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【衣替えとは”戦い”である】

10月になると、朝の空気がひんやりと変わる。秋がやってきた証だ。僕の働く高齢者施設では、この時期に衣替えを行うことが多い。入居者の皆さんのクローゼットを開け、夏の薄手のシャツなどをしまい、秋冬の少し厚手の服を準備する。衣替えをしてくれる家族もいるが、そうでない場合は僕たち介護スタッフがその役割を担う。シンプルな作業のようで、実はこれがなかなか骨の折れる仕事なのだ。

衣替えの準備は、ただ服を入れ替えるだけではない。入居者の服が古くなったり、サイズが合わなくなったりすれば、新しいものを購入することもある。この”服選び”が、なんとも難しい。80代、90代の方々に「年相応」の服を選べと言われても、正直なところどんなデザインや色が好まれるのかがさっぱりわからない。つい無難なベージュやグレー、昔ながらの花柄のブラウスなど、なんとなく古臭い(失礼)デザインを選んでしまう。そして同僚たちからは「センスない」と笑われてしまうのだ。

それでも、入居者の皆さんはそんな”センスのない”服を「ありがとう!」と目を細めて喜んでくれる。少し色あせたカーディガンや、流行とは程遠いチェックのズボンなどを、まるで宝物のように大切に着てくれる。その笑顔を見ると、申し訳なさと嬉しさが交差して複雑な気持ちになる。次こそはもっとセンスのある服を選ぼうと心に誓うのだが、結局高齢者の”センス”がよく分からず、また衣替えの季節に頭を悩ますのがオチだった。

衣替えはいつもスムーズにいくわけではない。認知症の入居者の中には、変化を嫌う方がいる。新しい服を用意しても「あの服どこやった!」と声を荒げて怒る入居者もいる。
ある方は、お気に入りの半袖のポロシャツを頑なにこだわり、10月の肌寒い朝でも「あれを着る!」と言い張る。どれだけスタッフが説得を試みても、怒りが収まらず、渋々タンスにしまったポロシャツを引っ張り出すこともある。衣替えは、ちょっとした”戦い”なのだ。


この”衣替えの戦い”は、実は我が家でも繰り広げられている。僕の息子には知的障害があり、彼もまた衣替えを嫌うタイプだ。特にお気に入りのTシャツには異常なまでの執着を見せる。
10月も半ばを過ぎ肌寒さが本格化しても、お気に入りのTシャツを彼は着続ける。奥さんがこっそりタンスの奥に隠しても、まるで名探偵のようにTシャツを見つけ出し、シレッと着ていることがある。

奥さんは毎シーズン、息子のTシャツを巡る攻防に頭を悩ませている。「もう、諦めて冬でもTシャツでいいんじゃないの?」と冗談めかして言うこともあるが、さすがに風邪を引かせたくはない。
衣替えの季節は、奥さんにとっても僕にとっても、”戦い”の時なのだ。


朝、窓を開けると冷たい空気が頬を撫でる。秋が深まり、冬が近づいていることを感じる。施設でも自宅でも、衣替えの戦いが始まろうとしている。入居者の笑顔と怒号、息子のTシャツ探しの執念__それぞれの小さな抵抗に、なんだか温かい気持ちになる。衣替えは、ただの季節の変わり目ではない。そこには、人のこだわりや愛着、そして暮らしそのものが詰まっている。

さて、今年もまたどんな戦いが待っているのだろうか。少しワクワクしながら、僕は朝の冷たい空気を深く吸い込んだ。


おしまい

(1340文字)


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このエッセイは、本田すのうさんの企画【マスクド★note】で、三條 凜花さんの作品を当てることができた『凜花賞』の副賞として書かせていただきました。

僕はA賞を獲得し、tote10月号へ掲載していただけることになりました!やったー!

テーマは『10月×暮らしに関するエッセイまたは小説』ということで、なんとなく衣替えの季節かなぁと思い、施設や自宅での衣替えの想い出を綴らせていただきました。テーマに沿っていればいいのですが……。

ちなみに、みくまゆさんも同じA賞を獲得されており、こんな素敵なエッセイを書かれていました。

お母さまが作られるとても魅力的な栗ご飯のお話から、人には”適材適所”があり、それぞれの苦手なことや得意なことに向き合いながら生活をしているという素晴らしいエッセイとなっています。
秋の味覚である栗ご飯を題材にテーマにバッチリ合った記事であり、さすがだと思いました。
いや僕の記事は大丈夫だろうか……。
#心配になってきた


三條さんもし、不都合があれば遠慮なく言ってくださいね。全力で書き直します!!

tote10月号がとても楽しみです。『凛花賞』ありがとうございました!


コッシー


#マスクドnote
#三條凛花さん
#みくまゆたんさん
#凛花賞
#暮らしにまつわるエッセイ
#衣替え

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