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事務方クエスト(8)~職業選択の自由

「ハルカさんは、
 なんで賢者様達と行かなかったんですか?」

「戦士団はねぇ・・・
 会うと気まずい人も多いから」

現在、クリスとモリノは魔王の痕跡を求めて、
戦士団詰所へと向かっていた。
事務方の名簿が整ってないこともあったが、
戦士団名簿なら【戦闘ステータス】も確認できる。
魔王探しにはうってつけだと判断したのだ。

一方、ハルカとアイラは事務所で留守番である。

「でも、アイラ思うんですけど。
 ハルカさんが『私が勇者だっ!』とか、
 名乗り上げた方が早いんじゃないですか?
 そしたら世界中が魔王を探してくれますよ」

「そうですけど・・・それだともう、
 経理には戻れないじゃないですか」

「なんでそんなに経理に戻りたいんですかぁ?
 うちの全然数字が合わない請求書とか見てると、
 アイラ頭が痛くなります。
 あんなの誰がやってもいいじゃないですかぁ」

ハルカは軽く苦笑いを浮かべて、
少し考えてから答える。

「・・・そうですねぇ。
 例えばこの魔法剣ですけど」

少しだけ剣を鞘から抜き、
魔力を込めて氷をイメージする。
途端に事務所の空気が凍てつき、
凄まじい冷気が足元を走った。

「こんな力、迷惑なだけでしょう?
 街に凶悪ドラゴンが出るわけじゃなし、
 下手したら冒基法違反だし」

そう言って剣を鞘に納める。

「それより、アイラさんの目の間にある請求書。
 それをキレイに合わせる方が、
 よっぽど楽しいんですよね」

(経理には絶対的な正解があるし、ね)

謎の神託で、ある日突然力が覚醒した。
悪なのか、存在してるのかすら分からない。
そんな魔王と戦うのが宿命だとか。
誰が何得なのか、まったく分からない。

「確実にある正解を突き詰める作業って、
 ストレスが少ないんですよね。
 理不尽な命令や、理解できない人間関係も、
 数字にはありませんし・・・」

「うーん・・・
 アイラはハルカさんが言ってることの方が、
 全く理解できないですぅ」

首を傾げるアイラを見つめながら、
ハルカは心の中でそっとため息をついた。

(勇者の立場を明かせない以上、
 私の職歴はずーっと空白期間。
 早く決着つけないと、
 次の就職活動が厳しくなっちゃう!)

ハルカが求めるものは、
アクマで平穏な事務員としての生活だ。
けれどまさか、対極にいるはずの魔王までが、
自分と全く同じことを考えてるとは。
ハルカは夢にも思っていなかった・・・

8話時点

「珍しいですね、クリスさん。
 何の御用ですか?」

「いや、ちょっとリカさんに頼みがあって」

(頼み?そっちの事務方は順調なんじゃ?
 あらっ、後ろにいるのが噂の優秀な新人さんね)

そう思い、リカはモリノに視線をうつす。
視線に気付いたモリノは静かに会釈した。

「突然で悪いんだけど、
 戦士団で管理してる名簿を見せて欲しいんだ」

「め、名簿?
 な、なんでそんなものを・・・」

思いもよらぬ提案に、
リカはあからさまに焦る。

「・・・とある人の依頼でね。
 不審人物の捜査をしてるんだけど。
 戦士団におかしな人がいないかなって」

「おかしな人はたくさんいますけど。
 でも戦士長すら見てない名簿を、
 クリスさんに見せるのはちょっと・・・」

戦士団の名簿にはリカのような書士も含め、
全員の戦闘ステータスが記録されている。
リカは覚醒して以来、隠せる能力は隠しているが、
唯一【MP】だけは隠せていない。
今、リカのMPは【444】
こんな数字は、普通の人間ではありえない。

(これでバレずに済んでるのは、
 私がココの筆頭書士なのと、
 戦士長の管理がずさんだからなのにっ!)

リカが正体を隠して普通の事務員でいるには、
この「管理されてない戦士団」が実は最適なのだ。
管理者の怠慢には、毎日憎悪の炎を燃やしてるのに、
皮肉なことではある。

「そ、そーいうことなら私が見ときますよ。
 クリスさんもお忙しいでしょうし・・・」

リカがクリスを言いくるめようとすると、
後ろに控えていたモリノがスッと一歩前に出た。

「いえ、リカさんを疑う訳じゃありませんが。
 外部の人間が確認する方がいいと思います。
 おかしな疑惑も生まれませんし」

リカの提案を、ピシャリとはねのける。

(なるほど、優秀な子みたいね・・・)

背筋を冷たい汗が伝う。
クリス1人なら丸め込むのも可能だろうが、
この子の目はごまかせそうにない。
引きつる頬を、必死に笑顔で取り繕う。
動揺を悟られてはいけない。

「・・・分かりました。
 リスト持ってくるんで少しお待ちを」

名簿を見せるのが避けれないなら、
この場だけでも偽装してやり過ごすしかない。
リカは奥の棚に向かうフリをして、
指先に魔力を込めて名簿にある自分の、
【MP】の数字だけを書き換える。
多少乱暴だが、バレはしないだろう。

「はい、お待たせしました。
 これが最新の戦士団名簿です」

これで十分ごまかせる。
リカにはその自信があった、のだが・・・

「賢者様『確認(チェック)』の魔法お願いします。
 間違いがあってもいけませんし」

「・・・そうだね、この場面なら役に立つか」

(か、『確認』の魔法!?)

「賢者様の『確認』の魔法は、
 書類の不備や改ざん部分を、
 赤く光らせることができるんですよ」

リカの顔からサァッと血の気が引いた。
モリノはそんなリカから、微塵も視線を外さない。

(もうっ、本当に何なのこの新人!
 うちのポンコツ新人と違い過ぎないっ)

「確認(チェック)・・・」

焦るリカの心中など知る由もなく、
クリスの『確認』魔法が書類を走った。

その、直後。

リカの提出した名簿は、
チカチカと真っ赤な光を放ち始めた・・・

第9話に続く

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くりす 日々の色々を面白おかしく書く事で、日常を楽しく色付けできればと思ってます。書く事はもとより好きなので「毎日更新」頑張ります。よろしければ応援お願いします!