世界味めぐりー旅先の一皿が教えてくれたこと12|エジプト:コシャリ
これから始まる世界旅行を前に、「旅先の一皿」を手がかりに、これまで訪ねてきた国々をふりかえってみることにしました。思い出をたどることも、ある意味では一つの旅なのかもしれません。
【 第4章:地中海をめぐる旅】
海が運んだ豊かな食の記憶
この章では、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「地中海の食文化」を手がかりに、海を越えて広がった豊かな味の記憶をたどってみます。
モロッコの次は、古代ロマンあふれるエジプトです。
エジプト:コシャリ(Koshari)
―そば飯!? 遺跡の国のみんなのごはん ―
旅好きというのを認識してもらっているので、飲み会でも旅の話によくなります。「〇〇がよかった」「◎◎に行きたい」という話の中で、意外とよく耳にするのが「エジプトに行きたい」という声です。
旅好きな人でも、エジプトはまだ行ったことがないという人が少なくありません。ピラミッド、スフィンクス、ルクソール神殿、王家の谷。世界史の教科書で見た風景に会える国なのに、治安の波があり、行くタイミングを考えてしまう国でもあります。
1997年のルクソール事件は、日本でも大きく報じられた衝撃的な出来事でした。その後も政治情勢の変化や観光地周辺での事件が断続的にあり、「行きたいけれど少し不安」という声を聞くのも無理はありません。

事件を思い出してちょっとだけ緊張しました。
ただ、どこまで怖がり、どこで判断するかは本当に難しいものです。タイでも、バンコク中心部で外国人観光客を含む多くの人が被害に遭った爆発事件がありました。旅に絶対の安全はありません。だからこそ、情報を確認し、無理をせず、信頼できる手配先を選ぶことが大切なのだと思います。
観光客が狙われるという意味では、団体ツアーは目立つのではないかと思う一方で、それでもエジプトはツアーが便利な国でした。
私はタイからの旅行ではずっと個人旅行でしたが、エジプトに限っては、たまたまHISの広告が日程的にもよかったので、初めてツアーに参加してみました。
遺跡や歴史的建造物が非常に多いエジプトでは、ガイドの解説があることで楽しさが倍どころか何倍にもなります。入場券や移動の手配を任せられるのもありがたく、主要観光地が離れているため、国内線を含めた行程を自分で組まなくてよいのは大きな安心でした。
深夜便や早朝便での移動があっても、ツアーならギリギリ間でホテルが利用できたり、無理のない形に整えられていて、治安面の心配も少なくなります。
私が参加したツアーは自由時間も比較的多く、団体旅行特有の息苦しさを感じることはありませんでした。それでも「やはり団体はちょっと……」という方は、現地発のツアーに参加するのも一つの方法でしょう。

エジプトの国民食といえば、「コシャリ(Koshari)」です。初めて聞くと少し首をかしげたくなる料理です。「マカロニ、レンズ豆、ひよこ豆を混ぜたご飯にトマトソースと揚げ玉ねぎをたっぷりかけ、さらにニンニクと酢の効いたソースをかけて食べる」のだそうです。想像がつくような、つかないような料理ですが、家庭や店によっても違いがあり、不思議なほど美味しくハマってしまう一皿です。

コシャリの起源は19世紀後半、イギリス統治時代にさかのぼるといわれています。インド料理のキチュリ(米と豆の煮込み)が原型で、そこにイタリア系移民がもたらしたパスタ文化が加わって、現在の形に定着したと言われます。
異なる文化の要素が重なり合って、エジプトの日常食として根付いた比較的新しい料理です。
特徴的なのは、肉を使わない完全なベジタリアン料理であること。それでいて豆と炭水化物の組み合わせにより腹持ちがよく、安価で栄養価も高い。日本で言えば、そばとご飯を混ぜた「そば飯」のように、家にあるものを組み合わせて満足感を生み出す料理と考えていいでしょう。カイロではコシャリ専門店が街中にあり、持ち帰り用の容器を抱えた人々の姿も見かけました。
エジプトでは、給料日に米や豆、パスタ、油などをまとめて買って、給料日前に保存食で食事をまかなうという生活スタイルが一般的だそうです。コシャリは、まさにそうした食材だけで作れる料理です。
乾物と常温保存できる野菜が中心で、冷蔵庫がなくても問題ありません。給料日前に食べるのは貧しさだけでなく、保存食をサイクルさせるいい目安にもなり、合理的な暮らしの知恵と言えるかもしれません。
作り方はシンプルで、ご飯、豆、パスタをそれぞれ調理して、揚げ玉ねぎとスパイス入りのトマトソース、酢とニンニクを効かせたソースを重ねていきます。
それぞれ主張がありそうですが、全体は驚くほど調和していて、酸味とコクが次の一口を誘います。
揚げ玉ねぎは、タイであれば市販品が売られているので便利です。

最近、エジプトに行ってきた人がコシャリに挑戦して、SNSに「美味しさがわからない」とつぶやいていました。ところが旅の後半には、「だんだん美味しさがわかってきた。店によっても全然違う」と言っていたのです。
そうなんです!
コシャリに絶対の正解はありません。自分の好きな味を見つけながら、節約しつつお腹いっぱいになりたい時に、自由に試してみてはいかがでしょうか。
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