事務方クエスト(5) ~持ってる力は使いたい
(ここは、とある秘境の奥地)
「魔法剣【雷】フルパワー!
奥義・雷鳴剣っっっ!!」
天を裂くような轟音と共に、
雷光をまとった刃が竜の頭上に振り下ろされた。
咆哮を上げるヒマすらなく、
最強と謳われた巨竜は一瞬でこと切れて、
地響きを立てて沈み込んだ。
「す、素晴らしい!」
冒険者協会の立会人は、
目を輝かせ、震える声で感嘆を漏らした。
「ハルカ様!これだけの技があれば、
こんな秘境で討伐ミッションなんてしなくても、
中央の国で即座に重用されますよ!」
「・・・あまり目立ちたくないんですよねぇ」
【この力】に目覚めて以来、
力の使い道を探して、アチコチ旅しているが。
最強モンスターの討伐ミッションであっても、
朝飯前でこなせてしまう。
どんなものか試してみたかったので、
ついフルパワーを使ってしまったが、
半分の力でも結果は同じだっただろう。
(こんな力があってもね・・・)
「ハルカ様、良ければ中央の国への仕官の道。
私が紹介しましょうか?
何か希望のポストでもあれば・・・」
親切そうに言ってくるこの男にも、
若干の下心が伺える。
強力な魔法戦士を紹介したとなれば、
自分の株もあがるのだろう。
(だったら、いっそ正直に)
ハルカは開き直った。
「経理の仕事!」
「・・・はいっ?」
「経費の管理がしたいっ!
1円違わず請求書を合わせたいっ!
小銭をきっちり揃えて数えたいですっ!」
「請求書に小銭って??
えっと、私は一体どうしたら・・」
立会人は完全に混乱している。
まぁ、無理もない。
そんな仕事がしたいならやればいい。
どこでだってできそうだし、特別な力もいらない。
だが【覚醒】してしまった【この力】
そのせいで、ハルカは普通の仕事には就けないのだ。
「・・・ごめんなさい。
とりあえず、仕官とかはいいです。
少し国に戻って考えますから」
(いっそ『アイツ』が復活したらいいのかな。
そうすれば、この【力】も使い道がある・・・)
けど、それは願ってはいけない事。
こんな力は使い道がない方が、
世界はきっと、平和なのだから。

(一方その頃・冒険者協会事務方)
「確認(チェック)確認(チェック)・・・」
「・・・賢者様、私思うんですが。
言ってもいいですか?」
「遠慮なくどーぞ、モリノさん」
「その『確認』の魔法使われなくても、
普通に確認した方が早くないですか?」
「・・・知ってる」
昇格時に習得した『確認(チェック)』の魔法、
書類のチェックに使ってはいるのだが。
この魔法、術者の能力のみならず、
体調までもが確認結果に影響するのだ。
簡単に言うと、信頼性が極めて低い。
「賢者様、こないだ流行り病で調子悪い時も、
必死にその魔法使ってましたけど。
明らかに役に立ってませんでしたよ?」
「だって、せっかく習得した魔法だし・・・」
そう、手に入れた【力】は使ってみたい。
ただこの魔法、正直かなりコスパが悪い。
消費MPこそ最小の1ではあるが。
使っても結局心配になって、
その後普通のチェックもするもんだから、
純粋に労力が倍になっている。
「効率がいいのが一番ですよ。
賢者様は普通の事務処理早いんですから。
役に立たない魔法は、忘れた方がいいです!」
「うぅ、唯一の昇格魔法なのに・・・」
「賢者様、来月の【査定】で、
新しい魔法増えるかもじゃないですか。
アイラも来月こそは上級火炎魔法ゲットです!」
「だから、上級火炎魔法はいらないと言うとるのに」
「そんな効率悪い事してたら、
仕事終わりませんよ。
今日は2人とも大事な食事会でしょ!」
「モリノさんも来ればよかったのにぃ~
アイラ、ハルカさんに紹介しますよ!」
「いえいえ、私は面識がないですから。
今日は3人で旧交を温めて来てください」
どこまでも「よくできた子」な、
モリノさんの返事に感心しつつ。
急いで今日の仕事を片付ける。
そう、今日は元同僚・ハルカさんとの食事会。
久々にこの国に戻って来たようなのだ・・・
・
・
・
「では、事務方一同の再会を祝して~」
「乾杯っ!!」

