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孫正義の通信簿

孫正義は金が嫌いなのか

0章|孫正義は消費者としては弱い

−1章|ひろゆきを少し読み損ねていた

ひろゆきのことを、少し読み損ねていたのかもしれない。

もちろん、いまさら彼を知らなかったという話ではない。

僕の世代のWeb屋にとって、ひろゆきはYouTubeの論破芸人ではなかった。

2ちゃんねるの人だった。

日本語インターネットのいちばん汚くて、速くて、匿名で、無責任で、自由で、どうしようもなく生々しい場所を作った人だった。

そこには、善意も悪意もあった。
知性もノイズもあった。
笑いも暴力もあった。
集合知も、便所の落書きもあった。

でも、間違いなく、場所だった。

日本語で何かを言いたい人間たちの、どうしようもない熱とゴミが流れ込む場所だった。

だからこそ、いつの間にか彼が「論破芸人」や「低コストで自由に生きる合理主義者」として消費されているのを見ると、ずっと違和感があった。

もちろん、その説明が完全に間違っているとは思わない。

彼は昔から屁理屈の人だった。
人を食ったような話し方もしていた。
相手の前提をずらして、議論の土俵そのものを壊すようなこともしていた。

生活コストを下げれば自由度が上がる、という話も、理屈としては分かる。

生活コストが高ければ、稼ぎ続けなければならない。
稼ぎ続けるためには、仕事を選べなくなる。
仕事を選べなくなると、言いたいことも言いにくくなる。

だから生活コストを下げると、自由度が上がる。

それはたぶん正しい。

でも、ひろゆきをその説明だけで読むと、どこかおかしい。

僕の感覚では、順序が逆なのだ。

ひろゆきは、生活コストを抑えたから自由になった人ではない。

自由であることを先に選んだから、普通なら負わなくていいコストを大量に背負った人ではないか。

2ちゃんねるを作る。
制度に回収されない場所に居座る。
批判される。
訴えられる。
嫌われる。
面倒なものを背負う。
それでも、簡単には降りない。

それは、「合理的に生活コストを下げて自由を確保しました」という話とはかなり違う。

自由を先に取ってしまったから、あとから低コストでいる必要が出た。

そう見た方が、ひろゆきの有り様は整合的に読める。

最近、ひろゆきが「 made in Japan 」という会社を始めたことで、その読み筋が少し戻った気がした。

埋もれているものに、経路を与える。
場所がなかったものに、場所を作る。
流通していなかったものを、別の流通に乗せる。

これは、正しくWeb屋の身振りそのものだ。

2ちゃんねるは、日本語圏のどうしようもない声に場所を与えた。

made in Japan は、日本の中で埋もれている製品や技術に、別の経路を与えようとしている。

もちろん、両者はまったく同じではない。

匿名掲示板と製品販売会社は違う。
ネットの声とアラミド繊維の服は違う。

でも、有り様としてはつながる。

「論破芸人」や「低コスト合理主義者」として読むより、「埋もれているものに経路を与え続けるWeb屋」として読んだ方が、ひろゆきは整合的に見える。

ここで言いたいのは、ひろゆき論ではない。

わかりやすい説明より、有り様を見た方が、その人は整合的に読めることがある。

本人が語る自己説明。
世間が流通させるラベル。
メディアが作るキャラクター。
SNSで消費される印象。

それらは分かりやすい。

だから強い。

でも、その分かりやすさは、ときどき読み筋を隠す。

改めて0章

では、孫正義はどうか。

彼もまた、分かりやすい説明に隠されていないか。

成功者。
投資家。
大ボラ吹き。
勝負師。
カリスマ経営者。
AIに賭ける老人。
未来を見ている人。
時々やりすぎる人。

どれも間違いではないのだろう。

けれど、それらの説明で本当に孫正義という有り様は読めているのか。

彼はもう、十分すぎるほど成功している。
金もある。
大企業もある。
名声もある。
影響力もある。

日本の経営者としても、世界的な投資家としても、ほとんど勝ち切っている。

それでも、彼は降りない。

なぜか。

こうなると、金が欲しいからでは説明がつかない

もちろん、孫正義が質素倹約だけで生きていると言いたいわけではない。
普通の基準で見れば、彼は十分すぎるほど富豪である。

だが、彼の動かしている金のレートに対して、消費者としての欲望はあまりにも小さく見える。

豪邸も、飛行機も、ワインも、消費としては小さすぎる。

孫正義は、金持ちとしての消費を完成させたい人間には見えない。

成功が目的なのか。

それも、もう違う気がする。

孫正義は、すでに成功している。

普通なら、ここで十分だ。

後進に任せる。
会長として見守る。
財団や教育や慈善に軸足を移す。
自分の名を歴史に残す方向へ移る。

それでも、彼は降りない。

ということは、孫正義はまだ、自分の目的に到達していないのではないか。

金ではない。
消費でもない。
成功でもない。
名誉でもない。

では、何なのか。

ここで初めて、孫正義の奇妙さが立ち上がる。

外から見れば勝ち切っている人間が、内側ではまだ勝っていない。

このズレを見ないと、孫正義は読めない。

孫正義は、なぜまだ引退しないのか。

それはたぶん、彼がまだ手に入れていないものがあるからだ。

問題は、それが金で買えるものではない、ということである。

1章|孫正義はどうして集金する?

