俵万智さん×「くるり」岸田繁さん 『GOAT 2026 Winter』に掲載の「ゴートアム短歌賞」開催記念対談を全文公開!
小学館の文芸誌「GOAT」(ゴート)のご厚意で、『GOAT 2026 Winter』に掲載の「ゴートアム短歌賞」開催記念対談をコトアム公式noteにて全文公開いたします!
「GOAT」は今回の第3号までで累計29万部を突破!重版に次ぐ重版を重ねる、新進気鋭、異例の文芸誌です!
豪華な執筆陣や対談が目白押しですので、品薄になる前にぜひお買い求めください!
『GOAT 2026 Winter』

定価:510円(税込)A5判488頁
2025年12月03日発売
ISBN978-4-09-802118-5
https://www.shogakukan.co.jp/books/09802118
「ゴートアム短歌賞」詳細はこちら
「ゴートアム短歌賞」開催記念対談
言葉あむ上海蟹をサラダにあえる
短歌はもっと面白くなる
[対談]
俵万智×岸田繁
司会=渡辺祐(すけ)真(ざね)(書評家)
構成=前川仁之 俵万智撮影=上村窓
一首一首の味わいはもちろん、並べて編むことで見えてくる世界があります。
今回「GOAT」は、短歌や俳句、ショート小説など短い「ことば」を投稿したり、お気に入りの作品をプレイリストで編んで楽しむ投稿アプリ「コトアム」とともに、「ゴートアム短歌賞」をスタートします。
選者は、現代短歌を代表する歌人の俵万智さんと、プレイリスト文化を広めたロックバンド「くるり」の岸田繁さん。
コトアムに投稿された短歌の中から、お二人が自由に十首を選び、アンソロジーのようにプレイリストで編んでいく─そんな新しい試みです。
コトアムアンバサダーにして、書評家の渡辺祐真さんの立ち会いのもと、お二人に歌を並べるおもしろさ、そして、それぞれの創作について、たっぷり語り合っていただきました。
─本日は「ゴートアム短歌賞」選者のお二人に、短歌について、歌について、お話をしていただきます。
俵・岸田 よろしくお願いします。
─ゴートアム短歌賞の「応募作から十首を選んで並べ、プレイリストを作る」という内容は、新機軸の試みだと思います。岸田さんはコロナ禍にSpotify上で「くるりの20曲」と題したプレイリストを自ら公開されていましたね。プレイリストについての思い入れをお聞かせください。
岸田 いま四十九の歳(とし)のぼくにとって、プレイリストというものは、カセットテープの思い出を呼び覚ますんです。中高生の頃、好きなアーティストの好きな曲を集めてカセットテープにダビングして友だちと交換してたのと一緒だなあと。募集テーマの「食」で喩(たと)えるなら、アルバムはコース料理みたいなもので、プレイリストはアラカルトみたいなものかもしれないですね。
俵 とてもわかりやすい比喩ですね。プロに選んでもらうコース料理か、自分で選ぶアラカルトか。楽しみ方は違うかもしれないけれど、それぞれによさがありますよね。
岸田 音楽におけるアルバムないしプレイリストのように、複数の歌を並べて発表されることは、短歌でもよくありますか。
俵 昔は一首一首の勝負でした。例えば、歌(うた)合(あわせ)は一首対一首で優劣を競うものですし、勅(ちょく)撰(せん)集(しゅう)の場合、一首入れてもらえたら作る側としては〝勝ち〟でした。
けれど今は、何首かを並べて発表することが多いので、たいていの歌人は並べ方を大切にしています。よっぽどへそ曲がりじゃない限りは一首目から順に読んでいきますからね(笑)。パンチの効いた歌の後にはほっと一息つきたいとか、同じような技法が続けて並ぶと飽きてしまうのではないかとか、そういうことは常に考えていると思います。
