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僕なら『片足になったエイ』ってつけてた

僕は、他の方の創作を読んで「すごい!」「面白い!」「憧れる!」という感情を抱くことは日常茶飯事だけど、「悔しい!!」と思うことは、あまりない。単純に自分の小説が人よりも優れていると思っていないのと、自分が生粋の創作者ではないと自覚しているからだろう。
※だからと言って自分の作品を卑下しているわけではありません

そんな僕でも、作品を読んで「くそー!僕も負けてられない!」という感情になる方がいる。

それがくまさんだ。

もちろん、くまさんと自分の創作レベルが対等だなんて全く思っていないし、ライバルとはおこがましくて口が裂けても言えない。
くまさんとは、noteで創作を始めたタイミングがたまたま同じで、僕が勝手にくまさんのことを「創作同期」だと思っている。
#創作同期はもう一人いる

そんな同期の創作には、いつも注目していて、作品を読ませてもらう度に「なるほど、そうきたか!」や「うわーやられた!」と心の中で一喜一憂している。

だから、くまさんが今年の創作大賞でどんな作品をぶち込んでくるか、個人的に大いに注目していた。


くまさんが満を持して応募された作品が『片脚のポルカドット・スティングレイ』である。

《あらすじ》
真央は、友人の由奈と新宿ゴールデン街で電動車椅子の男、恭介に出会う。飲み屋街で自由自在に、地面を這うように移動する彼を見て、真央はその姿に強く関心を持った。 後日、彼と再会し、彼が身体欠損を抱えていることを知る。
由奈とは生きにくさやトラウマを抱えた仲間だったが、ある日、彼女が自殺未遂を起こし真央はショックを受ける。由奈が欲しがっていたサメのキーホルダーを購入するため、恭介と水族館に向かい、憧れだった叔父と彼の姿を重ね、彼の姿に似たポルカドット・スティングレイというエイに出会う。
幻肢痛に苛まれる恭介に真央は寄り添い、心が通じ合ったかのように思えたが、恭介は次第に距離を取るようになり──。

読み終わったあとに、思わず感嘆の声が漏れちゃうほど、美しくて切ない物語だった。
その余韻にしばらく浸った後、僕はもれなく嫉妬を覚えた。

この物語はトラウマを抱えた主人公真央と身体的ハンディキャップを背負った恭介との心の繋がりを描いたヒューマンドラマである。
片足だけでまるでエイのように、車イスですいすいと人のあいだを泳ぐように進む恭介。そんな彼に憧れていた叔父の姿を重ねる真央。
真央と恭介、二人の運命を、詩的にそして情緒あふれる文章で綴られているこの美しい物語に、僕は羨望の眼差しを向けた。自分にはこんな物語は絶対に書けない。


まず、タイトルが美しい。
『片脚のポルカドット・スティングレイ』なんていう惚れ惚れするほどカッコいいタイトルなんて絶対に思い付かない。
ご存知か。ポルカドット・スティングレイってエイの一種だということを。
僕ならきっと『片足になったエイ』というまるで日本昔話のようなタイトルをつけてしまう。
#命を助けてくれたお爺さんのために片足を捧げるエイの話
#そもそもエイって足あるっけ

さらに物語の中には、美しくて独特の雰囲気を纏っている文章がたくさん散りばめられている。

以下、その一部を抜粋させてもらった。

曇夜くもりよは、漆黒が隙間なく空に敷き詰められているようで、喉元や肺に妙な圧迫感を覚えた。濃密で重たい暗闇は動きが停滞し、頭や肩や背中や腕に重力のようにずしりとのしかかる。そして肌の細胞膜からじわじわと闇が染み込んで侵食し、私は私でないものになる。そんな妄想じみた感覚が昔からぬぐえなかった。
 目打ちで刺したような白点が一つでも見つかると安堵した。空に月や星が瞬くと空気がそこから抜ける感覚がした。時間と共に星が移動するのも空間が絶え間なく動いていることを証明してくれた。成長して恐怖心は薄らいだが、いつでも夜明けは待ち遠しかった。

『プロローグ』より

「曇夜」というワードだけで、真っ暗な空とそれに同調するかのように闇に覆われた自分の心が分かります。そして、点々と存在する星を「目打ちで刺したような白点」と表現できる感覚よ。素敵過ぎるぜ、くまさん。
僕なら「星が見えない暗闇に覆われた夜空が、自分の気持ちと共鳴していた」なんてそれっぽいことを書いて、後で読み返して恥ずかしくて消していると思う。夜空と共鳴ってどういうことやねん。


 朝方の天気予報どおり風が強くなり、道端に落ちていたビニール袋がふわりと空中に舞った。どこからともなく雲が空を敷き詰め、地面と空の距離が近くなり、あっという間に世界は狭くなる。自分の呼吸が浅い。酸素濃度が薄いような気がする。気持ちを落ち着かせるために、意識して深呼吸をした。湿った生ぬるい空気が鼻腔を通り抜ける。

『3』より

「どこからともなく雲が空を敷き詰め、地面と空の距離が近くなり、あっという間に世界は狭くなる」
ここの文章めちゃくちゃ好きだ。
曇り始めたら、世界が狭くなるってこれまでに一度も思ったことないけど、言われたら確かにそう!って思う。
ありふれた表現じゃないのに、共感を産む文章って本当にすごい。
僕なら「空が曇り始めた。雨の匂いがほのかに鼻をかすめる」といかにもっぽいことを書いて、満足してしまう。いや、ほのかにとかすめるって同じ意味やろ。


 叔父はいかなる苦しみも味わったことがないようなのっぺりとした顔をして、ずっと昔からここにいたような、あるいはいなくなってしまってもすぐにわからないくらいの、空気みたいな軽さで私の前に存在していた。

 ふうと息を吹いたら、あるいは瞬きをしたら消えてしまいそうでもあるし、永遠にここにい続けてもおかしくはない。彼は、生命の不確かさを保ちながら、じっと壁の方向を見つめている。もちろん、口が開くことも、ことばを発する様子もない。

『7』より

存在感はないけど、確かにそこに存在ることを、空気みたいな軽さと表現する。そして、ふうと息を吹いたら、あるいは瞬きをしたら消えてしまいそうでもあるし、永遠にここにい続けてもおかしくはない、と空気の儚さと確実さをこんなに美しく描写できるのは、きっとくまさんしかいない。僕はもはや空気になりたい。ふうと吐かれて消えたと見せかけて、「いるよー!」とアピールしたい。
#ウザい


ここで紹介したのはほんの一部だ。作品の中にはもっともっとたくさんの美しい文章がある。

『片脚のポルカドット・スティングレイ』
美しい言葉で綴られた美しい物語を是非、堪能して欲しい。

「片足になったエイ」じゃなくて本当に良かった。


※くまさんは、こちらの作品も応募されています。こちらも素敵な物語です。是非一緒にどうぞ


#創作大賞感想
#くまさん
#片脚のポルカドット・スティングレイ
#片足になったエイ

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