第2章 魔法王国フォーレスト 第11節
結界を抜けた先で、森は途切れなかった。
だが、同じ森ではない。
クレフは足を踏み入れた瞬間に、それを理解した。
木々は並び、葉は揺れ、光も差し込んでいる。見た目だけなら、これまで通ってきた森と変わらない。だが、距離の感覚が噛み合わなかった。近いはずの幹が遠く、遠いはずの影がやけに近い。
音も、同じだった。
風の音。足音。衣擦れの気配。
どれも確かに存在しているのに、どこか一拍遅れて届く。聞こえてから認識するまでの間に、薄い膜が挟まっているような感覚がある。
「……音が、変だわ」
セリザの声は低く、確信を含んでいた。
感想ではない。気づいた事実を、そのまま口にしただけだ。
クレフは、無意識に周囲を見回していた。
誰かに声をかけられることはない。
呼び止められることも、導かれることもない。
それでも――
放っておかれているとは、思えなかった。
視線のようなものを、背中に覚える。だが、振り返っても誰もいない。見られている確信だけが、拭えずに残る。
ゼラスだけが、足取りを乱さない。
この森に違和感を覚えていないわけではないはずだ。それでも、戸惑いや警戒を表に出さず、淡々と歩みを進めている。その態度が、かえって浮いて見えた。
ここが、フォーレスト。
鎖国の国ではない。実際、結界は越えられた。拒まれた感触もない。だが、歓迎されているとも言い切れない。
代わりにあるのは、奇妙な均衡だった。
入っていい。
だが、踏み込みすぎるな。
そう言われているような距離感。
気づけば、三人の立ち位置が、わずかにずれていた。
セリザは一歩後ろに。
ゼラスは半歩先に。
そして、クレフは――その中間に立たされている。
誰かが決めたわけではない。
命令も、誘導もない。
それでも、そうなっていた。
フォーレストは、何も語らない。
だが確かに、この国は彼らを迎え入れたのだと、クレフは理解した。
歓迎でも拒絶でもない、曖昧な形で。
そして、その曖昧さこそが――
フォーレストという国の在り方なのだと。
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