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50年目の七夕1 シンガポールでの出会い ナイト・サファリ

あらすじ 
 俺はけんぎゅうという者だ。実は長い間、人間として生活をしていた。そして、その日常の中で何度も出会う女がいた。その名前はヨウコ。俺は彼女と出会うと恋をしてしまう。

 しかし、出会ったタイミングが七夕で、雲一つない晴天でないと、その場限りの恋となってしまう。それが永遠と続いていた。
まるでサークル・ゲームだ。
しかし50年目、ようやく終止符を打てるチャンスが巡ってきた。

 プロローグ
 今日は7月7日、七夕だ。御茶ノ水駅から線路沿いの坂を秋葉原へ5分ほど下った中央線の高架下、そこにレストランが3軒ほどある。その一つ、スペイン料理店で俺は遅い昼食を取っていた。

 神田川の見えるテラス席は風が気持ちいい。
俺はパエリアを食べながら、目の前の女を見る。目がアーモンドアイだった。赤ワイン一口飲んで、その唇が開く。

「七夕伝説、なんとなくロマンチックに聞こえるけど、実際には馬鹿な男の話。織姫と結婚した牽牛、なにを勘違いしたのか、この男は、結婚後、姫と遊びまくり、仕事を全くしなくなった。

 織姫の親である天帝が注意したが、聞く耳を持たない。それに業を煮やした天帝は、二人を強引に引き離し二度と会えなくした。

 しかし、情けないことに、さらにやる気を出さなくなった男。それを悲しむ織姫。親馬鹿な天帝は、織姫を可哀想に思い、男に一生懸命働くなら年に1度だけ会わせてやると譲歩した。
これって救いようのない阿呆男の話でしょう。そうじゃない?」
目の前の女はそんなことを言う。

 「それは違うだろう、男は仕事一筋の真面目な青年だった。多分女性に免疫がなかったのだろう。妖艶な織姫、その性悪女にたぶらかされて、仕事が手につかなかった。このパターンだろう」
「あのさぁ、私に喧嘩売っている?」そう言うと女はワイングラスをまた口に運んだ。そして俺を見る。その目が魅力的だ。

 俺は話題を逸らすために科学的な話をした。
「織姫はこと座の1等星・ベガだ。牽牛はわし座の1等星・アルタイル。お互い14.4光年離れている。光の速度でも14年半かかる」
「あなたJAXAの人みたいね、でもここでは会える」とその女は言った。
「そう、この世界では会える。そして今日は日本国中晴天、ここ50年で最高の日だ」
「そうね、それでどうするつもりなの」そう言う彼女。その目に見つめられると、俺はこう答えるしかない。
「行きましょう」

@@@

時間旅行
 時間の流れを自由に往き来するには、目をつぶっていればいい。時間とは連続体で、そこを往き来することは物体でなければ可能だ。そして男と女は物体ではない。
それはある種の感情だ。時間を越えて移動する。
俺はロバート・A・ハインラインの「夏への扉」を頭に浮かべた。
「ピート、どの扉だ?」
俺は扉を開けた。

エピソード1 シンガポールでの出会い ナイト・サファリ

YCAT(横浜シティ・エア・ターミナル)
 YCATの待合室で俺は完全にグロッキー状態だった。昨日から寒気がする。
朝、熱を測ると38度あった。体もだるいし喉も痛い。
「風邪だな」
 かなり危険な状況だった。これからシンガポールへ向かうため飛行機に乗る。海外出張なのだ。おそらく、あいつが原因だろう。思い当たる節がある。

 しばらくすると待ち合わせていた山崎氏が来た。現状を話す。
「だるい、死にそうだ、出張だけど止めていい?」
「大丈夫ですよ。ユンケル飲んで機内で寝ていれば復活しますよ」
やはり彼には他人事だった。俺は観念した。
「はーっ、行くか」
俺はふらつく体でリムジンバスに乗り込んだ。

2001年コロナなんか知らない時代、熱があっても飛行機に乗れる時代。

機上で
 女性のキャビンアテンダーから毛布と枕を借りて座席に沈み込む。
離陸前から意識が朦朧となる。社長の富田さんから貰った風邪薬とユンケルを一気に飲んだせいか体が火照る。さらに体が中に浮いている気分だ。薬が効きすぎているようだ。
異様なトリップ感があるぞ。気持ちいいぞ。
俺の意識は次第に薄れて行き、知らぬ間に泥のような眠りに落ちていった。

ホテル
 目を覚ますと真っ暗だった。どうやら俺はベッドで寝ているようだ。
頭が朦朧としている。
手探りでベッドの横のダウンライトのスイッチを入れる。

 どうもホテルの部屋らしい。ここに至るまで全く記憶がない。窓にはカーテンが引かれていた。外は見えないが夜だった。
上半身を起こす。くらくらする。
ようやく思いだした。俺はシンガポールへ向かう飛行機に乗っていた。

 ベッドから降りて、窓を開けると風が入ってきた。カーテンが揺れる。外を見ると夜景が広がっている。これがシンガポールの百万ドルの夜景か、凄く綺麗だ。どうやらここは高層階のホテルの一室のようだ。

 俺は腹が減っていた。熱も下がったようだ。
皆、食事をしに外へ行っているのだろう。俺は置いてかれたようだ。
ダウンライトの下にカードキーが1枚置いてあった。
パンツ一丁だった。そのパンツも脱ぎて、バスルームで暑いシャワーを浴びた。ようやく目が覚めた。

