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🧭ハヤトの冒険01|選んでしまった一歩

森には、日常のまま始まって、気づくと少しだけ戻りにくくなる日がある。

森の中の小さな家。
ハヤトは朝早くからサンドイッチを作っていた。

紙で包んでリュックに入れると、
「よし」と頷く。

今日はいつもより遠くまで行く予定だ。

外に出ると、朝の冷んやりした空気が頬を突く。
落ち葉を踏む音、湿った空気。
森はいつもと変わらない。

歩きながら、今日はどこでサンドイッチを食べようかと考える。

少し開けた景色の良い場所がいいか、
それとも水辺がいいか。

歩き慣れた石畳の道を越え、さらに奥へ。
見慣れた目印を一つ、また一つと越えていく。
だんだん道が細くなって、足元がゴツゴツしてくる。

その辺りで、ふと違和感が混ざる。

知っている道のはずなのに、どこかほんの少しだけ、いつもと違うような感覚。

ハヤトは一度だけ足を止める。
風はない。葉も揺れていない。

「……気のせいか」

そう言って、また歩き出した。

しばらく歩くと、木々が開けた場所に出た。

光がやわらかく降り注ぎ、足元には草が生い茂っている。ここなら座っても痛くなさそうだ。

「よし、今日はここにしよう」

石ころを軽く払って、シートを広げる。
腰を下ろすと、地面のやわらかさがそのまま体に伝わる。

包みを開くと、森の匂いが移って、甘いジャムの香りがやわらかく広がった。

ひと口頬張る。
「うん、おいしい」

家で食べるのと同じはずなのに、
噛むほどに、味が広がる気がする。

水筒を傾ける。
今日も日差しが暖かい。
頬に、やわらかい風が触れた。

「んー、今日は気持ちいいや」

小さく伸びをすると、
ふと、カサッと落ち葉を踏むような音がした。

顔を向けると、視線の端に黒い影が目に入った。

「あれっ!? 」

少し離れた場所に、黒猫がいた。

「……キキ?」

思わず前のめりになる。

いつも、どこからともなく現れる猫。

いつもなら気配を向けた瞬間にいなくなるのに、今日は視線が合っても動かない。

(……珍しいな)


「こっちおいで」 

「一緒にお昼食べよう」

手招きするが反応はない。
たけど、そこから動く気配もない。

ハヤトはそれ以上は何も言わず、水筒の水をひと口飲む。
それから、もう一度パンにかじりつく。

噛みながら、ふと先日の雨のことを思い出す。

あの時も、こんな距離にいた気がする。

「ねぇ……この前も、来てたよね」

言葉はそれ以上続かない。

キキは反応もせず、ただそこにいる。

でも、ハヤトにはそれだけで十分だった。

食べ終わって紙を畳み、リュックにしまう。
立ち上がって、背伸びをする。

「キキも……、一緒に行く?」

半分冗談みたいに言って、一人歩き出す。
すると、背後で小さく葉が鳴った。
振り返らずに少し進むと、もう一度同じ音がした。

(来てる……?)

距離は変わらないまま、気配だけがついて来る。それだけで、何だかくすぐったい気持ちになる。

少しの間、同じ方向に進んでいたが、
ある所でキキの足取りが急に変わった。
道から少し外れた方へ、迷いなく進んでいく。

「あれ?」

ハヤトは思わず足を止める。
キキは振り返らずにそのまま奥へと進んでいく。

「……え、そっち?」

ほんの一瞬だけ足が止まる。

見慣れた道から外れている。
この先は、あまり歩いたことがない。

(このまま行ったら、戻れるか……?)

ハヤトは、足を止めたままキキの背中を見る。
振り返れば、帰れる。
でも、目を離すと、もう見失いそうだった。

「……」

キキは待たない。
そのまま森の奥へ消えていく。

ハヤトは一度だけ息を吸い──

一歩、踏み出した。



ハヤトの冒険

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キキがいた(?)あの雨の日のできごと⬇︎


ハヤトってどんな子?|全話一気読み⬇︎



暮らしの森をもっと歩く⬇︎



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