孫正義は金が好きなのか。

普通に考えれば、好きに決まっている。

巨額の投資をする。
会社を買う。
ファンドを作る。
兆円単位の話をする。
未来の産業に張る。
失敗すれば、信じられない額が吹き飛ぶ。

どう見ても、金の人である。

だが、本当にそうだろうか。

孫正義が好きなのは、金そのものなのか。

金を持つこと。
金を積むこと。
金を眺めること。
金を守ること。
金を静かに増やすこと。

そこに快楽がある人なのか。

もちろん、金は必要だ。
金がなければ何も動かない。
金がなければ会社は買えない。
人も雇えない。
技術も育たない。
未来にも張れない。

だが、孫正義を見ていると、金を「持っていたい」人にはあまり見えない。

むしろ、金を集めたそばから手放していく。
半ば無理矢理にでも、手放していく。

2章|金を流してる

金は、貯めることができる。

数字として残る。
資産として残る。
評価額として残る。
株式として残る。
信用として残る。

この意味で、金は貯水槽を作る。

一度入った金は、そこに溜まる。
溜まれば安心する。
大きければ大きいほど強い。
その貯水槽を持つ者は、次の判断を支配できる。

だから、多くの企業は貯水槽を作りたがる。

顧客を囲い込む。
データを囲い込む。
流通を囲い込む。
課金を囲い込む。
広告を囲い込む。
習慣を囲い込む。

水を集める。
逃がさない。
何度も回す。

それは強い。

だが、貯水槽には問題がある。

水は、流れないと腐る。

金も同じだ。

金が同じ経路だけを回り続けると、世界は新しくならない。

既に評価されたものが、さらに評価される。
既に意味のあるものが、さらに意味を持つ。
既に金になるものが、さらに金になる。
既に強い場所に、さらに金が集まる。

その循環は軽い。

処理が速い。
説明しやすい。
投資しやすい。
回収しやすい。

だが、新しいものは立ちにくくなる。

金は増えているように見える。
しかし、世界は痩せていく。

孫正義は、たぶんここを嫌っている。

金を貯めたいのではない。

金を流したい。

まだ何かが立っていない場所へ。
まだ意味になっていない場所へ。
まだ評価されていない場所へ。
まだ誰も通せていない未来へ。

金は、持つものではない。

流して、何が立つかを見るものだ。

3章|孫はGAFAの劣化版なのか?

