バトン~まだ見ぬ人から届いた思いやり~
私は七年前、「後縦靭帯骨化症」という難病で、首の金属固定手術をした。
そして、その二年後。
今度は腰の金属固定手術を受けることになった。
その頃の私は、すでにカラオケアプリを始めていて、一樹と出会って一年ほど経っていた。
毎日DMをし、歌を聴く。
でも、まだ一度も会ったことはなかった。
それでも、一樹は私の手術をとても心配してくれていた。
入院前日。
私は、一樹にひとつお願いをした。
徳永英明さんの『バトン』を歌って欲しい、と。
私にとって『バトン』は、「大丈夫」と背中を押してくれる歌だった。
不安で押し潰されそうになるたび、その歌に励まされてきた。
入院当日。
病院の受付で、突然声を掛けられた。
「昨日、ことりさんに渡して欲しいと預かったお届け物です。」
「えっ? 私にですか?」
病院で誰かから荷物を受け取るなんて初めてだった。
「名前は伏せて欲しいそうです。」
誰だろう。
不思議な気持ちのまま、小さな箱を受け取った。
箱を開けた瞬間、分かった。
一樹だ。
中には──
私は息をのんだ。

全部、一樹だった。
ピンクのお守り。
白いお守り。
黒いバッグ。
Amazonギフトカード。
そして、高級な箱ティッシュ。
思わず笑った。
そして、そのまま泣いた。
「一樹や…」
私は病院名を伝えていなかった。
「〇〇の近くの整形外科」
そう伝えただけだった。
それだけの情報で、私を見つけてくれた。
どうやら、一樹はGoogleマップで病院を探してくれたらしい。
仕事の合間に、愛知から京都へ。

二つのお守り。
神社へ立ち寄り、そのまま病院へ。
そして、その日のうちに愛知へとんぼ返りした。
まだ、一度も会ったこともないのに。
私は付き添いで来てくれていた息子の前で、受付に立ったまま泣いた。
すぐに一樹へ感動と感謝のDMを送った。
すると一樹は、
「頑張ってね。
何もしてあげれへんけど🥺」
と返してきた。
いや。
十分すぎる。
今思えば、どうして前日だったのだろう。
手術当日は会えない。
だから、前日だったのかもしれない。
もしかしたら。
ひょっとしたら。
少しだけでも会えるかもしれない。
そんな期待を、二人とも心のどこかで抱いていたのかもしれない。
あとになって知った。
あれは、
ただのプレゼントじゃなかった。
全部に、
ちゃんと理由があった。
バッグには

「歩行器に掛けられるやつ探した。」
そんな一言だけ添えられていた。
Amazonギフトカードは、
コロナ禍で面会できない代わりに、
必要な物を病院へ届けられるように。
箱ティッシュは、
以前DMで私が、
「入院中、一樹の歌いっぱい聴いて泣くから…。
泣きすぎて顔ぐちゃぐちゃなるわ!笑
真っ赤っかになるわ!笑
箱ティッシュいっぱい要るわ!笑」
と笑って話したことを、
覚えていてくれたからだった。
「ちょっと贅沢なん入れといた🙄👍」
その一言が、
なんだか、一樹らしかった。
そして手術当日。
私はスマホを手術室へ持って行き、
一樹が、私の為に唄ってくれた、
徳永さんの『バトン』をリピートで流してもらいながら、手術に臨んだ。
最後まで箱の底に残っていたのは、
白いイヤホンだった。
「あれ?」
その瞬間、思い出した。
家のイヤホン、片方壊れてたんや。
「俺の歌、ちゃんと聴いてや😏👍」
そんな声が聞こえた気がした。
イヤホンから流れる歌声。
病室で受け取った、お守り。
歩行器に掛けられるよう選んでくれたバッグ。
少し贅沢な箱ティッシュ。
そして、ちゃんと歌を聴けるようにと入れてくれたイヤホン。
あの日の私は、
ひとりじゃなかった。
手術室へ向かった私の隣には、
誰もいなかった。
でも、
心だけは、
ちゃんと隣にいてくれた。
あの日から私は思う。
人は、会った回数じゃない。
想ってくれた深さで、
心の距離は近くなるんやと。
今でも『バトン』を聴くたび、私はあの日の病院を思い出す。
【🐥🌸他の作品もよろしければ🥰🌸】
(👌❤️感動シリーズをまとめてみました💞)
