見出し画像

第2章 魔法王国フォーレスト 第13節

門の前で、クレフは動かなかった。

 ゼラスは向こう側に立っている。手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、隔たりは確かだった。

 ほんの一瞬、拳に力が入る。

 追いつきたいと思った。

 同じ場所に立てないことが、悔しくないはずがない。

「……っ」

 喉まで上がりかけた言葉を、飲み込む。

 ここで何かを叫んでも、状況は変わらない。

 ぶつける相手もいない。

 ゆっくりと息を吐き、指先の力を抜く。

 通れない。

 それが事実だ。

 拒絶されたわけではない。

 閉ざされたわけでもない。

 ただ、今は通れない。

 理由は分からない。

 だが、感情で覆せるものではないことだけは理解できた。

 セリザが、門から目を離さずに言う。

「急ぐ場面じゃないわ」

 慰めではない。状況の確認だった。

 クレフは門から視線を外す。

 もしここが敵地なら、強引に突破する選択もあった。だがフォーレストは違う。門は開いている。ゼラスも立っている。何も奪われてはいない。

 奪われたのは、順番だけだ。

 フォーレストは、追い立てる国ではない。

 そう感じた。

 急かされているわけではない。

 ただ、進む場所が違うだけだ。

 クレフは周囲を見る。

 森は変わらず静かだ。

 だが、門とは別の方向に、わずかな空間の歪みを感じる。

 道と呼べるほどはっきりしたものではない。だが、踏み出せる余白がある。

 フォーレストは、一つの入口しか用意しない国ではない。

「……行こう」

 自分の足に向けた確認だった。

 門を見上げる。

 ゼラスは、もうこちらを見ていない。

 向こう側で、別の何かと向き合っている。

 追うことはできない。

 だが、立ち止まる理由もない。

 クレフは門とは反対の方向へ、一歩踏み出した。

 森は何も言わない。

 だが、今度は足が止まらなかった。

※ここまで読んでくださってありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、スキで教えてもらえると嬉しいです。


いいなと思ったら応援しよう!