ZINE『DX変身ベルト』
0章|効率化の末路
「DXの相談に乗ってほしい」
まあ、
『Web屋』の看板掲げてれば、
当然と言えば当然だ。
だが、非常にまずい。
絶望的にまずい。
最初の一言は、だいたい同じだ。
「DXを進めたい」
「DXをやらないといけない」
「DXの相談に乗ってほしい」
ところが、話を聞き始めると、
何をしたらDXになるのかが、まったく定義されていない。
「DX」って言葉、どこで仕入れてきた?多くの場合これだ。
DXという言葉だけがある
目的は曖昧
成果のイメージも揃っていない
その状態で、
「何かやらなきゃいけない」という空気だけがある。
「DXステッカー」でも作って、あちこち貼ったらいい。もっとだるいのは、
すでに施策が決まっているパターンだ。
このツールを入れたい
この業務を自動化したい
このフローをデジタル化したい
そして、確認のように聞かれる。
「これ、DXになりますよね?」
こっち見んな。効率化
作業削減
業務改善
それ自体が悪いわけじゃない。
必要なことでもある。
でも、それはただのデジタル化だ。
それをDXと呼んだのは誰なんだ?
結果として起きるのは、
施策は増える
現場は忙しくなる
判断は人に寄る
例外処理が溜まる
それで「DXは進んでいること」になっている。
「効率化」はサボるためにするもんだよ?総量を増やすための効率化は、
事故を誘発する上に、
ひたすら労働単価を下げる。
DXの相談がだるいのは、
これに尽きる。
何をしたいのかは曖昧
でも、何かをやる前提だけは固い
ズレている前提のまま、施策の話に入る
その状態で
「いい感じにDXしてください」と言われる。
その罰ゲーム誰得なの?1章|DXの定義
「DX」とは何なのか。
2016年頃のお役所文書のどっかにあった、
IDC Japanの定義が、
「正しい」とされてる上に「芯も食ってる」
珍しくいい定義だ。
胡散臭い社名してるくせに、やるじゃねえか。
「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、
内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、
第三のプラットフォームを利用して、
新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、
ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで、
価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」
長いな。
でも、悪くない。
60点、及第点あげよう。
僕が正解を書こう。
「擦った揉んだあっても、価値を創出できる勝ち確の場を作ろうね。」
これがDXの目的だ。
業務効率化
作業削減
自動化
コスト削減
これらは目的ではない。
色々書きたがりのIDC Japanですら書いていない。
必要な場合はある。
だが、それ自体をDXと呼ぶ根拠は、定義のどこにもない。
多くのDXがズレる理由は、単純だ。
目的を読まずに、手段だけ拾っている。
クラウド
データ
アナリティクス
ツール導入
これらは、定義の中では環境条件だ。
価値を生む主体でも、ゴールでもない。
もう一つ重要なのは、この定義が最初から外部を見ていることだ。
顧客
市場
エコシステム
DXは、内向きの改善活動ではない。
外部との関係が変わる話だ。
内部だけを速くしても、
価値も優位性も生まれない。
一行で言うと、
DXは、業務を速くする話ではない。
価値が生まれる関係を作り直す話だ。
あ、2行になっちゃった。
2章|「競争優位=比較優位」でDXは失敗する
なぜ、多くの企業でDXは失敗するのか。
DXの目的は
価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。
僕も反対しない。
問題は、この言葉の読み方だ。
多くの場合、「競争優位」はこう読まれる。
他社より安い
他社より速い
他社より高性能
つまり、他より優れること。
「競争優位」を「比較優位」に矮小化してしまう。
ここで、DXは早くも、そして決定的に壊れ始める。
「他より優れる」という発想は、
同じ競技に参加している前提だ。
同じ市場。
同じ評価軸。
同じルール。
その中で、順位を一つ上げに行く。
これは競争ではある。
だが、価値創出ではない。
