📚図書館編 02|決めきれない司書の迷い
森の図書館の午後は、少しだけ静かだった。
昼の来館者が帰り、
棚の間を風がゆっくり通り抜けていく。
アキラはカウンターで、
一枚のメモ用紙をじっと見つめていた。
「……どうするべきだろう」
小さくつぶやく。
メモには、
「おすすめ本コーナーのテーマ案」
と書かれている。
①雨の日に読む本
②疲れた日に読む本
③何もしたくない日に読む本
『雨の日に読む本』これはすぐに決まった。
問題は、その下だった。
「……何もしたくない日と、
疲れた日はどう違うんだ?」
ペンを持ったまま動きが止まる。
疲れているから何もしたくないのか。
それとも逆なのか。
そもそも、
何もしたくないほど疲れている時に、
本を薦めるのは正しいのだろうか。

「うむ……前提から見直すべきか」
アキラは一度紙を裏返すと、
まっさらな面に新しく書き始めた。
・読む余力がある状態とは?
・読書の目的はどうあるべきか
・感情と行動の関係性とは
書き進めるほど、整理は進んでいく。
けれど同時に、最初の問いからは少しずつ遠ざかっていく気がする。
「……いや、何か違うな」
「これは……考えすぎかもしれない」
そうつぶやきながら、ふと我に返る。
(……あれ? そもそも俺は何を決めたいんだ?)
気付けば紙の上には、
きれいに並んだ言葉だけが残っていた。

そこにパタパタと小さな足音が近付いてくる。
「アキラさん」
顔を上げると、小さな女の子が立っていた。
少しだけ疲れたような顔で、本棚の方を見ている。
「ねむくなる本、ある?」
アキラは一瞬止まる。
(眠くなる本……か……)
頭の中で分類が走る。
✔︎単調な文章
✔︎リズムの一定性
✔︎刺激の少ない内容
(いや待て、
それは『つまらない本』ではないのか?)
更に考える。
「まずは安心感、優しい物語系か。」
「それから音読のリズムと……。」
「・・・」
女の子はアキラの顔を見つめながら、
じっと待っている。
アキラは慌てて口を開いた。
「ちょ、ちょっと待ってね!」
棚へ向かう。
迷いはあった。だが手は止まらない。
棚から一冊抜き取る。
短い話がいくつも入っていて、
言葉がやわらかい本だった。
戻って女の子に差し出す。
「これはどうかな。ゆっくり読める本だよ」
女の子は本を受け取り、ぱらぱらとめくる。
「……うん。読んでみる!」
その言葉にアキラは少しだけ肩の力を抜いた。
女の子はそのまま窓際の席へ行き、
本を開いた。それから数分もしないうちに、
こくり、こくりと頭が揺れ始めた。
アキラはその様子を見て、小さく微笑んだ。
(……正解だったのかは、分からないな)
カウンターに戻り、さっきのメモ紙を見る。
そこにはまだ、整理しきれていない言葉が並んでいる。
アキラはペンを持つ。眠くなる本
安心して読める本
一行だけ書き足すと、アキラはペンを置いた。

アキラの図書館編

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