんなに相談かな。
 死んだ香織の幽霊が亜美に憑いていることを、メンバーは知らない。
 観客同様、亜美の手品的演出と思っている。
 いつか伝えなければならないような気もするが、今日は皆で成功を祝したい。
 そういえばオバケ状態の香織も汗をかくんだな、とつらつら思った。

 この時の録画にうっすら香織の姿が映り込んでおり、ネット上で話題となるのだが、それはまた後日の話である。


 


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