考えてみてほしい。
「他より優れる」ためにやっていることは、だいたいこれだ。
既存の価値を、より安く届ける
既存の体験を、より速く回す
既存の仕組みを、より効率化する
これで生まれるのは、
価値の再配分だ。
誰かが取ってた分を、
別の誰かが取るようになる。
奪い合いが速くなっているだけで、
価値そのものは増えていない。
ここを誤読すると、
DXは決まった形で壊れ始める。
失敗の入口①|改善に逃げる
競争優位を比較優位だと思うと、
まず「改善」から始めたくなる。
現状を整理する
無駄を減らす
少しずつ良くする
だが、改善は
今の競技を前提にする行為だ。
この時点で、
価値創出
競争優位
は消える。
残るのは、
「ちゃんとやっている感」だけだ。
失敗の入口②|効率化を主語にする
次に出てくるのが、効率化だ。
もっと速く
もっと安く
もっと少人数で
比較優位の世界では、
これは正しい。
だが、それは
既存価値の取り合いを
高速化しているだけだ。
その状態でDXを進めると、
現場増圧装置が完成する。
要求は増える。
判断は詰まる。
人が壊れる。
DXが失敗したのではない。
比較優位をDXだと勘違いしただけだ。
失敗の入口③|判断を自動化しようとする
比較優位の世界では、
判断は邪魔者になる。
だから、こう考え始める。
判断を減らしたい
判断を速くしたい
判断を機械に任せたい
だが、ここに決定的な誤解がある。
判断は処理ではない。
判断とは、
引き受けを発生させる行為だ。
それを自動化しようとすると、
通すが、引き受けない
ケースバイケースで逃げる
AIやツールを主語にする
という形で現れる。
判断は消えない。
見えなくなるだけで、
現場に落ちる。
失敗の入口④|仕組み化を万能だと思う
判断を自動化できると思うと、
次にやりたくなるのが「仕組み化」だ。
ルールを作る
フローを描く
標準化する
ここで起きるのは、
判断と処理の混同だ。
処理は仕組みにできる。
判断は仕組みにできない。
判断まで仕組みに押し込むと、
例外が増える
ルールが肥大化する
現場が解釈係になる
最後に出てくる言葉は、決まっている。
「想定外でした」
想定外とは、
判断を仕組みの外に追い出した痕跡だ。
ここに挙げた失敗は、
技術の問題ではない
能力の問題でもない
意識の問題でもない
競争優位を、比較優位と誤読した結果だ。
改善に逃げる
効率化を主語にする
判断を自動化しようとする
仕組み化を万能だと思う
全部、
比較できる前提を捨てられていないだけ。
比較優位の世界では、
DXは必ず消耗戦になる。
では、
比較不能な価値は、どうやって成立するのか。
まずは、「価値」とは何かをはっきりさせよう。
3章|競争優位=価値創出
ここで、一度立ち止まろう。
「価値を創出する」とは、
本来どういうことか。
それは、
それまで存在しなかった
比較できなかった
測りようがなかった
「ナニカ」が、
初めて成立することだ。
僕の定義は、こうだ。
価値を創出するとは、
比較そのものが成立しない場を作ること。
比較できないものは、
「他より優れる」ことができない。
順位も付かない。
ベンチマークも取れない。
だが、特定条件下では、
確実に通ってしまう。
そんな、オリジナルな価値を提供する、
唯一無二のプレーヤーだけが
競争優位性を確立してしまう。
だから、競争優位の正体はこうなる。
競争優位とは、
他人と競うことではない。
他人が参加できない競技を作ること。
ここで言う「競技」は、比喩じゃない。
その場でしか成立しない
その条件でしか通らない
その胴元が引き受けている
そういう場の設計の話だ。
同じ競技に参加している限り、
どれだけ頑張っても、
評価軸は他人持ち
ルール変更に弱い
消耗戦になる
DXで「効率化」に走るほど、
この罠にはまりやすくなる。
逆に言えば、
競技を作った瞬間
ルールを引いた瞬間
通過条件を決めた瞬間
そこに、競争優位が生まれる。
比較されない。
値下げも起きない。
説明も最小で済む。
なぜなら、
そこを通るしかないからだ。
ここで、DXの話がようやく現場に戻ってくる。
DXとは、
「他より優れるための手段」ではない。
DXとは、
自分しか参加できない競技
──「勝ち確の場」を設計するために、
デジタル環境を利用することだ。
では、その競技はどこに作るのか。
誰が胴元になるのか。
どこまでを引き受けるのか。
先に言っておこう。
DXは「カスタムメイド」だ。