シンガポールの夜
 着替えて部屋を出た。高速エレベーターに乗って、ホテルのラウンジに降りる。
冷房が強いので。夏用スラックスと薄手のアロハシャツでは寒かった。

 外へ出ると、今度は熱帯特有の絡みつくような気温と湿度だ。
途端に汗が吹き出てきた。ここはどうやら街の中心地のようだ。
俺はタクシーには乗らず。取りあえずネオンの煌びやかな方へ向かって、歩きだした。

 有名なLong Barの看板が見えてきたので、そこで足を止めた。
入るかどうか迷っていた時だった。
「おーい、君、私だ、私!」日本語が聞こえた。バーの右手にあるイタリア料理店の開いたドアの前に女がいた。女は小走りで近づいてきた。
「やっぱりあなたね、なにしているのよ、こんな所で」
あの女だった。なんでここにいる。
「仕事で来た・・」そう言うしかない。

 何時も突然出遭う女、ヨウコだった。アシンメトリーショートの髪、素足にサンダル、赤いミニスカートの上に白いノースリーブのシャツ姿だ。背は高い。俺と同じくらいある。
「ねぇ、顔色悪くない」俺の顔を覗き込んで言う。
 
 ヨウコの後ろで待っていた白人の男女のカップルに、二言三言英語で話すと、二人に手を振った。そのカップルは立ち去っていく。そして俺の肘に手をかけて言う。
「取りあえず、食事しましょう、いい店知っているから、そこへ行きましょう」
「君は二度目じゃないのか?」
「大丈夫、その間飲んでいるから」
 俺とヨウコはそのままLong Barの前を通り過ぎた。

 ヨウコに連れてかれた店は日本料理店だった。俺は体力回復のため、握り寿司をしこたま食べた。その間、横でヨウコは日本酒を飲んでいた。
「で、これからどうするの?」ヨウコが冷酒の杯を手に持ち聞いてきた。
「ホテルへ帰って寝るだけ」
ヨウコが冷酒を一気に飲み干す。昔の悪夢が蘇る。
「あまり、飲まない方がいいのでは」

 「心配なのでしょう、大丈夫だよ、そんなに飲んでないから」俺はヨウコの手から冷酒の杯を取り上げる。睨むヨウコだが、怒ってはいない。
「ねぇ、ナイト・サファリに行かない。今日一緒に行こうとした子が、急な用事で来られなくなったの、どう行かない」
「ナイト・サファリって、夜の動物園だろう」
俺は時差ボケで、寝られそうにもない。
「行くか」

 ともかくこのまま飲み続けるのはよくない。何処へでも行こう。
「本当に、何年ぶりかのデートだよ、嬉しい」ヨウコの笑顔は綺麗だが、疑問もが頭を過ぎる。
「所で、何故君はここにいるの?」
「さあ、何故かな、きっと神様のお導きだよ。さぁタクシーを呼ぼう」
 
ナイト・サファリ
 ナイト・サファリ(The Night Safari)は、シンガポールにある夜間に開いている動物園だ。時間的に遅かったのか、ナイト・サファリには人気がなかった。また妙に外灯が暗い。電力不足で省エネ? 

  暗がりに動物の目が光る。暑さと湿気に獣の匂いが混じる。正にナイトサファリだ。
「何か、おかしくないなかい、何時もこんな感じなの」俺はヨウコに聞いた。
「私も初めてだから、よくわからないよ」

 その時、暗い外灯の下に、黄色と黒い島模様の大きな猫が現れた。
「あれ、虎じゃないか?」
「うん、マレー虎だね」
「そうじゃなくって、これってナイト・サファリのアトラクションなのか、放し飼いだよ」
「うーん、まずいよね」
「いや、危険だろう」
虎は俺達の存在が見えないかのように目の前を通り過ぎた。
「帰ろうか、もう遅いし、明日もあるし」俺が言うと、ヨウコはうなずいた。
  
 しかし、いざ戻ろうとすると、案内表示がない、これでは道がわからない。迷っている内に、さらに暗がりに入り込んでしまった。
後ろから水のしたたる音がする。近くに池があるようだ。
「ねぇ、あれ」ヨウコの声で振り向く。

 なんと今度は薄い外灯の明かりの下に大型のワニがいた。俺と目が合うとその目が赤く光った。その途端、素早い動きでワニが攻撃をしかけてきた。

 「やばい」俺達は逃げようとした。しかしサンダル履きのヨウコが滑って転んだ。俺はヨウコをかばうように立ちはだかった。
大きく口を開けた巨大ワニが迫る。
ワニの口の中は真っ赤なワインの色だった。俺は怖くって目をつぶった。その時、激しいし震動が頭を揺さぶった。

***
 「イケさん、起きて、起きて」声がする。目を開けると山崎氏の顔がある。「イケさん、着いたよ、大丈夫、大分うなされていたよ」 
山崎氏から冷たいおしぼりをもらって、顔を拭くと、ようやっと俺は自分の状況を認識できた。まだ飛行機の中だ。

 その時、後ろから声がした。
「久しぶり、ずーっと寝ていたね」
振り向くと、ヨウコが笑っていた。
思いだした。俺は彼女に風邪をうつされたのだった。そして彼女は今回の旅のツアーコンダクターだった。

@@@
「どう?」
「なんで海外から始まるの、意味がわからない」
「そうか、じゃぁ次に行こう」
次の扉が開く。

50年目の七夕  番外








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