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運のいい男を選んだ日、私は少し安心していた。

私は、山本権兵衛。
海軍大臣だ。

連合艦隊司令長官の
人事について…
少しばかり悩んでいる。

規定路線でいくと
日高壮之丞という男。

あいつは能力も経験もある。
誰もが「まあ、そうなるだろう」と
思っているだろう。

ただ…
いかんせん我が強すぎる。

私の言葉を、そのまま受け取らんし、
自分の判断を優先する。

まあ…、平時なら、
それも美徳だろうが…

今は時期が悪い。

明治三十六年。
空気はもう、きな臭い。

ロシアと、いつ…
火花が散ってもおかしくない。

そんな時に、
「言うことを聞かない男」に
連合艦隊を任せるわけにはいかない。

だから私は、
東郷を…、
東郷平八郎を選んだ。

なぜ東郷かって?
それは単純に
従順だからだ。

あいつは私の判断を
黙って受け止める。

何も特別な理由など
あったわけじゃない。

ただ扱いやすい。
それだけだ。

任命後、私は陛下に尋ねられた。
「なぜ、日高でなく東郷なのか」

少し考えてから、私は答えた。
深い意味など、なかった。

ちょうどいい男でございます。

それだけだった。

ところが…

東郷は、日本海で勝ってしまった。

圧倒的に。
見事に。
文句のつけようもなく。

そしていつの間にか、
私の言葉は、
形を変えて伝わっていた。

東郷は、運のいい男だからです。

そんなことを、
私は言った覚えはない。
だが否定もしなかった。

運が良かったのは、
東郷だけじゃない。

あの時、
賭けに勝ってしまった私自身も、
ずいぶん運が良かったのだから。

東郷平八郎は本当に「運がいい男」なのか?:日本海海戦で日本が圧勝した理由


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