事務方クエスト(14)~それはアナタの価値観だよね?
「えっ、ヒロト君お休みですか?」
あばれ熊との想定外の遭遇戦で、
命拾いした夜から3日後の朝。
クリスは菓子折りを手に戦士団詰所を訪れた。
ヒロトにお礼をするためである。
本当なら翌日にでも来たかったのだが、
週末で詰所も休みだったので、
翌営業日の月曜日になってしまったのだ。
「こないだの日曜日、
春の集団魔物狩りで休日出動だったんでね。
今日はその振替休日ですよ」
そう答える戦士長の表情は、若干呆れ顔だ。
「戦士長、なんか不満そうですね」
「そりゃ、ね。別に規則違反じゃないけど、
月曜日って忙しいじゃないですか。
普通、そんな日を振替休日にしないよね」
確かに、自分達はそういう休みの取り方はしない。
大体、週の真ん中とか暇そうな日に休む。
『暇な日しか休めない』
そんな無言の圧力があるからなのだが、
忙しい日に休むと仕事が溜まって、
結局自分がしんどくなるからだ。
「ヒロトもだけど最近の若いヤツは、
平気で忙しい日に休みを入れてくるからね。
不満そうな態度を見せたら、
『何か悪いんですか』って感じですよ」
『何か悪いのか?』そう問われれば、
『別に悪くないよ』と答えざるをえない。
だけどやっぱり、自分達とは考え方が違うよな。
これが世代間ギャップってヤツか。
「休みなら仕方ない、また明日来ますよ」
【~そして、その翌朝・・・】
「えっ、今日もヒロト君お休みですか!?」
「なんか、足を骨折したらしくてね。
今日は医者に診て貰って休みます、だそうです」
戦士長の表情は、昨日以上に不満そうだ。
「骨折って・・・?
ひょっとして、あばれ熊と戦った時ですか!?」
もしそうなら、クリスにも責任がある。
あの時はケガをしたようには見えなかったけど。
「あ~、違う違う!
今朝、家で寝起きにコケたらしいですよ。
3日しっかり休んどいて、翌朝に自爆で骨折って。
何やってんのかねぇ、あのクソガキ」
自宅でコケた?
あばれ熊を瞬殺するあの身体能力があって、
そんな間抜けなミスをするのか・・・?
「それじゃ、しばらくは来られませんね。
勿体ないんで、この菓子折りは皆さんでどうぞ」
「いやいやクリスさん、それは持って帰って!
リカさんも休職中で、今てんやわんやだから。
お菓子配ってくれる人もいないし」
自分で配れば良くないか?
心の中でそうツッコミを入れながらも、
クリスは差し出した菓子折りをそっと引っ込めた。
(ヒロト君の家の方に行ってみるか)
骨折で休んでるなら、家から動けないだろう。
せっかく買った菓子折りを、
このまま持って帰るのも少々気まずい。
クリスはバタつく詰所を後にして、
ヒロトの家へと足を向けることにした。


住所を知ってるだけで実際行ったことはない、
ヒロトの家への道のりは思いの外時間を要していた。
(こりゃ、午前中は事務所に戻れないな・・・)
今日の仕事の段取りを考えながら、
午後だけでも支障がないか考えを巡らせる。
仕事を休んでも、誰かが代わりにやってくれたりはしない。
最低限なことはしてくれるだろうが、
自分にしか分からないことだって多い。
ヒロト君だって、それは同じだろうに。
「・・あれっ、クリスさんじゃないですか。
何してんですか、こんなところで」
頭上から声をかけられ見上げてみると、
2階の窓からヒロトがクリスをのぞきこんでいた。
どうにか、家にはたどり着けたらしい。
「骨折で休んでるって聞いたから、
お見舞いに来たんだけど。
こないだのお礼もあるしね」
クリスは手に持った菓子折りを掲げてみせる。
思いの外、元気そうに見えるけど。
「そんな気遣いしなくていいのに。
・・・ま、でも上がって来て下さいよ。
カギ、あいてますから」
それじゃ遠慮なく、とお邪魔したヒロトの部屋は、
小奇麗に片付いていた。
彼の左足は、しっかり包帯で固定されている。
「で、どうなの骨折の方。
見たとこ、歩くのはしんどそうだね」
「全治1か月らしいですよ。
馬にも乗っちゃダメらしいですから、
しばらくは机仕事しか出来そうにないですね」
ヒロトは片手で松葉杖を弄びながら、
気怠そうにそう答えた。
「で、仕事の方はどうするわけ?
1ヶ月も休めないでしょ」
「あーそれなんですけどね・・・
今朝、戦士長と通信魔法で話したんですよ。
詰所行っても仕事にならないから、
書類とか持ってきてもらえたら、
家で机仕事とかしますよって」
「それで、戦士長はなんて?」
「机仕事しか出来なくても、
明日から詰所に出て来いって!
