『運動音痴は存在しない』─ 我が子と自分の体を変える、動きの設計図【前編】
── 3つの階層を知れば、「頑張れ」が「ここを鍛えよう」に変わる
序章|「もっと頑張れ」と言えない父親たち
陸上アカデミーで子供たちを指導していると、いつも父親の熱量を肌で感じます。
試合を見つめる父親の目には、単なる応援以上のものがある。
息子に自分を投影している。
昔スポーツで活躍できなかった悔しさを、息子を通して晴らそうとしている。
「息子に活躍してほしい」という期待と、
「まだ10歳ばかりの息子には負けたくない」という葛藤。
その板挟みの中で、父親は言葉を飲み込んでいる。
そして気づけば、自分の体も思うように動かなくなっている。
「息子に負けるにはまだまだ早い」
そう思いながら、自分の体の衰えとも戦っている。
でも、ここではっきり言いたい。
運動は、センスや根性だけで片付けてはいけない。
動きには「絶対正解」はないが、「不正解」は存在する。
多くの人が絶対に外してはいけない要素と、遊びを持たせていい部分が、ごちゃごちゃになっている。
そして、その基準を知れば、
子供の動きも、自分の体も、同じ視点で改善できる。
今回の記事では、あらゆる身体動作に共通する「3つの階層」をベースに、
我が子の成長と、自身の体のパフォーマンスを同時に高める視点 をお伝えしていきます。
必要なのは、たった一つ。
「見る基準」を、手に入れること だけだ。
第1章|なぜ「頑張れ」では変わらないのか
─ 暗黙知を言語化する意義
「集中しろ!」
「もっと力入れろ!」
このように言われても、どのように集中していいのか、どのように力を入れていいのか、誰も教えてくれなかった。
何をしろとは言うが、どのようにあるべきかは誰も教えてくれなかった。
これが、僕が選手時代に抱えていた最大の苦しみだった。
■ 感情ではなく、プロセスを共有する
コーチたちは動きまでは見れないから、抽象度の高い言葉でまとめられる。
これまでの指導者たちは、改善策がわからないから、できないところばかりに目が行き、
「どうすればできるか」までたどり着くことができない。
大切なのは、
選手と指導者が、動きに対して共通言語で同じ認識を持っているか ということだ。
「できていない」ではなく、「どうすればできるか」
「ダメだ」ではなく、「ここを変えれば良くなる」
こうした プロセスの共有 が、指導をシンプルにし、子供や選手の自信を育てる。
■ 「見る基準」を持つだけで十分
誤解しないでほしい。
必ずしも筋肉や関節といった解剖学や生理学といった細かいところを覚える必要はない。
好きだったら勉強すればいいけど、解剖学は動きの本質じゃない。
動きに対して「細かく見る」という視点 が必要なだけだ。
例えば、ジャンプという動作。
ただしゃがんで飛ぶだけではなく、細かく見ていけば:
足の裏はどのように付いているのか
腕の振りはどうなっているのか
しゃがむときの股関節の角度はどうなっているのか
このように、分解して見ていくことが可能になる。
この考え方は、スポーツをやる人だけでなく、一般の人にも応用できる。
お父さんがプロのコーチである必要はない。
大切なのは、「分解して見る」という考え方を知ること。
これは、お父さん自身の体にも、まったく同じように使える視点だ。
第2章|すべての動きは「3つの階層」で説明できる
─ アビリティ・テクニック・スキルという設計図
「運動神経が悪い」
この一言で片付けてしまうことに、僕は大きな問題があると思っている。
僕自身、さんざん「運動神経が悪い」と言われ、悔しい思いをしてきたからだ。
でも実は、運動神経という一言では片付けられない、明確な3つの階層 がある。
■ 第1層:アビリティ(基礎体力)
スピード、パワー、持久力。
これは、いわば 「エンジン性能」 だ。
どれだけ速く走れるか、どれだけ力を出せるか、という土台。
この階層は、鍛え続けていかなければならないものである。
車で言うと、エンジン機能に当たる。
実は、スポーツのテクニックを指導するコーチは、ここを見過ごしやすい。
いや、正直に言えば、舐めている。
だが、どんなに優れた技術も、エンジンが動かなければ意味がない。
テクニックやスキルがいくらあっても、アリはゾウには勝てない。
■ 第2層:テクニック(動きの巧みさ)
正しい身体の使い方、動作の効率、力の伝え方。
車で言えば 「運転技術」 だ。
同じエンジンでも、運転が上手ければ速く、燃費も良くなる。
この記事の参考文献となる『身体動作解体新書』の著者・里大輔さんは、
テクニックを 「ライン・ポジション・タイミング」 と表現している。
著書はこちら
この階層の特徴は、一度手に入れると失われにくい能力 だということ。
それはドライバーに当たる、体の操作方法だからだ。
自転車の乗り方は忘れないのと同じである。
乗り方は覚えていても、アビリティは低下しているから、速さ、力強さ、持久力は低下する。