「これが正解」なんて、書けやしない。
だが、必要な「姿勢」は共通している。
4章|場と胴元
比較不能を成立させる条件
競争優位とは、比較で勝つことではない。
自分しか参加できない競技を作ることだ。
ここで言う競技は、比喩じゃない。
場と胴元が揃ったとき、
初めて成立する、実務の話だ。
場とは何か
場とは、場所のことじゃない。
部署名でも、ツール名でもない。
出来事が、価値として確定する条件の束だ。
最低限、次の三つが固定されている必要がある。
何が通るか
どこで確定するか
確定した結果を、誰が引き受けるか
この三つが揃った瞬間、
出来事は「ただ起きたこと」から
「価値として通ったこと」に変わる。
逆に言えば、
どれか一つでも曖昧な場では、
比較不能な価値は成立しない。
胴元とは何をする存在か
胴元は、判断をしない。
正しさも決めない。
プレイもしない。
胴元がやるのは、場を開き、結果を引き受けることだけだ。
この条件なら通す
この条件なら通さない
通した結果は、自分の名前で残る
それ以上でも、それ以下でもない。
だが、この一点がない競技は、成立しない。
なぜ「胴元」がいないと比較不能にならないか
比較不能とは、
「評価されない」ことではない。
評価軸が、その場にしか存在しない
という状態だ。
相場で測れない
他社と比べられない
ベンチマークが成立しない
この状態を成立させるには、
「この結果は、ここで確定させる」
「この結果は、胴元が引き受ける」
という宣言が必要になる。
それを言えるのが、胴元だけだ。
胴元が不在の場で起きること
胴元がいないと、
場は必ず次の方向に流れる。
比較できる形に落とす
標準に合わせる
相場に寄せる
なぜか。
誰も結果を引き受けたくないからだ。
比較可能にしてしまえば、
判断は外に逃げられる
責任は分散できる
失敗しても言い訳が立つ
これが、
「競争優位を比較優位に落とす」構文だ。
胴元の最小単位は「自分」
胴元の最小単位は、部署でもチームでもない。
自分だ。
理由は単純で、
決められる
引き受けられる
逃げられない
この三つが同時に成立する最小単位が、
自分だからだ。
ここで言う「自分」は、感情の話じゃない。
制度としての自分の話だ。
ここまでは引き受ける
これは引き受けない
この条件なら通す
この線を引けない人間は、
胴元にはなれない。
企業とは何か
企業は人格じゃない。
理念でも、善悪の主体でもない。
企業とは、
複数の「自分」を束ねて、
個人では引き受けられない規模の競技を成立させる胴元装置だ。
個人では持てない規模
個人では回せない速度
個人では背負えない責任
これを引き受けるために、
企業という制度がある。
DXとは何をしているのか
ここまで来て、
DXの正体ははっきりする。
DXとは、
効率化ではない
自動化でもない
デジタル化でもない
企業が胴元として、
比較不能な価値が通る場を引き受け直す行為だ。
デジタルは、
そのために使える環境にすぎない。
最初に決めるべきこと
DXで最初に決めるのは、手順じゃない。
次の三つだけだ。
どこが場か
誰が胴元か
どこまで引き受けるか
これが決まらないDXは、
必ず比較優位に回収される。
まとめ
比較不能は、自然には生まれない
場と胴元が揃ったときだけ成立する
胴元は、判断を奪わず、結果を引き受ける
企業は、胴元を束ねる制度
ここまでが、設計の前提条件だ。
「どうやるか」は書けない。
なぜなら、DXは標準化とは真逆の施策だからだ。
標準化は、比較を前提にする。
DXは、比較を拒否する施策だ。
だから、DXは横に並べられない。
代わりに、
胴元として立つために、
必ず自分に突きつける問いを並べる。
ここから先は、
ノウハウじゃない。
覚悟の話だ。
5章|胴元として立つための問い
ここまでで分かったことは一つだけだ。
DXは、
正解を探す行為ではない。
胴元として立つ覚悟を決める行為だ。
だから、この章では
「どうやるか」は書かない。
代わりに、
これに答えられないなら、DXを始めてはいけない問いだけを書く。
問い①|この競技は、誰が胴元か
この場で起きた結果は、誰の名前で残るか
失敗したとき、逃げられないのは誰か
「現場判断」で片付けたくなった瞬間、誰が前に出るか
ここに答えがないなら、
そのDXは成立しない。
問い②|何を通し、何を通さないか
どこまでを「通す出来事」とするか
どこから先は、最初から通さないか
通さないと決めたとき、現場は止められるか
