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【エッセイ】「きらきらした海外ノマド」なんて、どこにもいなかった。

華やかなSNSの裏側には、いつだって泥臭い現実と、誰にも言えない誇りがあります。 南国のビーチでカクテルを飲みながらMacBookで・・・なんて、僕らの日常には存在しません。あるのは土埃と、理不尽と、小さな矜持だけ。 これは、華やかな幻想を捨て、現場に生きる裏方たちの、静かな夜の独白です。


「きらきらした海外ノマド」なんて、どこにもいなかった。

──僕が選んだ『ブルーカラー・ノマド』という生き方


「海外ノマド」という言葉には、どこか甘い響きがあります。 南国の白い砂浜、風に揺れるリネンシャツ、そして膝の上には一台のラップトップ。 波音をBGMに、指先ひとつで世界を動かす……。

そんな映像の美しさを否定はしませんが、私たちが実際に生きている時間は、もう少し土埃にまみれ、生活の匂いがするものです。 だから私たちは、少しの自嘲と、そして秘めたる誇りを込めて、自分たちのことをこう呼んでいます。 「ブルーカラー・ノマド」と。

私たちは、スマートなホワイトカラーでもITエンジニアではありません。 SNSのタイムラインを飾る華やかな瞬間は、長い旅路のほんの瞬き。 残りの九割は、地味で、骨の折れる「段取り」という名のレンガ積みに費やされています。

プロジェクトの幕が下り、深夜のホテルに戻ったとき、私が最初にする「儀式」。

グラス片手に、窓の外へ独りごちる……わけではありません。 そこにいるのは、洗面台でシャツをごしごしと手洗いし、「明日の出発までに乾くだろうか」と気をもむ、一人の小心者です。

慣れない硬水は肌をきしませ、異国の洗剤の匂いが鼻をかすめる。 湿度の高い部屋に干された洗いざらしのシャツは、決して写真には写らない私たちの現実そのものです。

誰にも称賛されず、エンドロールにその名が刻まれることもない。 異文化の壁や、理不尽な政治、気まぐれな投資家のささやきひとつで、積み上げたレンガを一瞬にして崩される夜もあります。

それでも、翌朝にはまた現場に立ち、黙ってレンガを積み直す。 感情を静寂の中に沈め、淡々と手を動かすその姿は、あるいは冷徹に見えるかもしれません。 けれどそれは、関わるすべての人を守るための、私たちなりの「紳士の甲冑」なのです。

なぜ、そこまでして修羅場へ戻るのか。

おそらく私は、その現場にある「荒れた手」が好きなんでしょう。形が残れば終わったあとには確かな達成感がある。

無事に仕事を終えた夜、缶ビールを合わせる仲間たちの手。 日焼けし、ささくれ立ち、爪の間には現地の土が残っているかもしれない。 優雅さとは程遠いその手ですが、私にはどんな宝石よりも美しく、尊く映ります。

「今夜も、なんとか収まりましたね」

言葉を交わさずとも、目配せだけで通じ合う安堵の瞬間。 その一瞬の温もりに触れたくて、私はまた、次の街へと旅立つのです。

もし今夜、あなたが誰にも気づかれない場所で歯を食いしばり、少し孤独を感じているのなら。 遠い空の下、同じように硬い水でシャツを洗い、不器用な手を見つめている男たちがいることを思い出してください。

場所は違っても、私たちは同じ「現場」という星の上を生きています。 泥臭く、傷だらけで。 けれど、その手は誰よりも温かいことを、静寂な夜だけは知っています。


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Satoshi 現在、キルギス共和国に住んでます。キルギスでは幼稚園が圧倒的に不足しています。いただいたチップは幼稚園の設立の為に使わせていただきます。