事務方クエスト(2) ~昇格って祝福ですか?
ピィィィィーーーー!
朝イチからアルコールチェック用の、
クリスタルの警報音が鳴り響いた。
安全乗馬管理者であるクリスの1日は、
職務に出発前する戦士達の、
アルコールのチェックから始まるのだ。
「戦士長、晩酌控えた方がいいですよ。
もう若くないんだから」
アルコール違反常連なのは戦士達の長、
アキ戦士長である。

「勘弁してよークリスさん。
酒が消えるまで、詰所にいますから!」
「まぁ、そうなりますけど。
下の者への示しってものもあるし」
そうじゃなくても、
昨日王子が事故ったばかりなのである。
厳しく職務に当たって欲しいのだが、
戦士団の責任者である彼が、
朝からこの有様なのだから、
ケジメも何もありはしない。
クリスの目には冷笑を浮かべる、
他の戦士達の姿が見えて痛い。
当の本人に、この視線が刺さらないのはなぜなのか?
クリスは不思議で仕方がない。
「そーいや、王子の姿が見えないけど」
「朝イチで、予備の馬で出て行きましたよ」
「アルコールチェックは・・・」
「忘れてるんじゃないですか?」
今日は彼の事故の報告に、
城に上がらないといけないというのに。
クリスは大きなため息をついた。
今日も、つらい1日になりそうだった。
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「じゃあ、今日は城で1日仕事だから。
後はよろしくね」
「クリスさん、最近そればっかです!」
王子の事故処理を始め、
最近トラブル続きで事務所にいられない。
必然的に残務はアイラさんに託しているのだが、
正直、まだ心許ない。
「2人しかいないんだから。
頑張ってよ、アイラさん」
「せめて、ハルカさんがいてくれたら、
とっても助かるんですけどねぇ」
(・・・それを言うなって)
クリスは心中でそうこぼす。
1年前までこの事務所にいた同僚。
ハルカさん(職業:元・書士 LV42)
金庫の管理や経費の処理など。
優秀な事務方担当で、クリスも頼りにしていたのだが。
ある日、彼女は突然【昇格】してしまったのだ。
通常、職業の昇格は王や高位神官などによる、
【任命】の魔法を受けるのが必須だ。
しかし、彼女の場合は極めて稀な自然発生な昇格、
【神託】によるものだった。
しかも上位職としても非常に稀な、
【魔法戦士】に昇格してしまったのだ。
「しょうがないじゃん。
魔法戦士が事務処理するの、おかしいだろ?」
「でも、別にハルカさん。
魔法戦士希望じゃなかったでしょ?
【神託】だか何だか知らないですけど、
迷惑な話ですよねぇ~」
それは確かに、その通り。
結局、彼女はその能力に見合った職務を探し、
国を出て行ってしまった。
彼女自身は事務方の仕事が好きだったはずで、
やるせない話である。
「けど、私思うんですけどー。
ハルカさんって勇者の血筋だったりとか、
そんなんじゃないんですか?」
「・・・また唐突な意見だね、アイラさん」
「だって【書士】から【魔法戦士】に昇格って、
ありえなくないですかぁ~?
それにハルカさんの魔法剣、半端ないですしぃ!」
「って、ちょっとアイラさん。
ハルカさんの魔法剣、見たことあんの?」
「1度見たいって言ったら、
氷結剣っての見せてくれましたぁ~♪
炎や雷は危ないから、氷でってw
とってもキレイでしたよぉ~」
キラキラした目で語るアイラを見ながら、
クリスはまた、大きくため息をついた。
「そう、とってもキレイね・・・」
確かに「勇者の末裔でした」とでも言われた方が、
まだ納得がいく気もする。
だけど、魔王もすでになく、
危険な魔物が人里に近づく事もないご時世だ。
「強力な魔法剣」が役立つ場所など、そうはない。
意味もなく強力な魔法など使おうものなら、
それだけで【冒基法】にふれたりするのが現実だ。
クリスの肩こりにすら効かない回復魔法の方が、
まだ使い道があるくらいである。
神は、一体どんな気まぐれで、
人に才能を与えるのだろうか。
その采配に、果たして意味はあるのだろうか?

「・・・で、保険で相手のドラゴンの損害に3割。
100万G以上払うって事ですか?」
「はい、早い話がそういう事で」
クリスは直属の上司にあたる法務大臣に、
事故の顛末を報告していた。
この大臣の直下になってから7年近くなるが、
クリスはこの人が大の苦手だ。
「保険で払うのは仕方ないとして。
そうなると、来年の保険料は激増するでしょう。
予算の管理はできてるんですか?」
「予算の計算は、近々やります・・・」
案の定、嫌味を言われた上、別の案件にも飛び火する。
(あぁ、もう早く帰りたい。
どんなに仕事が残っていてもいいから)
「・・・まぁ、仕事も残ってるんでしょうから。
早く戻って残務を処理して貰えますか?」
珍しく、心の叫びが届いたようだ。
心中の喜びを悟られないよう、
平静を装って立ち去ろうとした時だった。
「ところで、クリス君はレベルはいくつになった?」
「・・・48ですけど。
多分、そろそろ49に上がると思います」
「そうですか、そろそろですかねぇ」
大臣が何かを考え込み始めたので、
次の言葉をかけられる前に、足早に立ち去った。
一体、何が「そろそろ」何だろう?
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「あ、クリスさん。お疲れ様です!」
声をかけてきたのは戦士団の「トシキ」

