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リゲイアの蒼白き湖面 ー第3話 憧れー

「唯先輩!さすがです!やっぱり先輩はスゴイです!」
私がスマッシュを決めるとテニス部の後輩の双葉が、タオルを持って駆け寄ってきた。
「ありがとう、双葉……
ねぇ、あの子って双葉と同じクラスの子でしょ?」
私が視線を向けた先には、スケッチブックを持った女の子が座っている。
「あぁ、ユウリさんの事です?どうしたんです?」
「あの子、確か体験入部にきたのよ」
「えぇ?!意外ですね!ユウリさんってめっちゃ頭良くて、でも、身体丈夫じゃないっていうか、よく気分悪くなって早退したり、休んだりする事あるから、文化系かな?って思ってたんですけど」
「そう…なんだ、確かに、
体験入部も友達の付き添いって感じだったし、スタミナは無かったけど、でも……彼女はテニスの才能があると思うのよ」
そう…あの時、私は彼女と手合わせしたのだ。

 ※※※

唯の最初のサ―ブは鮮やかに決まり、ユウリは動けないままストレ―ト負けするかと思われた。
だが、5つサーブが決まると、急に動きが変わりだした。
サ―ブの瞬間、唯の右肩がわずかに沈む。ユウリの瞳が微かに揺れた。
(右だ)
 ユウリの脳内で、唯の過去のフォームが高速再生される。  
右肩の沈み、左足の踏み込み、ラケットの角度——すべてが「右端を狙ったサーブ」の予兆。  
 0.3秒後、彼女はすでに右サイドへと滑り込んでいた。  
リターンを繰り出した瞬間、今度は左に走り込む。
 唯のスマッシュがネットを越える瞬間、ユウリのラケットがそれを正確に弾き返す。  
 「……読まれた?」  
 唯の目が驚きに見開かれる。
(彼女、今、完全に私の動きを読んでた…)
ユウリのサーブから、ラリーが続くと甘い球を唯がスマッシュしようとダッシュする。
 ユウリの視界には、まるでスローモ―ションの映像を見るかの如く、唯の動きが軌跡のように残像を引いていた。  
 ラケットの角度、足の重心、風の流れ——すべてが数式のように並び、次の一手が導き出される。   
(次は左。回転が浅い。ネット際に落ちる)
 「なんで……なんでそこにいるの?」  
ユウリは唯のドロップショットを見事に返し、後方ベースライン手前にボールは落ちた。勢いはないものの、相手の裏をかく正確なショットだった。
 唯は息を切らしながら、ユウリの無表情な横顔を見つめた。  
まるで、彼女だけが時間を止めているかのようだった。
(なんなの…あの子)


※※※


その後、あの子、ユウリは次第に疲れが現れて、私は半ば力技で押し切った。でも、彼女は確かに私の動きを完全に見抜いた。あんなのは初めてだった。
「でも、入部しなかったのは何でだろう…」

練習が終わり、帰ろうとすると、ユウリがいた場所にスケッチブックが残っていた。
(忘れたのかな?)
唯は手に取ると、
(こう言うの見ちゃいけないんだろうけど…)
ユウリに対する好奇心の方が、罪悪感を上回った。
1枚めくってみる。
(港の水門かな…コレ、私も小さい頃見た気がする、でも凄く上手、まるで写真みたい)
Titan(震災)で今はその姿を見ることはできないはずの場所。しかも、まるで小さな子供が見上げるような視点で描かれている。
「あ!……」
声がした方を見るとユウリが立っていた。
「あ、ごめんなさい、見ちゃって」
「いいえ……」
「絵、上手なんだね」
「"写した"だけだから…」
写真でも写したっていうのかな?
私はスケッチブックを手渡すと、頭を下げて謝った。
彼女は受け取ると直ぐに帰ろうとしたが私は声をかけた。
「あなた、なんで入部しないの?」
「……私、あんまり興味ないから…」
「嘘!じゃあなんでいつも見てるの?」
彼女が言い終える前に、否定した。あれは興味がない人のプレ―じゃない。
「…でも……」
ユウリの声は、どこか震えていた。 彼女は、何かを守るようにスケッチブックを抱きしめた。
ユウリが困ったように、俯いていたの見て、ハッと我に返った。
「あ、ごめんなさい」
なんで私はムキになってるのだろう。
ユウリは、首を振った。
「……ごめんなさい、私、身体が弱いし、迷惑掛けたくないから」
そうだ、双葉が言ってた。
この子は、Titanのトラウマで苦しんでるって…
「私の方こそ、変な事言って…ごめんなさい。
でも、迷惑なんて思わなくていいのよ。
あなたは、もっと自分の気持ちを大事にしてもいいんじゃない?」
私が優しく微笑むと、彼女も不器用に微笑み返してくれた。

「センパ〜イ!何してるんですか?」
双葉の声が聞こえると、ユウリはお辞儀して帰っていった。

「ねぇ、双葉、カメラアイって知ってる?」
「え!?何ですか?」
「目で見たものを瞬間的に記憶できる能力なんだって」
ユウリがカメラアイだとすれば、あのプレ―も、さっき見た絵も辻褄が合う気がした。
「え〜!スゴイ能力ですね!」
「……ええ、でも、私たちには計り知れない苦痛と闘っている気がするんだ」

ユウリが抱きしめたスケッチブックのページをめくると、そこには唯がテニスコートでプレーする姿が描かれていた。
「自分の気持ち……」
ユウリが顔を上げ振り返ると、
眩し過ぎる夕日の中に、校庭を歩く唯のシルエットを見つけた。

「リゲイアの蒼白き湖面」
第3話 憧れ 


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