🦋メイ&カレン05|今の暮らしに合うカップ
「お嬢様、最近嬉しそう」
シレットがぽつりとつぶやいた。
「あらっ。おわかりになって?
最近、メイさんがよく遊びに来てくださるの」
「楽しそうな声が聞こえますもんね」とテキパキ。
「屋敷では、“お友だち”と呼べる方が
いなかったでしょう?だから、嬉しくて」
「それで、来客用のカップを買いに付き合ってくれるかしら」
◆
表通りから一本外れた雑貨店。
棚には、ガラスのコップや陶器のマグ、
繊細なティーカップが整然と並んでいる。
「まあっ!素敵ですわね!」
そう言って奥の方へと向かう。
金縁のカップ。薄く透ける白磁。
一客ずつ木箱に入ったセット。
「やはり来客用はこうでないと」
そう言って、繊細なデザインを、次々と選んでいく。気付けば、かごの中は“特別な日用”ばかりになっていた。
その様子を見ていたテキパキが、ピクリと眉を上げる。
「お嬢様……それ、普段も使うんですよね?」
「えっ?」
きょとん、と首をかしげた。
シレットが、静かに一言。
「お嬢様は3日で割りそうです」
その一言で、手が止まった。
テキパキが一歩前に出る。
「お嬢様、今の暮らしを思い出してください」
「……今の、暮らし?」
「ここでは全部が素敵に見えます。でも、繊細なカップは洗うたびに気を遣いますし……
それに、収納場所はどうでしょう」
少しだけ目を閉じて考える。
「確かに、広くはありませんわね」
シレットが、静かに付け足す。
「屋敷の感覚のまま選び続けると、いずれ苦しくなるかと」
お嬢様は、黙ってコップを見比べた。

屋敷なら、迷わず前者を選んでいただろう。
けれど今は、小さなキッチンと、限られた収納。
「……わたくし、屋敷の感覚のまま選ぼうとしていましたわね」
小さく笑って、かごの中身を戻す。
◆
家に戻り、棚に並んだコップを見る。
広くはない食器棚に、きちんと収まっている。
「今の暮らしには丁度いいですわね」
二人は何も言わず、静かにうなずいた。
その日の午後、
お嬢様は新しいカップで紅茶を淹れた。
次に友人が訪ねてくる時間を思い浮かべ、
少しだけ胸を弾ませながら。
この森をもう少し歩く⬇︎
メイが初めて遊びに来た日⬇︎
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