おそばとおさん
13日と29日は妖怪に関するおもしろ冊子『大佐用』のあたらしい号の公開日ですので、あたらしい号(vol.322)からの内容のぷち紹介です。

今回のメインの特集は、先月の蠱毒祭のときに『妖界東西新聞』にアップしたイラストで骨寄せ再生させた骨皮道人にも填詞の戯文を書かせた「めんつゆ蝸牛」についてでした。

「かけると蕎麦の様子が変わってしまう」といったむかしのひとの知識群は、17世紀ごろまでの古いものと、18~19世紀ごろまでのものとで少し違いはあるようで、「田螺と蕎麦の食い合わせは悪い」というのも、あとのほうになってから良く見られるようになって来るようダ、といった様子でしたので、蝸牛についても、仮にほかにも似たおはなしが出て来るかも知れないとすると、あとのほうの時代あたりなのかも知れませんナ。

後半の特集ページは、このおばさんの絵は「おさん狐」なのか? という話題です。
この絵を「おさん狐」の絵として掲載してる本があった、ということなのですが、遡ってみると、キチンと目的を持った検索の結果、これが「おさん狐」だと提供されてたということが知れて、さらにはてなマークが出てる、というのが今回の展開です。
人間の身体の部分(目、口、耳、鼻、手、足)が、それぞれ駄洒落を言いながら、体の中で自分が一番偉いと話し始める。
手近なところで、この絵(落合芳幾『心学身之要慎』)の説明を拾ってみても、図録などでは「おさん狐が描かれてますヨ」などのことは出て来てませんでした。
この芳幾の絵が「おさん狐」のページに「おさん狐」の絵として載ってるというはなしは、teraさんからもうかがってたのですが、改めて錦絵の填詞をぜんぶ読んでみても、その内容のなかには「狐」という話題自体が登場してませんし、着物の模様などにも「狐」を示すものはないので、データベースの側になにか早計があるのではないかと思われるのですが、どうなんでしょうネ。
着物の模様は「三」のかたちが交互に敷き詰められてる「三木」ですが、別に「おさんどん」なことを示してるダケだと言えば、それで終わってしまって、わざわざへんげ動物な「おさん狐」を示してる、あるいは暗示してる絵であるとは考えづらいですし……。


帯に「おさん」という字がある――という記載について、帯にある提灯と釣鐘の絵に「おさん」という字があることは確かですが、それが「おさん狐」を示す記号だというわけでもありません。
この文字ダケから「おさん狐」だとしてるとしたら、錦絵の内容(狐狸や妖怪などが主題になってるわけでもない)とは無関係に「おさん狐」を当てはめてるデータなダケのような雰囲気もあります。
おばさんからしっぽが出てるわけでもないですし(もともと、芳幾はこのおばさんのデザインを師匠である国芳の『きたいな名医 難病治療』に描かれてる虫歯のおばさんからそのままポーズ利用して採ってます)仮に狐なのだとしたら、もっとそれらしく描ける、あるいは、もっと相応な素材を採って来るでしょう。

そもそも、江戸ッ子の芳幾や魯文たちが、「顔の部品たち」や「手」や「足」がお互いを罵り合って口喧嘩をする主題の狂画に、「おさん狐」を描き込むというのも、作品単体として少し判断としては疑問ではありますからネ。ハテ……。