食に喩えるなら、短歌の連作は、串刺しの団子のようなものかも。一首一首は団子で、それぞれ美(お)味(い)しいんです。それが、一本の串、つまりひとつのテーマで貫かれているイメージかな。だから、団子がやせていたり、串が変に太かったりすると、成立しないんです。串のためだけに団子を集めているような状態もよろしくない。短歌はあくまで一首が一作品として完結しているものなので、並びの中から取り出したときに弱く見えてしまう歌はやっぱりよくないんです。
岸田 ぼくの場合、くるりのアルバムは、俵さんのおっしゃるところの団子の串刺しかもしれないです。でも、タイアップ曲や映画の曲などを依頼された場合は、必ず串から作っています。もしかしたら一つ一つの団子としては味わいにくいかもしれないけれど、串が確かなものなら一貫性は出ると信じています。
─プレイリストを作るときはどのように作られるのでしょうか。
岸田 日常では、細かい行程を考えて曲を選ぶことが多いです。ある日のドライブに合わせるなら、ここからここまで所要時間が一時間半くらい、この時間帯にはこのあたりを通るはずだからこの曲か、とか。
仕事で、例えばラジオなどでお願いをされたときには、テンポ、BPM、キー(調)を考えて並べていくのが基本で、聴く方が受ける印象を想像することを大切にしています。
でも、音楽をやってないであろう人が作ったプレイリストを、うわーこれいいなあ、と思うこともよくあります。おそらく、素直な気持ちで作られてるんだと。いいプレイリストに技術とか理論はあまり関係ないんじゃないかな。そのぶん、思い入れが中途半端だと、そのプレイリストは機能しなくなるようにも思います。
俵 うんうん。もちろん、てんでんばらばらじゃ意味をなさないけれど、かといって理屈があんまり見えすぎるとつまんなくなっちゃうんですよね。
短歌の場合、並べ方によって明らかに影響を受けておもしろくなるっていうことはあります。自分の話になりますが、かつて次のような歌を詠んだんです。
地図に見る沖縄県は右隅に落ち葉のように囲われており
沖縄が別枠で描かれた日本地図は、だれしも見たことがあると思います。沖縄は距離が離れているから。あの描き方、見え方をうたった歌です。
もう一首、マングローブを詠んだ歌があります。これは、沖縄に住んでいたときに詠んだ歌。マングローブって、海水と淡水が混ざる汽水域に生息しているんだけど、塩水が好きなわけではなく、ライバルが少ないから、という理由で汽水域にいるんですって。塩分は一枚の葉っぱに集めて、枯らして落とすことで排出していて、枯れて黄色くなった葉は、「犠牲の葉」と呼ばれているんだそうです。
一枚に塩分集め落とす知恵 マングローブに「犠牲の葉」あり
この歌単体はシンプルだけれども、歌集を編むときに、先ほどの地図の歌の次に、犠牲の葉の歌を置いてみたんです。そうしたら、意味が生まれた。日本は沖縄に塩分みたいなもの、基地がまさにそうですよね、を押しつけて、まるで犠牲の葉のようにしとるんちゃうんかというニュアンスが新たに生まれて、それは自分の中でも新鮮に感じた覚えがあります。別々に作った歌でも並べることで意味が重層的になるという、そういうおもしろさがありますね。
岸田 いまの二首のお話、すごく刺激的でした。いわゆるシンガーソングライターの歌というのは、文字数がかなり多いなと……ぼくは歌詞を書くのが実は苦手でいつも悩むんですけど、俵さんが二つの歌を詠まれたように歌詞を編んでいくといいかもしれないと思いました。発見です。ありがとうございます。
─俵さんも校歌の歌詞等、作詞をされることがありますよね。短歌の作歌とはやはりまったく違うものですか。
