凪野 さら|沈黙の系譜|ポケットの中は、小さな博物館だった
子どもの頃の私のポケットには、
いつも何かが入っていた。
ゼンマイ。
バネ。
ネジ。
ヒューズ。
誰かが見れば、
ただのガラクタ。
でも、私にとっては違った。
どうして動くのだろう。
どうして光るのだろう。
どうして回るのだろう。
知りたくて、仕方がなかった。
二歳で目覚まし時計を分解し、
古墳を探検し、
石室に入り、
お墓で石鏃を拾い、
昆虫採集をして、
植物採集や貝殻標本を作る。
顕微鏡をのぞき、
プレパラートを作り、
じゃがいもからでんぷんを取り出し、
虫眼鏡で太陽の光を集めて新聞紙を燃やす。
祖母には、
「火事になったらあかんから、バケツの上でやりなさい。」
と教えられた。
だから実験は、
いつもバケツの上だった。
新聞紙が燃えすぎて慌てた日もある。
アルミ板で太陽光を反射させ、
フラスコの水を温めて遊んだこともある。
母はクリーニングに出すたび、
「またこんなものポケットに入れて!」
と呆れていた。
けれど、
私には宝物だった。
世界は、
分解してみると、
もっと面白かった。
だから今も私は、
写真を撮り、
文章を書き、
作品を残し、
毎日の暮らしを記録している。
子どもの頃に集めていたのは、
ガラクタではなかった。
世界の仕組みを教えてくれる、
小さな博物館だったのだ。
人生をアーカイブすることは、
過去を懐かしむことではない。
「あの日の私」が、
「今の私」をつくっていることに気づくことだ。
だから今日も私は、
ひとつずつ記録を残していく。
何気ない一日も、
やがて誰かの歴史になる。
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© 凪野 さら|沈黙の系譜
暮らしを整えながら、
人生をアーカイブする女。
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