事務方クエスト(6) ~分かり合うのは困難ですか?
(冒険者協会・戦士団詰所)
「せ・ん・し・ちょぉ~
あんまりじゃないかと思うんですよねぇ?」
リカのガマンは限界寸前だ。
「・・・なにが?」
上司である戦士長アキは、全くピンときていない。
それがリカを尚更イライラさせる。
「出来ない新人の指導を私に丸投げで、
詰所は回っていないんですよ?
対策なり指示なり!
あってしかるべきだと思うんですけど!」
「指示なら、こないだしたじゃん?」
「効率よく仕事して、
残業はしないようにってのが指示ですか!?」
ダメだ、言ってもダメなヤツだ。
リカも半分諦めてはいるが、
言わずにはいられない。
「トシキさんなんて、退院初日だったのに。
新人の武器手配ミスで丸腰で見回りに行って、
またやられて即日病院送りなんですよっ!」
まぁ復帰初日の見回りで、
また熊に出くわすトシキの間の悪さも相当だが。
そう言えば、戦士長が熊と遭遇した話は聞かない。
本当に見回りしてるんだろうか?
「俺は1回指示したら後はみんなを信頼してるから。
その後の状況を小姑みたいにチェックしないんで。
じゃ、後はよろしくね」
(だからそーいうのがっ!
丸投げって言うのよっ!!)
日中、戦士長を始め戦士団は詰所にはほぼいない。
見たくないものを見ないで済むのは、
確かに幸せなことだろう。
(だったら一生その目、
開けられなくしてあげようかしら・・・)
沸き起こる黒い衝動が、
内に眠る魔王の力のせいなのかどうかは、
リカ自身にも分からない。
(いや怒ってはダメ・・・
怒って暴れて正体バレるとか三流がやることよ。
魔王の正体は絶対にばらさない!)
しかし実際のところ、
魔王の存在を感知できる人間など、そうそういない。
勇者か、特別な力をもった冒険者くらいだ。
あばれ熊も1人で倒せない、
この国のへっぽこ冒険者などは問題外である。
問題外、なのだが・・・
「魔王様・・・」
背後に突然、おかしな気配が生まれた。
(あぁ、ついに来ちゃったのね・・・)
そう、私の存在を感知などできない。
ただし、相手が「人間」だったらの話だが・・・

その時、魔王の対極にいる勇者ハルカは、
夜道を宿屋に向かって歩いていた。
(顔見知りの多いこの国に、
あまり長居はしない方がいいんだけど・・・)
ハルカがこの国に帰郷してから、もう10日。
当初はクリス達との再会を終えたら、
早々に旅立つつもりだったんだけど。
なぜだろう?
この国を離れる気がどうしても起きない。
(何かがひっかかってる・・・
この国に何か見過ごせないものがあるような
・・・って、アレっ?)
前方に気配を感じる。
誰かが自分を見ている。
「そこにいるの、誰っ!?」
(ひょっとして、魔王絡み?)
「さすがですね、ハルカさん。
以前はこの距離なら気付かれなかったのに」
「えっ、タカ・・・さん?」

物陰から現れたのは、
ハルカがこの国の書士だった頃の同僚の戦士だ。
「さすが、勇者ハルカ様だ!
戦士としても、もう俺なんか勝負になりませんね」
とんでもない事を、サラッと言う。
「ちょ、何言ってるんですか!?」
「自分、以前ハルカさんが覚醒した瞬間。
後つけてて見てたんっす!
俺、頭悪いから難しい事わからないっすけど、
これが伝説の勇者様かって思ったっす」
気持ちの悪い事を、サラッと言う。
「タカさん、それストーカーでは」
「こないだクリスさん達と、
3人で酒場にいましたよね。
アレも俺、物陰で見てったっす。
今度は俺も混ぜて下さい。
ごちそうさまですっ!」
(それ、私の「勇者なんです」発言、
聞いてただけじゃ・・・)
「覚醒」を見て気付いたとか嘘っぽい。
昔から待ち伏せとかしてたのは、本当そうだが。
「ハルカさん、今度旅立つ時は、
俺もパーティーに入れて下さい!
今度、通信魔法の戦友登録お願いしますっ!
あ、宿の場所は知ってるんで!
いつでも呼んで下さいっ!」
こちらに反論する暇も与えず、
言いたいことだけを言い放ち、
満足気に立ち去って行くタカ。
その背中を呆然と見送ったハルカは、
ポツリとつぶやいた。
「・・・宿、変えよう」
とはいえ、時はすでに夜。
今から次の宿を探すのは困難だ。
何より、精神的にすごく疲れた。
「事務方、まだやってるかな・・・」
自分が在籍していた頃なら、
まだ残業していた時間帯だ。
ハルカはかつて毎日通った道を、
冒険者協会事務方に向けて、
重い足取りで歩き出した。
・
・
・
「お初にお目にかかります魔王様ぁ~♪
私、ハルミっていいます!
お会いできる日を心待ちにしておりましたぁ!」
そう、会うのはきっと初めてだろう。
だが、リカには彼女が何者か大体想像がつく。
そのうち来るとは思ってたのだ。
私を感知できる高位の魔族・・・

