手紙
お久しぶりです。
お元気ですか。
田村尊徳です。
信じてもらえないかもしれませんが、ボクは今、別の星に住んでいます。
いや、もしかしたらここは、この世ではないかもしれません。
そう思う理由は2つあります。
1つ目の理由は、この星にどうやって来たのか一切記憶がないこと。
2つ目の理由は、ここが天国のように素晴らしい世界だということです。
でも、イチローに託したこの手紙が糸さんに届けば、ボクがいるのは天国でないことになるでしょう。
この手紙を書いた理由を語る前に、糸さんたちと別れてから起こった悲しい出来事について少し語りたいと思います。
悲しい出来事とは、糸さんたちがいなくなった悲しみが癒えないうちに、イチローまでいなくなってしまったことです。
イチローはボクの唯一の家族なので、イチローが行方不明になった時、ボクは深く落ち込みました。
悪いことは重なるもので、さらにショックな出来事に見舞われました。
その出来事とは、ボクたちが出会ったゾウさん公園が地主の都合で廃止になってしまうことです。
ボクは、それだけは阻止したいと思いました。
ゾウさん公園まで失ったら、ボクの宝物は何もなくなってしまうからです。
ところが、ゾウさん公園の地主がわかると、怖気づいてしまいました。
ゾウさん公園の地主がバイト先の社長だったからです。
それでも勇気をふり絞って、社長宅に交渉に行きました。
結果は惨敗でした。
惨敗どころか、社長ともめて、ボクは社長に背負投で投げ倒されてしまいました。
そして情けないことに、ボクは気を失ってしまったのです。
目が覚めると、全く知らない世界でした。
しかも驚いたことに、イチローがボクのそばにいました。
イチローと再会できたことにボクは歓喜しました。
それと同時に、非現実的なことが起きていることをどう受け入れていいのか分からなくなりました。
今でも夢を見ているような気分です。
でも、ボクがここに来られた理由はこれではないか、と推測できる事があります。
その理由も非現実的なので、信じてもらえないかもしれません。
でも、それ以外に思い当たる理由がないのです。
なので、思い切って話してみようと思います。
驚かれるかもしれませんが、イチローには不思議な能力があります。
不思議な能力とは、瞬間移動。別な言葉で言えば、テレポーテーションになりますが、たぶん、そういう超能力です。
イチローが不思議な能力をもっていると思うようになったのは、イチローと別の部屋で寝るようになった時からでした。
ボクが寝坊をしそうになると、寝室を別にしているイチローが、ドアを開けずにボクを起こしに来てくれたことが何度かあったのです。
イチローがいなくなった時もそうでした。
ドアも窓もすべて閉まっているのに、家中捜しても、留守番をしているはずのイチローが消えてしまったのです。
その経験を思い出し、イチローはその超能力を使って、ボクをこの星に運んでくれたのではないかと考えたのでした。
前置きが長くなり、すみませんでした。
では、この手紙を書いた理由を説明することにしましょう。
この手紙を書いたのは、糸さんたちを救いたいと思ったからです。
地球は現在、温暖化などの環境問題が深刻化して、早く対処しないと大変な未来になると警鐘が鳴らされる事態に陥っています。
格差問題も進んでいます。
所得格差だけでなく、物価や水道光熱費、税金などもあがっており、庶民の暮らしは苦しくなる一方です。
戦争の心配もあります。
ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナの紛争などが起こり、世界は平和とはいえない状態になっています。
これで中国の台湾侵攻があれば、戦争は他人事でなくなります。
この他、少子化問題や地方消滅問題、南海トラフ巨大地震など、数え切れないほど重大な問題があって、糸さんたちの未来を思うと、天国のようなこの星にいても心が晴れる日はありません。
この手紙を書くことで糸さんたちを救う手助けができると思ったのは、地球が抱えている様々な問題の解決に役立つヒントを提供できるのではないかと考えたからです。
なぜそう考えたかというと、ここに半年暮らして、地球が解決に苦しんでいる様々な問題がこの星で起きていない理由がわかってきたからです。
そこで、糸さんにしてもらいたいことがあります。
それは、この手紙に書いた問題解決の方法を、インターネットを使って世間に広めてほしいというお願いです。
大変な御苦労をおかけしますが、そうすることでしか、糸さんたちを救う方法が見つからないのです。
本来なら、これはボクがやらなければならない仕事です。
でも、ボクはもう二度と地球に戻れないので、糸さんに頼む以外にないのです。
地球に戻るのが不可能なのを知ったのは、夢か現実か分かりませんが、まくら元に立ったイチローの前の飼い主であるおばあさんから、こんなことを言われたからです。
「イチローにもう一度、地球に戻してほしいとお願いしているようだけど、それはやめて。あなたをこの星に移動させたことで、イチローの寿命はだいぶ縮まってしまったのよ。もう一度、あなたを地球に戻したら、イチローは死んでしまうわ」
ボクもイチローに死なれては困るので、どうしたらいいか頭を抱えていると、おばあさんはこう言いました。
「だったら、イチローに任せたらどうかね。イチローだけ地球を往復する程度なら、大丈夫だと思う。ただし、一度だけだよ」
それでイチローに手紙を届けてもらうことにしたのです。
それと、大変心苦しいのですが、もうひとつ、お願いがあります。
それは、この手紙に書いた問題解決の方法を、そのまま公表しないでほしいというお願いです。
なぜそんなお願いをするかというと、糸さんに迷惑がかかると思うからです。
だって、ボクが異星にテレポートして、そこで暮らしているなんて話をだれが信じるでしょうか。
そんな話をしたら、糸さんが頭のおかしい人間だと思われてしまうに違いありません。
またそうなると、だれも真面目に読んでくれなくなり、糸さんたちを救う手助けもできなくなってしまいます。
なので、話の仕方をかえて、うまく伝えてもらいたいのです。
話の仕方をかえるとは、例えば、架空の星の話にするとか、糸さんが考えたアイデアということにするとかです(物語をつくる才能がないボクには難しいので、スミマセン)。
もちろん、もっといい方法があれば、それにしてください。
糸さんがやりやすい方法でやるのが一番なので。
ただし、どの方法を選ぶにしても、匿名でやってください。
そうでないと、糸さんたちが嫌な目に遭うリスクが高くなってしまうからです。
それでは、糸さんたちを救うどころか、不幸にしてしまいます。
そんな目には絶対に遭わせたくないので、どうか匿名で公表するようにしてください。
糸さんの気持ちを聞かずに(聞きたくても聞けないのですが)、勝手に話を進めてすみません。
強制はしません。
嫌なら、やめてもらって構いません。
ただ、その決断は、この手紙を最後まで読んでからにしてください。
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