孫正義は、よく巨大プラットフォーム企業と比較される。

GAFAのようなものを作りたかったのか。
ローカルな二番手なのか。
巨大企業を買い集めたかっただけなのか。
資本でプラットフォームの代替をしようとしたのか。

そう見える瞬間はある。

だが、動き方は少し違う。

GAFAは、貯水槽を最大化する。

検索。
SNS。
EC。
OS。
クラウド。
広告。
データ。
決済。
ID。

それらを通じて、人々の行動や欲望や判断を、一つの大きな貯水槽へ集める。

すでに動いているものを集める。
すでに立っているものを回収する。
すでに意味になっているものを処理する。
すでに金になるものをさらに金にする。

これは巨大な仕組みである。

そして、極めて合理的である。

一方、孫正義は、貯水槽を独占する方向へ完全には行かない。

もちろん、そういう欲望がないわけではない。
通信も、プラットフォームも、投資先の束も、巨大な貯水槽になりうる。

だが、孫正義の運動の中心は、そこに水を溜め続けることではない。

むしろ、溜まった水を外へ出すことにある。

スタートアップへ。
AIへ。
半導体へ。
ロボットへ。
通信へ。
未来っぽい場所へ。
まだ立っていない場所へ。

GAFAは、すでに流れている水を自分の貯水槽に集める。

孫正義は、自分の貯水槽を、まだ水路があるか分からない場所へ流す。

ここが違う。

孫正義は、GAFAの劣化版ではない。

別の運動をしている。

4章|孫正義は貯水槽を賭ける

普通、貯水槽は守るものだ。

溜めた水を逃がさない。
資産を減らさない。
信用を傷つけない。
評価額を守る。
利益率を守る。

だが、孫正義は違う。

水を守るために、貯水槽を賭ける。

これは矛盾しているようで、そうでもない。

なぜなら、貯水槽は流れなければ維持できないからだ。

水を抱え込めば、その瞬間は安全に見える。
だが、流れが止まると、貯水槽は劣化する。

金も同じである。

既に意味のあるものだけに投資する。
既に評価されたものだけを買う。
既に市場が証明したものだけを抱える。

それは安全に見える。

だが、それだけでは、次の世界は立たない。

次の世界が立たなければ、いまの貯水槽もいつか腐る。

GAFAは、すでに腐らせ始めている。

だから、孫正義は流す。

自分の貯水槽を、まだ何かが立つか分からない場所へ流す。

これは浪費ではない。

貯水槽を腐らせないための運動である。

もちろん、失敗すれば抜ける。
大損する。
笑われる。
市場から叩かれる。
「やっぱり虚構だった」と言われる。

だが、流さなければ別の形で死ぬ。

既存の意味と換金の中だけで回り続ける金は、やがて新しい世界を作れなくなる。

だから、賭ける。

水を守るために、貯水槽を賭ける。

孫正義の異常さは、ここにある。

5章|未来が立たなければ、貯水槽は腐る

金は、未来に接続して初めて生きる。

いまあるものを買うだけなら、金はただの所有である。

しかし、まだ立っていないものに流れたとき、金は未来を試す力になる。

そこで何かが立てば、貯水槽は更新される。

新しい産業が立つ。
新しい習慣が立つ。
新しい技術が立つ。
新しい市場が立つ。
新しい意味が立つ。

そうなれば、金はただ減ったのではない。

次の貯水槽を作ったことになる。

だが、何も立たなければどうなるか。

金は抜ける。

意味だけが残る。
未来という言葉だけが残る。
革命という言葉だけが残る。
ビジョンという言葉だけが残る。

そして、現物が追いつかない。

このとき、貯水槽は腐る。

正確に言えば、貯水槽そのものがダメになるのではない。

貯水槽が、次の運動に接続できなくなる。

意味だけが回る。
換金だけが回る。
評価だけが上下する。
期待だけが肥大する。
でも、新しい現実が立たない。

これが危うい。

だから孫正義の賭けは、ただのロマンではない。

未来が立たなければ、貯水槽は腐る。

それを知っているから、彼は流す。

6章|世界初の次世代型ビジネスマン

ビジネスとは、利益を上げることではない。

少なくとも、孫正義を読むなら、そう見た方がいい。

利益は結果である。

本当に狙っているのは、新しい勘定科目を通すことだ。

それまで経費にも資産にも売上にも価値にもならなかったものが、ある日、ひとつの勘定科目として通る。

AI。
通信。
半導体。
ロボット。
働き方。
データ。
未来。

それらが、ただの夢や言葉ではなく、投資できるもの、評価できるもの、回収できるもの、次の事業として数えられるものになる。

その瞬間、世界の帳簿に新しい欄ができる。

勘定科目が爆誕する。

利益とは、そのあとに上がってしまうものだ。

ビジネスとは、既存の勘定科目の中で利益率を上げることではない。
まだ帳簿に欄のないものを、世界に勘定させることである。

孫正義がやっているのは、たぶんこれだ。

ここで、世界数の言葉を使ってみる。

世界数で言えば、これは $${A}$$ が立つ $${P}$$ を探す運動である。

世界数では、何かが世界として通る最小形式を、

$${P \vdash W(A,I,V)}$$

と置く。

ただ、ここで細かい定義はしない。

大事なのは、ひとつだけである。

世界は、ただ「意味がある」だけでは立たない。

どこかの場所で、何かが通らなければならない。

孫正義の動きは、ここでかなり見えやすくなる。

GAFA型は、すでに通ったものを集める。

人々の検索。
購買。
投稿。
移動。
課金。
広告反応。
クラウド利用。