彼は入団時期で言うとクリスの1年後輩。
【戦士見習い】の期間が長かった彼だが、
今や立派な【ベテラン戦士】である。
「最近、仕事の方はどんな。
ドワーフ達は相変わらずか?」
彼の主な仕事相手はドワーフの職人達だ。
「職業:戦士」と言ったところで、
現代の仕事は、建物や武器の材料の販売運搬など。
インフラを支えるのが主な仕事となっている。
そしてドワーフ族は、職人気質で面倒な人が多い。
相手をする彼の仕事も、当然面倒になる。
「仕事は何も変わりませんね。
ドワーフ達はみな自分中心で、
頑固で自分の意見は曲げないし。
たまに断ったら、国王に直訴とかするし。
例えば昨日の納品だって・・・
(以下略)(以下略)(とにかく以下略!)」
「・・・はい、分かったもういい。
俺が悪かった」
彼は、とにかく話が長い。
何か聞くと「物語」が始まってしまう。
「要点を簡潔に話せ」と思うし、
本人にも言ってるが、改善の気配はまるでない。
それがあるから、彼には話しかけにくい。
たまには「物語」を聞いてやるのも、
必要なのかもしれないけれど。
それでも今日は、聞きたい事がもう1つあった。
「トシキは【昇格】に興味ないの?」
「・・・【昇格】ですか?」
「そう、例えばお前だったら、
アキ戦士長の次の【戦士長】を目指すとか!」
「まっぴらごめんですね。
あの人の後とか、死んでも嫌です!」
「へ、へぇそうなんだ。
まぁ、別に深い意味はないんだけど」
(簡潔に答えられるじゃないかw)
心中でそうボヤき、
この場から逃れようとするクリスを、
トシキは逃がしてくれなかった。
「戦士長って地方に配置換えとか。
そんな話はないんですか?
俺、真剣に期待してるんですけど!」
彼の「何か」に火をつけてしまったようだ。
結局、彼の長い話に足止めを食う羽目になった。
(・・・それにしても、ね)
上の人達、人望ないなぁ。
まぁ、トシキの気持ちも分かる。
クリスにしてみても、
「大臣には早くいなくなって欲しい!」
ずっと、そう思っているのだから。
ただ、最近思う。
大臣にしろ戦士長にしろ、
上の人には上の人の立場があり、
考えだってある(はず)だ。
それが気に入らないのなら、
「自分が取って代わってやる」
そういう覚悟が、
果たして自分達にあるのだろうか?
その思いもあって、
トシキに「昇格話」をふってみたのだが。
「俺、あの人と同じ空間にいるの嫌なんです。
向こうが動かないなら、俺でもいいですから!
そーいう話、ありませんか?
ないなら、クリスさん作れませんか!」
とりあえず、トシキにその覚悟はなさそうだ。
自分からふっておいて、何だけど。
この話、一体いつ終わるんだろう・・・?
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・
「クリスさん、遅かったですねぇ?」
「・・・ちょっとした人災にあってね」
結局、事務所に戻れたのは定時過ぎになった。
机上に重ねられた書類の山が目に入る。
今日の残業は長くなるかもしれない。
「そうだクリスさん!
レベルアップされてたじゃないですか。
ステータス、確認されました?」
(レベル・・・アップ?)
本当だ、冒険者クリスタルが点滅している。
【レベルアップ】は、実は大した事じゃない。
毎日仕事をしていれば、年に1度は自然に上がる。
LV40くらいまではステータスの伸びも大きく、
確認作業も楽しいんだけど。
その後の伸びは、ごく些細なものになる。
「去年LV48になった時、
HPもMPも2しか伸びなかったからなぁ」
「今回は凄く伸びてるかもしれませんよ!
ほら、今年はハルカさんいなくなって、
処理した仕事も増えてるし!」
「どうせ、去年くらいじゃない?」
クリス (職業:僧侶)
LV : 49 (+1)
HP : 145 (-5)
MP : 195 (ー5)
「・・・・」
「クリスさん、なんか下がってますねw」
「全く伸びないとかは聞いた事あるけど。
下がるって何?」
「あっ、でもクリスさん!
アイラこないだ本で読んだんですけど。
LV48って【人生で一番幸福感が薄い】
そんな時期らしいですよ。
そこからの脱却、やりましたねっ!」
疲労感が倍増して襲い掛かって来る。
なるほどHPは落ちてるのかもしれない。
「アイラさん、今日はもう帰ろうか?」
「賛成の賛成です!」
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(一方その頃、王城にて)
「大臣、本当にそれでいいんだな?」
「ええ、私も少々疲れましたので」
「じゃ任命の書類は送っておいてね。
補充人員の手配も早急に」
「心得ております」
【任命書】
僧侶クリスを下記の日時をもって【昇格】する。
昇格後の職業は【賢者】として、
事務方全ての職務を統括するものとする。
何かが、動き始めていたが。
貯まった仕事を見て見ぬふりをして、
ステータスまで下がった僧侶は、
そんなことは何も知らない。
【第3話に続く】
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