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9. Yurika|読む人の運命を加速させる恋愛小説

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「もしもし」
「・・・もしもし」
「友利花さん、初めまして」
「初めまして」

これが、洸太さんの声。

「今、正座してるの?(笑)」
「してますよ、本当にしてます(笑)」
「本当にしてるんだ(笑)」
「はい(笑)」
「友利花さん、電話してくれないかと思った。警戒してるかなって」
「そりゃ警戒しますよー。でも大丈夫です」
「ありがとう。今日は昼からお仕事?」
「そうです、昼から仕事です」
「最近、忙しい?」
「そうですね。コロナ始まってからずっと忙しいですが、でも最近は少し落ち着いてきたかな」
「そうなんだ」
「はい」

洸太さんの、声。洸太さんの、話し方。

「確かに友利花さん、テキストでやりとりしていた印象とは声が少し違うかも」
「そうなんですよ。だから私、自分の声も嫌いだし、電話も嫌いなんです」
「印象と違っても、全然変な感じはしないよ。声の方が、より芯の強さを感じるかな」
「そうですか?」
「うん。テキストからも感じてたけど」
「それは、褒められてるのかな?」
「素敵だと思うよ。友利花さんの芯の強さ」
「あ、ありがとうございます。・・・そうやって既婚者なのに口説こうとするのやめてもらえますー?」
「あ、ごめん。いやでも、口説いてるわけじゃなくて」
「ホントですか?」
「うん。本当にそう思っているから、言っただけ」
「そうですか」

どうしよう。
好きな声、好きな話し方。
洸太さんの声は、私の何かを揺らす。私の深い何かを。

「ハハハハハッ」
「洸太さん、さっきから笑いすぎですよね(笑)」
「だってなんか面白いんだもん(笑)」
「私そんな面白いこと言ってます?」
「いやなんて言うんだろう。なんか絶妙で」
「絶妙?何が絶妙なんですか?」
「なんだろう、わからない。なんかこう、ピタッとフィットする感じというのかな」
「なんでそれがそんなに笑えるんですか(笑)」
「わかんない(笑)けどなんか、笑っちゃう」
フィットする感じ。
わかる。洸太さんが言ってること、わかる。
洸太さんの声、話し方、笑い方も全部、合わさっちゃう。私の何かと。
なんだろう、これ。

「友利花さん、焼き鳥好きなんだよね?」
「はい、好きですよ。洸太さんも好きって言ってましたよね」
「うん、好き。歳とってからなんか脂っこい肉より鶏肉が好きになった」
「わかります」
「わかりますって友利花さん、まだ26歳でしょ(笑)」
「ダメですかー?わかるんだから仕方ないでしょ」
「まあでも、好きな食べ物が一緒でよかった。僕と友利花さん、好き嫌い本当に似てるよね」
「本当ですよね」
「お米が好き」
「はい、好きです」
「でも柔らかく炊いたご飯は嫌い」
「はい、嫌いです。ワガママですよね(笑)」
「まあ、嫌いなんだから仕方ない」
「まあそうですね」
「豆類も嫌い」
「はい、嫌いです」
「本が好き、読書が好き」
「はい、好きです」
「好きなものが一緒のおかげで、出会えた」
「そうですね」
「今度さ、一緒に焼き鳥行く?」
「はい?」
「一緒に焼き鳥行かない?」
「はい?」
「いや、聞こえてるよね(笑)」
「聞こえてます(笑)」
「一緒に焼き鳥行こうよ」
「えーどうしようかなー」
「お願い」
「えー。まだ私、洸太さんのこと信用しきってないですからね」
「そうかぁ」
「そうですよ。だってマッチングアプリで私以外の人も口説いてるんでしょ」
「口説いてないよ。友利花さんだけだから」
「ホントですかー?」
「本当に。こんなに楽しくて、ずっとつながっていたいって思うのは、友利花さんだけ」
「そうですか。でも———」洸太さんは、既婚者だから。
「でも?」
「いえ、なんでもないです。焼き鳥は、考えておきまーす」