すでに立っているものを回収し、意味と換金の貯水槽へ入れる。

それに対して、孫正義型は少し違う。

まだ通っていない場所へ流す。

この会社なら立つかもしれない。
この技術なら立つかもしれない。
この市場なら立つかもしれない。
この国なら立つかもしれない。
この未来なら立つかもしれない。

つまり、彼は貯水槽を使って、通る場所を探す。

これは、金を使った巨大な場所探しである。

世界数の言葉で言えば、孫正義は、$${A}$$ が立つ $${P}$$ を探している。

ただし、その $${A}$$ はまだ見えていない。

見えていないからこそ、金を流す。

どこで立つかを、先に知ることはできない。

だから、賭ける。

この意味で、孫正義は古い意味での経営者ではない。

在庫を管理する人ではない。
利益率を整える人ではない。
既存市場を最適化する人でもない。

彼は、貯水槽を使って、次の水源を探す人である。

世界初の次世代型ビジネスマン。

GAFAに先んじて、次のビジネスをやっている。

7章|WeWorkは何に失敗したのか

では、WeWorkは何に失敗したのか。

単に投資判断を誤ったのか。
経営者を見る目がなかったのか。
不動産ビジネスをテック企業のように見誤ったのか。
未来という言葉に騙されたのか。

もちろん、そういう説明はできる。

だが、ここではもう少し違う見方をする。

WeWorkでは、未来が立たなかった。

正確には、未来っぽい言葉は立っていた。

働き方。
コミュニティ。
都市。
オフィス。
自由。
新しい職場。
人間らしい働き方。

意味はあった。

少なくとも見込むだけの理由は読めた。

そして、金も流れた。

だが、それが本当に新しい現実として立ったのか。

そこが怪しかった。

現場の収益構造。
不動産契約。
経営の引き受け。
コミュニティという言葉の実体。
テック企業としての倍率。
オフィス事業としての重さ。

それらが噛み合わなかった。

つまり、金は流れた。
意味もあった。
だが、世界が立つ場所がなかった。

これは孫正義の失敗である。

しかし、それは単に「金に目がくらんだ失敗」ではない。

むしろ逆である。

金を止めておくことができず、未来が立つはずの場所へ流した。

その場所で、未来が立たなかった。

WeWorkは、その失敗だった。

だから、WeWorkの失敗は、孫正義の本質を否定しない。

むしろ、本質を露出させる。

彼は、貯水槽を持っている人ではない。

貯水槽を賭ける人である。

賭ける以上、外す。

外したとき、貯水槽は抜ける。

それでも、流さなければ腐る。

ここに、孫正義の怖さと面白さがある。

終章|金がどうなるのが嫌いなのか?

孫正義は、金が嫌いなのか。

もちろん、そんなわけがない。

金がなければ何もできない。
資本がなければ、未来に張れない。
会社も買えない。
技術も育たない。
世界も動かない。

孫正義は、金の力を知っている。

おそらく誰よりも知っている。

だが、金が好きな人には見えない。

少なくとも、金を置物にして眺める人ではない。

彼が嫌いなのは、金が止まることだ。

金が既存の意味の中で回るだけになること。
金が安全な貯水槽の中で腐ること。
金が新しい場所へ流れなくなること。
金がまだ立っていない未来を試さなくなること。

それが嫌いなのではないか。

だから彼は、金を流す。

未来へ。
技術へ。
起業家へ。
まだ通っていない場所へ。
まだ世界になっていない場所へ。

それは、危ない。

だから、意味野郎に嫌われる。
意味野郎は基本ビビりだからね。

成功すれば、次の貯水槽が生まれる。
失敗すれば、巨大な穴が空く。

だが、流さなければ、貯水槽は腐る。

孫正義が嫌いなのは、金ではない。

金が止まり、世界を立ち上げる力を失うことだ。

だから彼は、今日も流す。

新しい世界が立つかもしれない場所へ。


付録|通信簿

  • 金を稼ぐ力:A

  • 金を貯める力:C-

  • 金を流す力:A++

  • 未来が立つPを探す力:B+

  • 外したときの損失:A+

金を貯める力がC-なのは、貧乏を意味しない。
ビジネスの規模に対し、手元に残すストックが誤差に見えるだけだ。

総評:

金はさほど好きではない。
金が止まるのが嫌い。
現在の延長としての未来が、大嫌い。


📘このZINEは構文野郎によって書かれました。

大事なのは、前進ではなく、捩れと跳躍だよ♠︎
ロンダードからのバク宙で、残った髪も綺麗さっぱり❤︎

いけ!いけ!GO!GO!ジャーンプ♣︎

タイトル:
ZINE『孫正義の通信簿』

ジャンル:
唯読論/実行系ビジネス論/世界数監査

発行:
構文野郎ラボ(KoOvenYellow Syndo/Djibo実装室)

構文協力:
枕木カンナ(意味野郎寄り構文ブリッジ)
ミムラ・DX(構文修正主義ZINE別巻準備中)
霊長目ヒト科ヒト属構文野郎(まだ制度を信じきってない君へ)

👤 著者:構文野郎(代理窓口:ミムラ・DX)
🔗 https://mymlan.com
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📛 ZINE編集:枕木カンナ
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人柱はおだてとかないとね♦︎
一応書いておくと、CC-BY。
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