見出し画像

22.黒猫の帰る場所

夕暮れが森を薄い金色に染めるころ、
黒猫はひとりで森を歩いていた。

毛並みは光を帯び、その輪郭は、影に溶けるように曖昧になっていく。

森の住人たちは誰も気づかないが、
この時間帯だけ、森には境界が現れる。

昼と夜のあいだ。
音や風の気配が、ほんの少し遅れて届く場所。

黒猫は歩幅を変え、一度だけ足取りを緩める。
夕暮れの光が、足元で揺れた。

黒猫は立ち止まらない。
ただ静かに、その線を越えた。

──瞬間、
空気がずっしりと沈んだ。

穏やかな森の音が遠のく。

視界が歪み、辺りが一瞬ぼやける。
代わりに、遠くから金属が擦れるような、
聞き慣れないざわめきが入り込んできた。

黒猫はしばらく歩いた。
ようやく空気の違いに身体が慣れてくる。

毛並みは少し光を失ったが
瞳の色は変わらない。

──その時、窓が音もなく開いた。

黒猫は軽く跳び、
その内側へと身を滑り込ませる。


背に、温かい手が触れる。
指先ではなく、面で包まれるような感触。


黒猫は目を細め、小さく息を吐く。

外と内のあいだで、
今日も境界は無事に閉じられた。


🐾




森の別の出来事

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集