3人で集まった馴染みの酒場。
ハルカさんとは1年ぶりくらいだが、
今だに強力な魔法戦士だとは思えない。
「で、ハルカさん。
その魔法剣の使い道は見つかった?」
「残念ながら、さっぱりですね」
「アイラ、氷以外の魔法剣も見たいです!
炎の魔法剣、アイラの火の魔法より凄いですか?」
(絶対凄いだろw)
クリスは心の中で苦笑するが、
ハルカさんは悩ましそうだ。
「自分で言うのも何ですけど凄いんですよ。
こないだも雷の魔法剣で、
ドラゴンを一撃でしたし・・・」
「ドラゴンを一撃!?」
クリスとアイラの返事がハモった。
それ、とんでもない強さじゃないか?
「アイラ、前から思ってたんですけど。
ハルカさん勇者の末裔とかじゃないですか?
アイラも勇者のパーティーに入りたいですっ!」
ハルカさんの食事をする手が、ピタッと止まる。
「・・・ふぅ」
天井を見上げて大きく1つタメ息をつく。
なんだ一体、この空気。
「アイラさんまで思うようじゃ、ね。
やっぱり、2人には話しておこうかな」
彼女は改めてこちらに向き直り、
「そうなんですよ。
私、実は『勇者』なんです」
衝撃的な言葉が、サラッと飛んできた。
「えぇぇぇぇっ!!」
クリスとアイラの声がまたハモる。
今、自分達は何を聞かされた?
「あの『神託』の時に分かってたんですけど。
これが『勇者』の力だって」
「じゃあ、何で魔法戦士ってことにしたの?」
「だって、勇者だなんて知られたら、
日常生活なんて無理じゃないですか!
祭り上げられたり、政治に利用されたりとか。
考えただけでゾッとします!」
なるほど、それはそうかもしれない。
「けど、それなら『神託』自体を隠しとけば、
事務方も辞めずにすんだんじゃない?」
「・・・隠せないじゃないですか。
国にいたら、月1回は【査定】があるんだから」
(あっ、そうか)
国に属してる冒険者は、
配布される【冒険者クリスタル】で管理され、
毎月月末には【査定】の魔法が走り、
LVや能力、新たなスキルまでが周知のものとなる。
「だから力を隠そうと思ったら、
流れの冒険者になるしかないんですよね」
「えぇぇ~ それ生活大丈夫なんですかぁ。
アイラだったら耐えられないっ!」
「ハルカさん、今日の食事代は俺が出すよ。
・・・あ、アイラさんも遠慮なく食べてね」
「なんか、ついで感がひっかかりますけど。
アイラは遠慮なくいただきますっ!」
「あれっ、いいんですか?
こないだのドラゴン討伐の報酬、
500万G入ったから。
今日は私が出そうと思ってたのに」
(ぐふっ、ほぼ俺の年収)
「・・・い、いいのいいの!
俺だって昇格して給料も上がるはずだしっ。
たまにはカッコつけさせてよ」
彼女のお金の面での心配はいらないようだ。
これなら、自分の昇格額の方が心配だw
「クリスさん・・・
マジメな心配事が1つあるんですが」
「え、大丈夫だってハルカさん。
俺だって賢者になったんだから、
昇給がないなんてことは・・・」
「あ、いえその心配ではなくて。
私が覚醒したってことは、
『アイツ』も覚醒してると思うんですよね」
「アイツ・・・?」
ハルカさんは大きく頷いて、一言。
「そう、魔王(アイツ)・・・」
・
・
・
(その頃、冒険者協会・戦士団詰所)
「だ・か・ら!!
何で武器の生産中止情報を誰にも伝えてないの?」
リカの機嫌は日増しに悪くなっていた。
定時なんて、とっくに過ぎた残業時間。
最近では仕事をしてる事の方が多い。
「え~っと、ドワーフの武器屋さんが引退するから、
もう、絶対作れないって言われたんでぇ~
伝えたとこで現実は変わらないかな~ってぇ~♪」
「他の武器を探すとかっ、色々あるでしょう!
どーすんの、今日来ると思ってた武器来ないから、
トシキさん丸腰であばれ熊の見回り行ったのよ!」
「あ~ そうですよねぇ」
(け、消してしまいたい。
この天然の新人も、
この子の世話を私に押し付けた戦士長も!)
腹の底からドス黒い感情が湧いてくるのは、
覚醒した魔王の力のせいなのか?
・・・いや、違う気がする。
魔王になる前から、
このくらいの殺意だけは抱いていた。
しかし、今は違う。
その気になれば本当に消せるのだ。
指先ひとつでこの詰所を灰にする事だってできる。
その衝動を人としての理性で抑えるのは、
はっきり言ってストレスでしかない。
(世界を滅ぼせる力とか、無い方がいい!
目の前の発注1つ片付かないのにっ!!)
成長しない新人と、成長する黒い衝動と戦いながら、
リカは今日も残業にあけくれる。
戦士長はとっくに帰っていて、すでに姿はない。
(世界の支配とか、どうでもいいけど。
この国だけは落としてしまおうか!)
黒い衝動は大きくなるばかりだ。
けどもし、こんな田舎の国を落としたとして。
それでも『勇者』は私を倒しに、
姿を現すのだろうか・・・?
【第6話予告】
普通に生活したい、実は勇者のハルカと魔王のリカ。
そんな彼女達の前に【力】に惹かれて面倒な人達が現れて・・・
【登場予定・新キャラクター】

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