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小説『天使さまと呼ばないで』 第13話


お茶会の後、ミカは近くのデパートに立ち寄った。あのルウィ・ビートンを買ったデパートだ。

ミカはまず、ヘルメスに入ってみた。しかし、店内のどこにもバーニン・バッグはない。バーニン・バッグは超入手困難な人気バッグだから当然だ。

(まあ、どのみち買えるだけのお金はないから良いんだけどね)

ルウィ・ビートンのバッグを買ったことでミカの貯金は一時期底を尽きていたが、あれからお茶会とカウンセリングの収入のおかげで50万円ほど貯まりつつあった。

とはいっても、バーニン・バッグは1個100万円以上するのでそれには到底及ばない。


仕方なく、ミカは店内をいろいろ見回した。

(さすが一流ブランド。どれも美しいわ・・)

ふと、たくさんのスカーフが並べられているのが目に止まった。鮮やかな朱色や黄色が眩しい。

ヘルメスのスカーフは、バッグと並び人気があり、ヘルメスの代名詞とも言える代物だ。

(バッグは無理でも、スカーフぐらいなら手に入りそうね)

ミカはその中でも、白地に金で模様が描かれているスカーフが気になった。

「すみません、このスカーフを見たいのですけれど」

店員に話しかける。

広げてみると、スカーフの中心には金の太陽と、周りには中世の絵画のような天使が描かれていた。

(天使だ・・・)

これは使える、とミカは思った。たまたま選んだものが天使のデザインだったなんて、なんて運命的なんだろう。Factbookにこのことを書けば、また称賛と感動の声が寄せられるに違いない。

(これは私の仕事に使えるわけだから、必要経費のようなものよね)

ミカは値段を見る。手頃なものだと6万円弱だ。

さっきのお茶会で徴収したお金があるので余裕で買える。それに6万円なんて、バーニン・バッグの値段と比べればずっと手頃に感じた。

ミカはそのスカーフを購入することに決めた。

スカーフが丁寧に包まれた紙袋を受け取り、店を出る。

(この私がヘルメスで即決できるようになるなんて、一年前は考えたこともなかったわ)

ルンルン気分で歩いていると、次は高級ブランドのCHAMELのお店が目に止まった。

ショーウィンドウには、美しい白のツイードのワンピースを着たマネキンが颯爽と立っている。

(素敵・・・)

ミカはうっとりとした。これも"天使"のイメージにぴったりの清楚で上品なワンピースだ。それに胸元にCHAMELの「C」のマークの金色の飾りがついている。

表示されている値段を見ると、80万円と書いてあった。

クレジットカードを使えば買えなくはない値段だが、引き落としはコウタの銀行口座にしているので、これだけ高価だとバレる危険がある。

(さっきスカーフ買ったばかりだし、やめておこう・・・)

そう思ったミカだが、頭の中にマリのことが浮かんだ。

自分より明らかにブスであっても、持っているものが一流だというだけで、みんなの注目を集めたマリ。

ミカが着ているワンピースだって、一着3万円のそれなりに上等なものだが、マリのものに比べると明らかに高級品のオーラがない。

ミカは振り返り、ワンピースをまた眺める。

(あれを着てカウンセリングしたら、きっと本物の天使みたいに見えるだろうな・・・)

頭の中で、エリたちが賞賛する声が聞こえる。


ミカさん綺麗!

天使みたい!

CHAMELのワンピースなんてすごい!!!


(試着だけなら、いっか・・・)

ミカは恐る恐る店内に入った。

「あのぅ、表のショーウィンドウに飾ってあるワンピースを試着したいのですけど・・・」

そう言うと、店員はミカのカバンと紙袋をチラリと見てからにこやかに答えた。

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」




結局、ミカはそのワンピースを買ってしまった。

試着した時に店員にかけられた

「まるで天使のようです!お美しいですよ」

という言葉が、ミカの背中を押してしまったのだ。

ミカはカードのリボ払いを使うことにした。こうすれば、月々の支払いは定額になるから、コウタにバレることはない。

(でも、リボ払いは金利が高いから、まとまったお金ができたら一括払いに変更しなくちゃね・・・でもでも、この調子でいけば来月には、きっと一括払いできるはず!)

(これも、カウンセリングを盛り上げるための必要経費だから大丈夫!)

ミカはそう自分に言い聞かせながら帰宅した。



家に帰ってからミカは、まずFactbookにお茶会の写真をアップした。

今日のお茶会も最高でした✨こんな素晴らしい仲間と出会うことができたのも、天使さまのおかげだと感じています💖
#素晴らしい人たちに出会えて感謝
#天使さまが繋いでくれたご縁
#天使さまありがとう
#これも天使さまのおかげ


それから、スカーフとワンピースを紙袋と共に床に置き、写真を撮る。そして、試着室で撮っておいた写真を加工してスタイルと肌を綺麗にした。

その写真につける文章を考え、ミカはこんなふうに書いた。

今日のお茶会のあと、運命的な出会いが・・・💕
ヘルメスで妙に気になるスカーフがあったので広げて見てみると、何と天使さま👼✨が‼️
運命を感じてお持ち帰りしちゃいました😍
これも天使さまが繋いでくれたご縁なのかしら🎶笑

さらにその後、CHAMELに寄るととっても美しいワンピースが👗💕
思わず試着したところ、店員さんからはなんと
『まるで天使のようです』と言われました😲‼️
もしかして、私を加護している天使さまが見えたのかしら💖
こんなに素敵なワンピースが手に入ったのも、天使さまのお陰ですね💕
#これも天使さまのおかげ
#天使さまありがとう

先程用意した2枚の写真と共にアップしようとして、ふと自分がリボ払いをしてまで80万円のワンピースを購入してしまったことを思い出す。

途端に罪悪感と恐怖で苦しくなった。

(リボ払いって、めっちゃ金利高いんだよね・・・)

もし返せなかったらどうしよう、いや、もしコウタにバレたらどうしよう・・・。

そんな気持ちをかき消すために、文章を書き足した。

実は、このワンピース、かなり奮発して購入しました😅でも、店員さんの"天使のよう"という一言に運命を感じてしまったんです。
でも・・・たとえ自分には少し背伸びする存在であっても、たとえ自分には似合わないと思うものであっても、あえて手に入れることで幸運はやってくるものです✨
なぜなら、天使さまはあなたの"覚悟"をちゃんと見てらっしゃるから・・・。
だから、あなたが何かに投資をするとき、金額で諦めないでください‼️
覚悟ができた人の元には、天使さまのサポートがきっと届きますよ👼💕💕💕

ミカは自分に言い聞かせたのだ。

リボ払いでもいいと。借金してもいいと。


ミカがスカーフとワンピースの写真をアップすると、いつものように「いいね」と好意的なコメントがたくさんついた。

本当に天使さまのようです!

セレンディピティですね💖

ミカさんにめっちゃ似合ってます〜😍


それから、数時間のうちに不思議とカウンセリングの依頼が5件もきた。しかも、金額が高いスペシャルカウンセリングの依頼までやってきたのだ。

(ほ〜ら、やっぱり。こうして未来の自分に投資することで結果は勝手についてくるのよ。天使さまが応援してくれてるってことね)

ミカはほくそ笑んだ。



ミカは、自分への言い訳のために書いた文章が、ミカの信者の浪費まで促していることに、まだ気が付いていなかった。


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第14話につづく

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