(・・・って、そこまで高位の魔族じゃないようね)
だが、魔族であることは間違いない。
魔王の感覚がそれを教えてくれる、のだが・・・
「人間の占い師のフリをして街に潜んで幾十年!
今もう感激で胸が一杯ですぅ~♪」
思っていたのと、ちょっと違う。
高位の魔族が徒党を組んで自分を祭り上げ、
魔王の名前で人間に戦争をしかける。
それがリカの恐れていた、
最悪のシナリオなのだが。
「あなた・・・中級魔族ね。
何しに来たの?」
「この街で魔王様の力を感じて、
あなた様のことはすぐ見つけたんですけど。
動き出される気配がないので、
ずーっと様子を伺ってました。
でも、とうとう我慢できなくなって・・・」
「他に魔族の仲間とかは?」
「そんなのいませんよぉ。
いても、魔王様は私だけの魔王様ですから。
誰かに教えたりとかしません!」
(なんだ、ただのミーハーか・・・)
リカは幾分ホッとした。
最悪のシナリオは回避できそうだ。
「魔王様、使えない上司や新人に振り回されて。
な~んで魔王様ともあろうお方が、
いつまでもガマンされてるのかなって」
(他人に言われると腹が立つわね)
このミーハー魔族も、
そんなリカの内心の思いには当然気付かない。
「何か深謀遠慮がおありなんですよね。
魔王様、決起の際には私をぜひ、
側に置いてください!
魔王様のかたわらに立つ側近の私!
キャァァー考えただけでもゾクゾクしますぅ~♪」
(この子、本気のミーハーか)
「こー見えて私優秀ですよっ!
配下のモンスターを集めるでも、
情報収集でも何でもご命令下さい!」
「・・・そう、あなた優秀なの」
では、やって欲しい事は決まっている。
「じゃ、うちの戦士団の詰所に入って、
私の事務仕事を担当してくれる?」
「はい、喜んでって・・・事務仕事!?」
「まず朝イチで戦士達の日報用の紙の補充。
たまった日報を綴じて片付けてから、
通信クリスタルに来てる市民からの情報をさばく。
洗濯とかもあるけど、隙間時間によろしくね」
「え、えーと、魔王様?」
「まぁとりあえず正式に入団してもらわないとね。
明日になったらスグにでも、
冒険者協会の事務方で登録してもらって。
クリスさんっていう賢者がいるから・・・」
終始笑顔だったハルミの表情が引きつっていく。
彼女の方も、思っていたのと違うのだろう。
「・・・あ、ごめんなさい魔王様。
そー言えば私、お城の料理教室の先生の試験。
合格してたんでしたぁ。
よかったら今度食べに来て下さいねぇ~」
ハルミの姿が一瞬でその場から消えた。
現れた時もそうだったが、空間転移が使えるようだ。
優秀な魔族だというのは本当だろう。
詰所の人員に欲しかったのは、リカの本心である。
(誰が何と言おうと、
私は人間として平穏に生きていくのっ!
魔王の正体は絶対に隠すっ!!)
・
・
・
「賢者様、体調悪いんですよねぇ?
もう定時過ぎてるんですから、
とっとと帰りましょうよ!」
「いや、体調悪いというか・・・
最近時々、凄い悪寒が体中に走るんだよね。
今さっきも、凄い震えがきたし」
「そういうのを体調悪いって言うんですよ。
賢者様もモリノさん見習って、
きっちり定時に帰りましょう!
アイラも帰りますからね」
「そうかなぁ・・・
他は何ともないんだけどなぁ?」
この国に今、魔王の存在を感知できる人間。
それが『2人』いることを、リカは当然知らない。
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