🏰カレンの過去編01|守られすぎたお嬢様
この回は、お嬢様がまだ屋敷で暮らしていた頃のお話です。
いつもと変わらない屋敷の午後。
それは、完璧に整えられた舞台のようだった。
大きなテーブルに並んだ、色とりどりの果物と焼きたての甘いお菓子。
陽の光を受けてキラキラと輝いている。
カレンは席につき、フォークを手に取る。
「このケーキ、少しパサついていますわね」
カレンは悪意なくそう言った。
本当に、ただの感想だった。
執事はすぐに皿を下げる。
「申し訳ございません。焼き直します」
「いいえ、もう結構ですわ」
紅茶を一口飲む。
温度が、ほんのわずかに下がっている。
「あら。今日は香りが弱いのね」
誰も言い返さず、誰も困った顔を見せない。
ケーキは焼き直され、紅茶は入れ直される。
別の日、庭先で若いメイドが小さくつまずいた。それを見たカレンは眉をひそめた。
「足元にはお気をつけなさい。見苦しいですわ」

言い方は厳しいが、
それが“この家の言葉”だった。
執事は微笑んだまま、メイドは深く頭を下げる。誰も責めないし、誰も直さない。
言葉だけが跡を残さないまま消えていく。
カレンは知らなかった。
自分の一言が世界を動かしていることを。
それが当たり前だと、疑う理由もなかった。
──この頃のカレンはまだ守られすぎていた。