俵 短歌は言葉一〇〇%で完成品ですけど、歌詞はそのあとメロディーがついて、さらに肉声で歌われて、それで完成だから、余白を残しておきたいという気持ちで作っています。「I love you」というシンプルな表現だって、すごく歌唱の上手な方が、心を込めて、素敵なメロディーで歌ったら、伝わり方は段違いなわけだから。歌詞を書くときは、歌われる方を信頼していかに手放せるかということを気にかけています。
「これがもう、たまらん!」
─岸田さんは知る人ぞ知る短歌ファンで、千(ち)種(ぐさ)創(そう)一(いち)さんの歌集『砂丘律』をいちはやく評価され、帯文を書かれるなど、新しい才能の発掘にも貢献されていますね。短歌に興味を持たれたきっかけをお聞かせください。
岸田 対談の席でこういう話をすると嘘(うそ)くさく聞こえてしまうかもしれませんけど、俵さんの歌はかなり若いころから、読ませていただいています。つまりきっかけは俵さんで、だいぶ影響を受けたと自分では思っています。
『生きる言葉』も読ませていただきました。かの有名な『サラダ記念日』で、上(かみ)の句の「この味が」の「じ」が濁音であることとか、六月じゃなくて七(しち)月(がつ)であることで、サラダのS音と合わせていることとか、腑(ふ)に落ちることばかりでした。
俵 お忙しいのに、ありがとうございます。私のほうは、岸田さんに「琥珀色の街、上海蟹の朝」についてぜひお訊(たず)ねしたかったんです。
ラップ好きの息子に言わせると、この曲はすごく巧みに文末で韻を踏んでいるけれど、いかにも踏みそうなところで踏んでいないところが素敵だと。そう言われて改めて聴いてみると、たしかにそうで、そこが何かグッときます。ほんとうに言いたいことを言っているところで韻をはずしているのかな。「吸うも吐くも自由 それだけで有り難い/実を言うと この街の奴らは義理堅い/ただガタイの良さには 騙(だま)されるんじゃない」、ここまではアアイで韻を踏んでますよね。もう絶対このままくるぞと思ったら「お前と一緒で皆弱っている/その理由は 人それぞれ」で外されるんですよ。これがもう、たまらん! と。大好きな曲です。
この曲は、順番で表現をするということを考えるうえですごくヒントになる曲です。今回の「ゴートアム短歌賞」の参考にもなると思う。タイトルの「琥珀色の街、上海蟹の朝」に至るまでの持っていき方は、ものを並べるときのひとつの王道といえるかもしれません。
岸田 光栄です。実は、この曲に限らず、いちばん目立たせたい、聞いてほしい、そういう部分はあえて外すということは、かなり意図的にやっています。ぼくはひねくれもんなんで、積み上げてきた流れをガラッと変えちゃう。まさに今、その部分に言及いただいたわけですね。まあ、バレちゃったと(笑)。
俵 いまね、創作の秘密を聞いてしまった感じがして、ドキドキしました。
岸田 ぼくは今も俳句とか短歌がすごく好きで、繰り返しになりますが俵さんの歌がきっかけだったと思っています。短歌は、一首で映画を一本観(み)た後に近い気持ちになれる。五・七・五・七・七でそれだけの感動をいただけるジャンルだと思います。俵さんのこの歌とか、すごく好きです。
言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ
あとこれもいいですね。
我が部屋に銀杏(いちょう)は降らず小さめのゴミ箱さがす東急ハンズ
やっぱり風景と経験の表現の素晴らしさなんでしょうかね。先ほどのマングローブの歌もそうですけど、そこにあるものや見えているもの、匂いや温度がすっと入ってきて、バランスよくいまここにいる自分自身の気持ちと重なるんですよね。
俵 うれしいです。これだけで今日はもうしあわせな気持ちだけど、せっかくだからもう少し岸田さんの創作の秘密をお聞きしたいです。岸田さんは曲を作る際、歌詞と音楽どちらを先に考えますか?