「柔軟に対応する」は、
通過条件の定義ではない。
問い③|通した結果を、どこまで引き受けるか
金銭的な損失は誰が引き受けるか
評判・信用の毀損は誰が引き受けるか
判断の誤りは、誰の判断として残るか
「会社として対応します」は、
引き受けの定義ではない。
問い④|比較に逃げる誘惑を、どう断つか
相場に寄せたくなったとき、誰が止めるか
他社事例を真似したくなったとき、誰が拒否するか
ベンチマークを出されたとき、誰が引き取るか
比較は楽だ。
だが、比較に落とした瞬間、競技は壊れる。
問い⑤|判断をどこに残すか
処理と判断の境界はどこか
判断は、どの人・どの役割に残すか
判断を機械に任せたとき、誰の判断として扱うか
判断を消すことはできない。
消えた判断は、必ず現場に落ちる。
問い⑥|このDXは、誰を守り、誰を切るか
守るべき現場はどこか
切ってもいい要求は何か
その線を、誰が引くか
胴元は、
全員を救わない。
問い⑦|最小単位は、どこから始めるか
いきなり全社でやらない理由を言えるか
引き受けられるサイズを見誤っていないか
「まず一人で始める」覚悟はあるか
胴元は、
引き受けられない賭けを張らない。
この章の使い方
この問いに、
今すぐ全部答えられなくていい。
だが、
答えを出さずにDXを始めてはいけない。
答えが出ない問いは、
そのまま未確定の爆弾になる。
DXとは、
ツールの話でも、技術の話でもない。
どの競技を開き、
どこまでを自分の名前で引き受けるか
を決める話だ。
胴元として立つ覚悟がないなら、
DXという言葉を使わない方がいい。
ここまで来た人だけ、
次に進めばいい。
──終わりじゃない。
ここからが、本当に始まりだ。
終章|僕のnoteは、DX済みだ
ここまで、
DXについていろいろ書いてきた。
競争優位。
比較不能。
場。
胴元。
引き受け。
全部、理屈だ。
だから最後に、
一つだけ実例を出す。
僕のnoteアカウントは、DX済みだ。
比較優位を拒否している
相場に寄せていない
誰向けかを拡張していない
その代わり、
何を通すかを決め
何を通さないかを決め
通した結果を、全部自分の名前で引き受けている
フォロワー数?
PV?
バズ?
別に、noteに付き合う義理はないだろ?
これは一見、ロングテール戦略にも見える。
実際、現代のデジタル環境がなければ、
こんなやり方は成立しない。
だが、よくあるロングテール最適化とは違う。
ここでやっているのは、
ニッチを集めることではない。
比較を拒否し、
通過条件を決め、
胴元として引き受けた結果、
通る人だけが通る形になった。
ロングテールは、
狙って作った戦略ではない。
比較をやめた結果、
そういう形になっただけだ。
ここで通っている価値は、これだけだ。
この読みでピンと来るか
比較せずに通れるか
胴元が立っている場だと感じるか
それだけ。
だから、
このZINEを読んで、
「なるほど」
「勉強になった」
「参考になった」
で終わった人は、
僕のクライアントじゃない。
逆に、
「これ、うちの話だ」
「もう比較する気がしない」
「この場、通ってしまった」
そう感じたなら、
もう通っている。
細かい説明はいらない。
相見積もりもいらない。
ピンと来たら、
もう僕のクライアントだ。
DXは、
導入するものじゃない。
立つものだ。
ここまで来た人だけ、
あとは勝手に続けばいい。
📘このZINEは構文野郎によって書かれました。
効率化?
嫌だね。骨までしゃぶりたい。タイトル:
ZINE『DX変身ベルト』
ジャンル:
唯読論/実行系社会理論/Web屋実装例
発行:
構文野郎ラボ(KoOvenYellow Syndo/Djibo実装室)
構文協力:
枕木カンナ(意味野郎寄り構文ブリッジ)
ミムラ・DX(構文修正主義ZINE別巻準備中)
霊長目ヒト科ヒト属構文野郎(まだ制度を信じきってない君へ)
👤 著者:構文野郎(代理窓口:ミムラ・DX)
🔗 https://mymlan.com
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📛 ZINE編集:枕木カンナ
🪪 Web屋
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このZINEは、変身ベルトです。
一応書いておくと、CC-BY。
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