「名前、なんていうの?」
「名前?」
「この前言ってた、友利花さんがデートしてる人」
「ああ、直樹、さんです」
「直樹さん」
「はい」
「結構、会ってるの?」
「そうですね。たまにランチ行くぐらいですけど。だからデートって言っていいのか」
「ランチでも、デートでしょ」
「まあ・・・」なんだろうこの、胸につっかかる感じ。
「応援、するよ」
「応援?」
「うん」
「それは私と直樹さんのことを?」
「そう」
「そうですか」そうだよね。
「なんでも相談して」
「はい、ありがとうございます」
「友利花さんの、力になりたい」
「私の?」
「うん」
「なんで?」
「なんでだろう。わかんない。なんか、放っておけない」
「私のことを?」
「うん。幸せに、なってほしい。友利花さんには。どうしても」
私の、幸せ。

「浮気された時、辛かった?」
「そう、ですね」
「そうだよね」
「でも、大丈夫です」
「ほら、また言った。大丈夫って」
「あ。いやでも、ほんともう大丈夫だから」
「今、目瞑れる?少しだけ」
「目ですか?はい、わかりました」
「浮気されて、どんな気持ちだった?」
「えー、もうあまり覚えてないです」
「そんなことないよ。友利花さんの中に、ちゃんと痛みが、ある」
「そうですか?」
「うん。自分の体に、意識向けてみて」
「体に?」
「うん」
「わかりました」

「・・・何か、お腹にあるの、わかる?」
「お腹?」
「うん、つっかかる感じが、あると思うんだけど」
「はい、なんとなく」
「ちょっとそれと一緒にいてみて」
「一緒に?」洸太さんは、不思議。
「うん、その感覚と、ただ一緒にいてあげて。浸る感じで」
「わかりました」

「『なんで、私だけ』」
「え?」
「『なんで、私だけ?こんなに頑張っているのに、なんでうまくいかないの?』そう、思うよね」

洸太さんの、深い、声。

「どんな友利花さんでも、いいんだよ。弱くても、傷ついても、いいの。どんな自分も、抱きしめてあげて。僕はどんな友利花さんでも、味方だから」

まずい。私———

「・・・ごめんなさい」
「いいんだよ。謝らないで。泣くのは、悪いことじゃない」
「はい。でももう、大丈夫です」
沙織の前でも、泣かなかったのに。
「僕もあるよ」
「何がですか?」
「女性のこと、信じられなくなったこと」
「そうなんですか?」
「うん」
「浮気、ですか?」
「あ、うん。友利花さんのとは、ちょっと違うけど」
私のとは、違う?「そう、なんですね」
「うん。まあでも、大丈夫」
「ほら」
「え?」
「洸太さんも、大丈夫って言った」
「ホントだ(笑)」
「人のこと言えないですよーだ」
「ホントだね(笑)ごめんごめん」
「何でも、話してください」
「え?」
「洸太さんも、何でも話してください。私でよかったら、何でも、聞きます」
「・・・うん。ありがとう」

電話、あまり好きじゃなかったはずなのに、洸太さんとなら———

「そろそろ」
「はい」
「もう20分も経ってる」
「ホントですね」
「まだ正座してるの?(笑)」
「さすがにもうソファーに座ってますよ(笑)」
「よかった。じゃあ、緊張はほぐれたんだ」
「はい、洸太さん、話しやすいから」
「よかった」
「はい」
「・・・」
「・・・」

終わっちゃう———

「じゃあ、そろそろ切ろっか」
「そうですね」
「楽しかった。ありがとうね」
「こちらこそありがとうございます。楽しかったです」
「じゃあ」
「はい」
「また」
「・・・また」

私はゆっくりと、電話を切った。



それからしばらくして、洸太さんから連絡が、来なくなった。

>>次回話


【あらすじと初回話】


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