岸田 いちばん望ましいのは、音楽の構築を始めたその時に言葉がスッとついてくることです。でも、複雑な曲だとなかなかうまくいかないことも多いので、音楽が先で、後から歌詞を作るほうが多いかもしれないですね。
音楽は物理や数学に近いものだとぼくは思っていて、不自然にならないように作るためには和音に関するルールをはじめとした型がたくさんあります。意外にも不自由です。
俵 メロディーが、私たちにとっての五・七・五・七・七型にあたるんですね。短歌やそのほかの文芸の場合、言葉そのものは発明できないけれど、組み合わせは発明できますよね。サラダと記念日をくっつけるとか、チョコレートと革命をくっつけるとか。意外なものをくっつけたときにフレッシュなものが現れる。そういう意味では音楽より言葉のほうが自由度は高いのかな、といまうかがっていて思いました。
岸田 サラダ記念日という組み合わせは、もしかしたらその当時には不協和音だったのかもしれないけど、俵さんが前例を作ったことによって、みんなが新たな組み合わせを使えるようになったと思うんですよね。「こう言ってもいいんや」って。新しいルールが次々と生まれていくその自由度は、言葉のほうが圧倒的に高いと思います。音楽の場合、ルールや型から離れすぎると、専門的な知識のない人にも一発でわかられてしまいますから。
感じのいい脇役が狙い目!?
─俵さんは短歌の賞の審査の経験を重ねられてきたと思いますが、ゴートアム短歌賞のおもしろみはどのようなところにありますか。
俵 私、並べるの大好きなんです。並べるのは、歌集を編むときも、最後のお楽しみ! そう思っているので、応募していただいた作品を好きに並べていいなんて、いまからよだれが出てきそう(笑)。
岸田 募集テーマは「食」だそうです。俵さんには縁の深いテーマだと思いますが。
─「琥珀色の街、上海蟹の朝」も、「食」の歌ととれますよね。この機会にぜひ短歌を一首、お詠みになってみてほしいです。
岸田 宿題は出されたらやるほうなので、きっとやります。でも恥ずかしいな、AIに詠ませようかな(笑)。
俵 参考になるかもしれないので、私が選んできた「食」の歌をいくつか紹介しますね。まず小道具として食が出てくる例として、私の先生、佐佐木幸(ゆき)綱(つな)さんのこの歌。
サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝(なれ)を愛する理由はいらず
比喩として食を使うこともできます。たとえば馬場あき子さんのこの歌。面白いですよね。
都市はもう混沌として人間はみそらーめんのやうなかなしみ
もちろん食べ物を主役にすることもできます。
酒のみてひとりしがなく食うししゃも尻から食われて痛いかししゃも
石田比呂志さんという、私の大好きな、酔っ払いのおっちゃんの歌です。ししゃもが主役ですが、本人が投影されているようにも読めますね。こうやっていろいろ楽しんで作ってもらえたらいいなと思います。
最後に私がすごく好きな歌として、安(あん)立(りゅう)スハルさんの一首を。
一皿の料理に添へて水といふもつとも親しき飲みものを置く
岸田 素晴らしい。
俵 いいですよね。やっぱりこういう水のような歌が最後にはいちばん生きると思うんですよね。これまで短歌賞に応募された方々は、みなさん自分が主役だと思ってきたかもしれないけれど、今回は視点を変えていただくのも一興かなと。主役級の歌も欲しいし、感じのいい脇役にもいてほしいです。
岸田 審査がますます楽しみになってきます。音楽の審査員をやるとなったら手厳しいことも言ってしまいそうになりますけど、短歌はいい距離感で向き合えそうです。言葉が好きな人たちと一緒に楽しむ感覚で編ませていただこうかなと思っています。
─ありがとうございました。読者のみなさまもふるってご応募ください。
「ゴートアム短歌賞」とは?
選者の俵万智さん、岸田繁さんが、アプリ「コトアム」内のお題「食」に投稿された応募作の中からそれぞれ十首を選び、プレイリストを編むものです。なおプレイリストの選考とは別に、お二人の心に残った短歌も発表します。
「ゴートアム短歌賞」スケジュール
応募受付期間
2025年12月3日(水)正午〜
2026年1月15日(木)23時59分まで
結果発表
「GOAT」第4号(2026年6月頃発売予定)の誌面上にて
副賞
図書カードNEXT1万円分(最大20名)
アプリ「コトアム」
ダウンロードはこちらから
iOS版 URL https://x.gd/aduUl

Android版 URL https://x.gd/G6W3F

