【連続小説】Birthday 第六章 星良(2)
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「ねえねえねえ、見て見て!」
瑞稀が興奮した様子で言う。
早速祖父の日記の続きを読んできたあたしは、瑞稀が他の話をしてきたのをちょっと意外に思った。昨日あんなに夢中だったのに。
ま、日が変われば興味の対象だって変わる、か。
私の方はすっかり新しく仕入れたネタで盛り上がるつもりだったわけで、一抹の寂しさを覚えなかったといえば嘘になる。だがひどく熱を帯びた瑞稀の目つきに逆らうのも躊躇われた。
こっちの話はあとでもいいか。
気を取り直して、訊き返す。
「え、なになに? どうしたの?」
「うん。見てて」
言って消しゴムを乗せた手のひらを目の前に差し出す。と、まもなく。
「えっ?」
あたしは目を疑った。
消しゴムが、なんの支えもなく、ふわふわと、宙に浮いたからだ。
「え、なにこれ。どうなってるの? 手品?」
「それがね、タネも仕掛けもないのよ」
浮かんだままの消しゴムをパッと手で掴んで、瑞稀は言う。
「え? ちょっと瑞稀、それって」
「魔法? それとも超能力、ってやつかな」
なんとなく古風な響きのする言葉に、あたしは眉を顰めた。
「それ、マジ?」
「マジマジ」
「なんで気付いたのよ」
「いやあ、昨夜さ、課題やってて、行き詰まってなんとなく消しゴムいじっててさ。気がついたら、浮いてた」
「浮いてた、って」
あっけらかんとした言い方に半ば呆れる。
「消しゴムだけなの? ほかのものは? やってみた?」
「あ、うん。鉛筆はいけた。ノートとか教科書は無理。他にはキーホルダーとか、缶バッジとか、いろいろ。よくわかんないけど、あんまり大きかったり、あんまり重かったりするとダメみたい」
「本格的だねえ」
しみじみと言う。これは確かに昔の日記どころではないかもしれない。
「で、どうすんの?」
「どうするって……別に?」
「え、別に、って」
「だって、変に騒がれてもめんどくさいじゃん。そのうち動画撮って公開しようかなとは思ってっけど。ね、バズるかな」
「わかんない、けど……」
「トリックだって思われてもつまんないしなー。でも、お小遣い稼ぎになるならやってもいいな。どう思う?」
「そうだねえ」
あたしは考え込む。
瑞稀は目下ちょっと面白い手品の延長くらいにしか考えていないようだが、しかし。
あたしには、思い出さずにはいられないことがあった。
「あのね、実はさ、うちの親、昔ちょっとそんなような力があったらしいのよ」
瑞稀はきょとんとしてこちらを見返した。
「え、何それ、初耳」
「いや、あたしが生まれてからはなくなっちゃったし、どっちみち大した物じゃなかったらしいからね。でもね、当時は、あまり大ごとにしないように気をつけてたって。まあ、揃って控えめな性格してるから、ってのもあるんだろうけど。悪目立ちしてもいいことないから、みたいなことはさ、何度か聞いたよ」
「ううん。経験者の言葉かあ」
瑞稀は考え込んだ。あたしは続ける。
「まあ、瑞稀次第だよね。ああいうのって結局、何がバズるか読めないからさ。下手したらインチキ呼ばわりされて叩かれて終わりってこともあるし」
「そっかー。そうだよねえ。よし! じゃあ当分は、友達に自慢するだけにしとくわ。あとのことは、後で考える!」
あたしは笑顔を作って、言った。
「うん、いいんじゃないかな」
瑞稀の噂はあっという間に広まった。他のクラスの人や、他学年の人までもが見にくるようになって、休み時間のうちのクラスには、毎度ちょっとした人だかりができた。
瑞稀は祖父の日記のことはすっかり忘れたようで、あたしもなんとなく興味を削がれて、瑞稀の「超能力」を見守ることに興味を移していた。興味、と言うより、無邪気にはしゃいでその力を見せびらかす瑞稀は、どこか危ういように感じられて、目が離せなかったと言うのが正しい。とは言っても具体的にどう危ないとか思ってたわけじゃない。悪目立ちして傷つくようなことにならなきゃいいけど、くらいの気持ちだった。
だが、心配するほどのことは起こらなかった。それはもちろん揶揄するひとやアンチのような連中が全くいなかったとは言わない。だが所詮は少数派。人目に晒される中で直接何かを言ったりしたりしてくるような者は皆無だった。
やがて訪れる人の数が減り始め、そろそろみんな飽きてきたのかな、この騒ぎも収束かな、と思い始めた頃、この現象は新たな段階に突入した。
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