坂道が、こどもの頃よりも辛い理由はテクニックではない。
ただし、変な癖がついてしまうと、改善するにも時間がかかるのがテクニックでもある。
■ 第3層:スキル(状況判断・駆け引き)
見るチカラ、判断するチカラ、決断するチカラ。
これは アビリティやテクニックを
使いこなす**「戦略」** の部分だ。
いつ、どこで、何をするか、という判断力。
スポーツのコーチは、この分野がとにかく好きだ。
ゲーム形式の練習は、この階層に当たる。
一方、フィジカルコーチが苦手な分野でもある。
だが、下の階層のアビリティやテクニックと組み合わせると、かなり効果的になる。
■ 「つまずき」の正体を見抜く
この3つの階層を理解すると、何が変わるか。
例えば、サッカーで相手を抜けないとき:
アビリティ不足:単純にスピードが足りない
テクニック不足:体の使い方が悪く、加速できていない
スキル不足:タイミングや方向の選択を間違えている
どの階層でつまずいているかを見分ける だけで、
「頑張れ」ではなく、「ここを鍛えよう」と具体的に言える ようになる。
僕自身、ボクシングをやっていたとき、「センスがない」と言われた。
強いパンチが打てなかった。
でも今なら、分解して説明できる:
アビリティ不足:スピードが足りなかった
テクニック不足:体の使い方が悪く、パンチに体重を乗せられなかった
スキル不足:パンチを打つタイミングが悪く、反応し判断までが遅かった
「センスがない」で終わらせず、どこに原因があるかを言語化できる。
これが、この視点の強みだ。
■ あなた自身の体にも当てはまる
「最近、走るのが遅くなった」と感じるとき。
アビリティが落ちている?(筋力・持久力)
テクニックが崩れている?(フォーム・姿勢)
スキルの問題?(ペース配分を間違えている)
イチロー選手やカズ選手のように、年齢を重ねても活躍できるのは、
センスや根性ではなく、「動き」というものを理解しているから だ。
マラソン大会で70歳でも僕より速い人はたくさんいるし、
富士山を登る人なんて、若い人より年齢を重ねている人の方が速く進めたりもする。
この視点があれば、「歳だから」で片付けず、改善の余地を見つけられる。
第3章|「帳尻合わせ」がケガと癖を育てる
─ 代償動作というリスク
スポーツ科学が進んだ今でも、
「数をこなせ!」「根性で乗り切れ!」 というのが、まだまだ当たり前だ。
それを耐えられる強靭な人や、自然と動きの階層を習得している人だけが活躍し、
そうでない人は、ケガや挫折で消えていく。
これが現状だ。
僕がプロボクサーとして35歳まで試合に出られたのは、
トレーナーという仕事を通して、この「動きの階層」を学び、研究してきたから だ。
根性や才能ではない。
理解と実践があったからだ。
■ 体には「予算」がある
家計を管理するように、体にも「練習量の予算」がある。
体は、目的達成のためには、自分の限界をこえる仕組みがある。
例えるなら、持っている体の貯金を使い果たして、借金をしてでも、目的を達成しようとする。
だから後で、その反動が帰ってきて痛い目にあう。
それが ケガ であり、パフォーマンス低下の最大要因 である。
限度額を超えれば、赤字=ケガ。
これは子供も大人も同じだ。
■ 代償動作という「ごまかし」
土台(アビリティ)が不足しているのに、過大な要求をすると、
体は 「帳尻を合わせるための動き」 を勝手に始める。
疲れてフォームが崩れる
無理に力を入れて、別の部位に負担をかける
肩肘を壊しながら、投げ続ける
これが 代償動作 だ。
一時的には成立するが、ゆがみとケガのクセになる。
例えば、野球のピッチング。
パワーやスピード、体の使い方が不足していると、
速い球が投げられないだけでなく、体に無理が生じ、肘や肩を痛めてしまう。
代償動作も1回、1球、1秒だけならいいかもしれない。
でもスポーツは、そんな短時間で終わるものではない。
練習でも繰り返すため、正しい使い方が重要になってくる。
■ 「力で殴る」と「形でごまかす」
アビリティ不足をテクニックで補う → 変なクセがつく
テクニック不足を力で補う → ケガをする
どちらも危険だ。
これは大人もこどもも同じ。
腰が痛いのに無理して走る。
膝が悪いのに力任せに動く。
それは、代償動作を積み重ねているだけかもしれない。
僕自身、柔道時代に父に「力も技のうち」と教えられた。
正しい力の使い方を理解していなかったから、無駄に力む時間が増え、
腰や首の痛みを抱えながら競技生活を過ごしていた。
特に1番悔しかったのは、
僕の柔道を見て、仲間たちから 「動きが硬い」「ギクシャクしている」 と言われることだった。
運動オンチの柔道時代についてはこちら
■ バランスを見る視点──チューブ型思考

大切なのは、「今の土台で、どこまでできるか」を見極めること 。
動きは、下から積み上げるものだけではない。
どんな動作をしたいのか、そこから逆算する。
どんなスピードが必要なのか?
