くちびる星人

くちびる星人とは
くちびる星人は、作者の吃音症が強くなり、思うように話せなくなった時に生まれたキャラクターです。
頭の中には、伝えたい言葉がたくさんあるのに、
「ありがとう」も、「よろしくお願いします」も、「ごめんなさい」も、言いたくても言葉が出てこない時、行き場を失った思いがくちびるに集まり、「ぷるぷる」と震え始めました。
この「くちびるぷるぷる」は、本当は伝えたいのに、言葉にできない気持ちが、外の世界へ向かおうとする心の振動を表しています。
くちびる星人は、吃音症を知ってもらうための活動を出発点として生まれました。
そして現在は、吃音症だけでなく、自分の意思や努力だけでは変えることのできない違いによって、誰かが必要以上に苦しまなくてよい世界を目指すシンボルとして、社会の中で展示されています。

くちびる星人の物語
くちびる星人たちは、言葉をうまく話すことができません。
しかし、一人ひとりの心の中には、伝えたいことがたくさんありました。
うれしかったこと。
悲しかったこと。
誰かに届けたい感謝。
助けてほしいという気持ち。
自分のことを知ってほしいという願い。
言葉にならないまま、伝えたいものが、くちびるの震えとなって表れていました。
くちびる星人たちは、くちびるをぷるぷると震わせながら生きていくうちに、その振動によって、お互いの思いを伝え合えるようになりました。
それが、くちびる星人たち独自のコミュニケーションである、「ぷるぷる周波数」です。
ぷるぷる周波数が生まれるきっかけとなったのは、くちびる星人たちの中にある心臓、つまり、命の鼓動でした。
自分の中に流れているpulse(パルス)を感じた時、くちびる星人たちは、一人ひとり異なる自分のgroove(グルーヴ)に気づきます。
同じように話せなくてもいい。
同じ速さでなくてもいい。
同じリズムでなくてもいい。
それぞれが自分のリズムを持ち寄ることで、新しい「ノリ」が生まれ、やがて、くちびる星人たち独自の文化へと育っていきました。

違いを楽しむ文化
くちびる星人たちの星には、誰かを一つの「普通」に合わせようとする文化がありません。
形、色、表情、話し方、動き方、得意なこと、苦手なこと。
それぞれの違いを比べて優劣をつけるのではなく、
「その違いから、何が生まれるだろう」
と考えます。
誰かと違うことは、仲間から外される理由ではありません。
新しい遊び、新しい表現、新しい役割、新しい関係が生まれるきっかけです。
一人ひとり異なるリズムが重なり合うことで、一人では生み出せなかったものが生まれます。
それが、くちびる星人たちの星に自然と根づいた「共創」です。
違いをなくしたから、平和になったのではなく
違いの扱い方を変えたことで、違いが争いの理由ではなく、豊かさの源になったのです。
その結果、くちびる星人たちの星は、宇宙一共生力が高く、豊かで、争いのない平和な星へと育っていきました。

人の力は
環境との関係で見え方が変わる
同じ人でも、置かれる環境や役割、伝え方、関わる人によって、力の表れ方は変わります。
どれほど優秀な魚でも、陸の上では生きていくことができません。
どれほど強いライオンでも、南極では本来の力を発揮できません。
それは、魚やライオンに能力がないからではありません。
その生き物の特性と、置かれている環境が合っていないからです。
人も同じです。
できないことだけを見れば、弱さに見えるかもしれません。
けれど、その人の特性を知り、その人に合った環境や伝え方、役割、関わり方を考えることで、その人にしかない力が見えてくることがあります。
大切なのは、
「この人には何ができないのか」だけを見るのではなく、「どのような環境なら、この人らしい力が生きるのか」を考えることです。
くちびる星人たちの星では、それぞれの得意なことや苦手なことに合わせて、役割が自然に生まれます。
誰かが誰かの代わりになるのではなく、一人ひとりが自分の特性を生かせる場所へと循環していく。
くちびる星人の世界は、私たちの社会に置き換えると、適材適所によって、それぞれの力が生かされる社会でもあります。

吃音症とともに生きて感じたこと
私は、吃音症によって長い間悩んできました。
多くの人は、頭に浮かんだ言葉を、そのまま声にすることができます。
しかし、私にはそれができない時があります。
特に「あ」の段や「や」の段から始まる言葉が出にくく、
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
「おはようございます」
といった、人との関係を築くうえで大切な言葉が、思っていても言えないことがありました。
頭の中には、ちゃんとあるのに、
感謝も、あいさつも、相手を大切に思う気持ちもあるけれど、必要なタイミングで言葉が出てこない。
それは、私にとってとても大きな恐怖でした。
必要な言葉を言えないことで、
「気持ちがないと思われるかもしれない」
「失礼な人だと誤解されるかもしれない」
「人間関係が壊れてしまうかもしれない」
という不安が生まれたからです。
その恐怖は、人と話すことへの強いストレスとなり、社会や人から距離を取ってしまうきっかけにもなりました。
今も、言葉が出ないことへの怖さが完全になくなったわけではありません。
でも、吃音について調べていく中で、私と同じように、話したくても話せない苦しみを抱えている人がたくさんいることを知りました。
これは、私一人だけの苦しみではありませんでした。
その事実に気づいた時、
「こんな自分でも、誰かのために役に立てるかもしれない」
と思うことができました。
それまで私は、生活の中で吃音を隠そうとし、気づかれないようにごまかしながら生きてきました。
けれど、吃音症を知ってもらうためには、隠し続けるのではなく、自分の経験を社会に見せていくことも必要なのではないかと考えるようになりました。
そこで生まれたのが、くちびる星人です。
自分が言葉でうまく伝えられなかった思いを、キャラクターや物語、展示という形に変える。
そして、その表現を社会の中に置くことで、吃音症を知ってもらい、同じように苦しんでいる人が少しでも安心して生きられる社会につなげていく。
それが、くちびる星人の始まりです。

くちびる星人に込めた願い
世の中には、まだ十分に知られていない障害や特性、生きづらさがあります。
知られていないために誤解され、本人の努力不足や性格の問題として扱われ、苦しんでいる人がいます。
その苦しみは、本人だけが努力すれば解決するものではありません。
まず、知ってもらうこと。
その人の中に、どのような思いや困難があるのかを想像してもらうこと。
少し待つこと。
決めつけずに尋ねること。
一つではない伝え方を認めること。
その人に合った環境や役割を一緒に考えること。
その小さな変化によって、救われる心があります。
くちびる星人は、吃音症をきっかけとして、まだ社会に十分知られていない、さまざまな違いや特性に光を当てていきます。
人と違うこと。
みんなと同じようにできないこと。
自分では簡単に変えられないこと。
それによって悲しくなったり、自分を嫌いになったり、社会から離れたくなったりする人がいるのなら、くちびる星人を通して伝えたいと思います。
あなたの中には、まだ生かされていないリズムがある。
あなたに合う環境や、あなたを理解してくれる人と出会うことで、その違いは新しい力や文化になるかもしれない。
どんな違いも、誰かを苦しめる理由として放置されるのではなく、理解し合い、支え合い、時には一緒に楽しめる社会へ。
くちびる星人は、今日も社会の中で、くちびるをぷるぷるさせながら、その願いを伝え続けています。























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