リゲイアの蒼白き湖面 ー第6話 運命の輪ー
もっちゃんに連れられてやってきたのは、"占いの館"と言う立て看板が見えるビルの一階だった。
ちょっと変わった造りで入り口が狭くて、設計ミスでもしたような印象だけど、却って占いと言う非日常的な雰囲気には不思議とマッチしていた。
呼び鈴を鳴らしたが、反応がない…。
入り口で2人、立っていると後ろから声を掛けられた。
「アレ?!お客さん?ごめんねー💦今ちょっと買い物行っててさ―、今日はもう閉めようかと思ってたんだけど、入って入って!!」
買い物袋とテイクアウトのカップを片手に持った、淡い紫色のフーディーが印象的な女性が入るように促してきた。
「……」
私達は顔を見合わせると、もっちゃんが意を決したように玄関に入っていった。
「そこ、天井低いから頭気をつけて」
ゴンッ…!ったァァァい
「あとそこ、段差あるから足元注意してね」
ワタタッ……バタン
もっちゃんは、見事に頭を打って転んでしまった。
「それから、上から本が落ちてくるから気をつけ……!」
後ろを歩いていた私は、とっさに本を手でつかんでいた。

「え……」
占い師の女性はどうしてか、驚いているようだった。
「ユウちゃん、ありがとう!」
もっちゃんが立ち上がりながら言うと、占い師は我に返ったように先を案内した。
「えっと、何を視て欲しいのかな?」
「えと、そうだ!ユウちゃんなんか視てもらいなよ!」
もっちゃんが私を椅子に座らせると、ココアと2匹の仔猫が机の上に乗って占い師をジッと見つめる。「…… あの、ちょっとやり難いんだけど」

あ、ごめんなさいと言ってココア達を降ろす。
そういえば、まだ仔猫達に名前を付けてなかったなぁ……ちょうどいい。
「…じゃあこの子たちの名前をお願いします」
「ハ?名付け?!そういうのは、あたしあんまりやらないんだけど…」
占い師の女性は、机の端に置いた飲みかけのミルクティーのカップを見つめている。
「……わかった!いいわ、
この白いのはミルクね!
それからそっちの灰色っぽい子はアールグレイ!」
「へぇ~!!可愛くていい名前だね!」
もっちゃんは気に入ったようだった。でも、私も悪くないなと思った。
「うん、いい名前です。ありがとう」
私が立ち上がって帰ろうとすると、
「ちょっと待って!私はケイト、あなた名前は?」
「ユウリです」
「もう少し時間あるかな?」
※※※
どうして、この人とペア組まなきゃいけないのかな……僕は緊張感のある雰囲気を和まそうと話しかる事にした。
「たかが猫一匹を回収するのに、2人ペアでスタンガンにライフル銃って大仰過ぎると思うんですけど、そう思いません?」
「K02の事、何も知らない訳じゃないでしょ?
私はK02のあとのクローン型の個体の研究をしていたからよく分かる。制御する事は不可能に近かったわ。造られたものでありながら、主の言う事を聞かない。自分の意思でしか動こうとしない、不完全な個体だった。でも、能力はケタ違いに高かったわ」
「だから、能力を一旦落として、従順さを優先した個体から生成を繰り返して徐々に作り上げて来たってわけですね」
「そう、でも私達の生成した個体は、K02の能力に、まだ到達できていない、つまり敵わないのよ」
「モンスターですね……」

この女性は名を神谷アレンと言って、研究所のプロジェクトリ―ダ―でもあるが、ちょっと風変わりな事で有名な人でもあった。
頭が切れて優秀で何より仕事熱心だからリーダーにまで登りつめたんだろうけど、K02絡みの仕事に対して異常に執着している。
何でも、TitanでK02の研究メンバーだった婚約者が亡くなったとか聞くが、それが原因なのか、震災によって精神的トラウマを抱え、時々倒れる事もあったとか……
とにかく、ちょっと近寄り難いのは確かだ。
「あのぉ、神谷さんは今回、志願したんですか?」
「そうね、興味深い個体だから。発芽しなかったのがある意味残念だけど、人に飼われてたって言うのが、信じられない。人に慣れるような生き物ではなかったから」
「実はただの猫だったってオチもあるかも知れませんね」
「だったとしても、回収して確かめなければならないわ、もし、アレが自然界で繁殖したらとんでもない事になる、共生はできないわ」
「ジェラシックなんとかって映画、昔ありましたよね!」
僕が笑いながら言うと、神谷さんに睨まれた。
やっぱり、近寄り難い人だな……。
※※※
夕暮れを過ぎても、私はまだ占いの館に居た。
今日は早めに帰ろうと思ったけど、タロットカードをめくりながら、考え事をしていた。
あの時、私が視たものは、確かに本が落ちてきて、転んでた彼女にぶつかる映像だった。だけど、ユウリは止めた。
あの子、どうしてそんな事できたんだろう……
私の視た未来は、これまで変わる事がなかった。
どんなに願っても、どんなにそうならないでって祈っても、運命は変えられないっていつも思い知らされた、なのに……。
私は自分の運命を占うのは、あまり好きじゃない。
悪い事が待ち受けていると分かると、身構えてしまうし、人生は先が分からない方が楽しいとも思う。
だけど、私は占い師で、矛盾しているけど、お客さんに未来を教えて備えてください、なんてアドバイスするのだ。誰か1人でも、私の視たものから逃れられるなら、助けになるならいいと願っている。

さて、どうなるんだろう……私は
机の上に手を伸ばし、タロットカードをめくると、そのカードは運命の輪だった。
ぐるりと回るその輪の中心に、見えない力が渦巻いているように感じた。
変わらないはずの未来が、誰かの意志で動いた。
それは偶然か、それとも必然か。
私の中で、何かが静かに、確かに、回り始めていた。
「リゲイアの蒼白き湖面」
第6話 運命の輪
終