どーせまともに動けないんだから、
家で安静にして仕事した方が、
治りも早いって思うんですけどねっ」
ヒロトは若干キレ気味だ。
言いたいことは分からないでもない、が。
「まぁでも、今回はヒロト君の自爆だし。
それで組織に迷惑かけてるんだから、
上司の言い分も聞いてあげないと。
自分の良いようにばかりは、通らないよ」
ヒロトは面白くなさそうに、
ベットに身を投げ出した。
「有休だって、ちゃんと残ってるのにさ!
あーあ、休んだら誰かが直ぐ代わりをしてくれる、
そんな職場にしてほしいなぁー」
「・・・それが出来れば、一番いいんだけどね」
その体制を作るのが上位職のあなた達、
管理職の仕事じゃないですか?
暗にそう言われているようで、
クリスは返事の言葉に窮していた。
だけど、それには人を増やさないといけない。
人が増えれば、固定費が上がる。
固定費が増えて利益が減れば、
君らの手取りが減るんだよ?
クリスはそう思うのだが、口にはしなかった。
そこまで考える必要が、
ヒロトのような若者にあるとは思えない。
彼が言う様にその責任は、
上位職である自分達にあるはずなのだ。
「そろそろ帰るよ、足はしっかり治してね」
午後からの仕事のこともある。
気まずくなったクリスは適当にお茶を濁して、
ヒロトの家を後にした。
・
・
・
(戦士長もアレだけど、
ヒロト君もヒロト君なんだよなぁ・・・)
事務所へ向かう道すがら、
噛み合わない戦士団の上司と若者の意識のズレに、
クリスは思いを巡らせていた。
(でも、ヒロト君が特別なわけじゃない。
アレが普通に『今の若者』の意見だもんな)
頭ごなしに、ダメだと言ってはいけないだろう。
だけど、クリスの中にある考え方も戦士長よりだ。
給料をもらってるのだから、
ある程度雇い主の都合に合わせるのは、
当然じゃないだろうか?
(勝手にケガして仕事に穴開けといて、
治るまで家でのんびり仕事したいってね。
それ認めてたら、他の戦士にも示しがつかないし)
「あらぁ~クリスさん。
業務時間中にこんな所で、何されてるんですかぁ?
サボりですかぁ~♪」
突然背後から、よく知ってるのんびりした声がした。
「・・・ターラさんこそ、今日も午後から出勤かい?」

「そうですよぉ~
でも、私のはサボりじゃないですよぉ~?
賢者様が自ら決めた、私の特権ですからねぇ~♪」
「俺だってサボりじゃないよ。
用事があって出ていただけで・・・」
『出退勤時間自由』
そんな特別待遇で自分の下に雇用したターラは、
朝から出勤することなどほとんどない。
今もすでに昼前なのに、
パンをかじりながらの重役出勤のようだ。
「切手自動貼りシステムの微調整は済んだわけ?
君の仕事で形になったの、
今のとこアレだけなんだから」
「あれねぇ~切手の感知の精度を調整するのがぁ~
とっても難しくってぇ~
もう少し時間がかかるかな~って思いますぅ~♪」
呑気なターラの返事に、正直少しイラっとした。
もう3ヶ月、特別待遇で仕事してるのだ。
1つくらい確実な成果をあげて欲しい。
「モリノさんが切手貼るのを自動にするなら、
郵送までも自動にしてくれたらいいのにって、
言ってたけど?」
「簡単に言わないで下さいよぉ~
私一人でシステム作ってるんですからぁ~
そんなに簡単にはできませんよぉ~♪」
(それはそうだろうなぁ・・・
そもそも彼女の雇用条件は、俺から出したしなぁ)
怠惰の魔王による職場破壊を止めるため、
彼女を専門職として雇うのは、
自分にしては最高の思い付きだと思ったが。
『他の人に示しがつかない』
ヒロトの扱いについて感じたその疑念は、
クリスの彼女に対する特別扱いにしたって、
同じかもしれない。
「とにかく、午後からはしっかり取り組んでよ。
俺も午後から事務所に戻るから!」
「はいはい~賢者様の立場もありますからねぇ~
無理ない程度に、頑張りますよぉ~♪」
それだけ言った後、ターラは何かを思い出したように、
言葉を止めて珍しく考える仕草をみせた。
「・・・ところでぇ、クリスさん。
最近、体調はどうですかぁ?
『悪寒』がしたりとか、しませんかぁ?」
「悪寒って・・・
あぁ、以前よく感じてたやつのこと?
最近はないけど、何で」
「いぇ~ないならいいんですよぉ。
健康には注意しないとですからねぇ~♪」
「ふーん・・・
じゃぁ、俺は先に事務所に戻るから。
午後イチまでには帰って来てよ」
はいはい、とクリスを見送ってから、
ターラは空を見上げてつぶやいた。
「・・・まだ誰も『具現化』してないようですねぇ。
まぁ、それも時間の問題なんでしょうけどぉ」
午後イチまでは、まだ時間がある。
ターラはデザートを楽しんでから出勤しようと、
近くの茶店に足を向けていた。
【第15話に続く】
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