どのようなタイミングで動くのが良いのか?
どのような判断をしてリアクションを取るのがベストなのか?
ゴールをイメージして練習をすることで、必要なものを効率よく学べる。
「根性」や「集中しろ」といったものではなく、スマートに頑張ることができる ようになる。
これが、「チューブ型思考」 だ。
ピラミッドのように下から積み上げるのではなく、
ゴールから逆算して、必要なものだけを効率よく整え鍛えていく。
昔のピラミッド構造の考え方とは違う、基礎体力を積み上げていかないといけない呪縛から逃れられる。
とにかく走れ!なんてもう古い。
上から覗き込むような「パフォーマンスチューブ」という考え方 が、今の時代には必要だと思う。
まとめ|3つの階層で見る世界
ここまで、身体動作に共通する 「3つの階層」 をお伝えしてきました。
■ 3つの階層を振り返る
第1層:アビリティ(基礎体力)
スピード、パワー、持久力。「エンジン性能」に当たる土台。
第2層:テクニック(動きの巧みさ)
正しい身体の使い方、動作の効率。「運転技術」に当たる操作方法。
第3層:スキル(状況判断・駆け引き)
見る・判断する・決断する。瞬時に使う「戦略」に当たる思考力。
■ あなたが手に入れたもの
この記事を通して、あなたは 「見る基準」 を手に入れました。
子供の動きを 「運動神経」で片付けず、分解して見る視点
自分の体を 「歳だから」で諦めず、改善する視点
「頑張れ」ではなく、具体的なプロセスを共有する言葉
そして何より、
子供と自分、両方の成長を同じ視点で見守れる ようになったはずです。
■ 実践は、シンプルに
まず今日から、この3つを意識してみてください:
子供の動きを3つの階層で見る
「どの階層でつまずいているか?」を観察してみる自分の体も3つの階層で見る
「何ができなくて、何ができるのか?」を分析してみる「できていること」を言葉にする
バッドワードではなく、グッドワードで声をかける
知れば見える。見えれば変えられる。
あなたと、あなたの子供の可能性は、まだまだこれからです。
【続編予告】次回からの展開
本記事では、「3つの階層」という設計図 を中心にお伝えしてきました。
次回以降は、より実践的な内容として、
「動きを見る3つのフィルター」 についてさらに詳しく解説していきます。
■ 次回予定:第4章「動きを見る3つのフィルター」
どんな競技でも、どんな動作でも、
「ライン・ポジション・タイミング」 という3つのフィルターを通せば、必ず言語化できます。
ライン:体のどこに「まっすぐな軸」があるか
ポジション:体重はどこに乗っているか(勝ちポジション vs 負けポジション)
タイミング:どこから、どの順番で動き始めるか
これを知れば、
「肩を上げるな」では直らなかった問題が、原因から解決できる ようになります。
■ 今後の展開
第5章:日常が、競技を作る
勝ちポジションを習慣化する方法
第6章:「欲しい結果」の一コマ前を設計する
初動とポジション設計の実践
第7章:「グッドワード」で人は動き出す
コーチングの本質とコミュニケーション
第8章:「歳だから」で終わらせない
言語で学び、再現性を高める方法
第9章:大人と子供は、同じ設計図で動いている
一貫したフィルターで見る世界
「この視点、もっと知りたい」
そう思っていただけたなら、ぜひフォローしてください。
【参考文献】
本記事は、『身体動作解体新書』(里大輔著)の内容をベースに、
父親と子供、双方の成長 という視点で再構成したものです。

より詳しい理論的背景や、競技別の具体的な応用例については、
ぜひ原著もお読みください。
【あとがき】
「子供のために」と思って学んだことが、実は 自分のためにもなっている 。
これは、僕自身がこの視点に出会ったときに感じた、最も大きな発見でした。
動きを見る基準は、年齢も経験も関係ありません。
知れば知るほど、自分の体との対話が深まり、
子供の成長を見守る目が、より確かなものになっていきます。
あなたの体が変わる。
あなたの言葉が変わる。
そして、あなたの子供の未来が変わる。
その連鎖の最初の一歩を、今日から一緒に踏み出してみませんか。
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