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事務方クエスト(4) ~人を職業で判断するな

「今、武闘家って言われました?」

「はい、武闘家です」

「ここに『数字を扱うのは苦手』って・・・」

「でも、事務方希望の方なんですよ。
 苦手だけど、やってみたいらしいですよ」

「今までの実績とかは?」

「実績ですか・・・あ、そうそう!
 最近【あばれ熊】が人郷に出没して、
 騒ぎになってるじゃないですか?
 あの1匹とサシで戦って勝ったらしいですよ!
 あの熊、多分ウチの戦士団じゃ、
 誰もサシで戦えませんよ!」

(なら、戦士団に配属でいいのでは・・・?)

疑問しか浮かんでこない、が。

【あばれ熊】とサシで戦える武闘家が、
【事務方】の補充要因としてくるようだ。

まぁ、回復魔法もロクに使えない、
そんな『賢者』が仕切る事務所である。
適材適所と言えば、そうなのかもしれない。

第4話時点

「今日からお世話になります、モリノです!
 よろしくお願いいたしますっ!」

熊にサシで勝ったと聞いていたので、
どれほど筋骨隆々の猛者が来るのかと、
クリスは恐れていたのだが。

扉を開けて現れたのは、スレンダーで健康的。
背の高い、ハツラツとした女性武闘家だ。

職業:武闘家で、事務方経験はゼロ。
経歴では、地雷臭しかしなかったんだけど。

「承知しました。直ちに処理しておきます!」

「賢者様は座ってて下さい。
 こんなものは私達の仕事です!」

武闘家だから動体視力がよいのか、
彼女の視野はとにかく広く、
行動は迅速で、かゆいところに手が届く。
びっくりするほどに優秀だ。

「うぅ、アイラの【ア】は焦りの【ア】・・・」

「やっと後輩が入る!」と、
ウキウキしてたアイラさんにも、
その優秀さ上に焦りの色が伺える。

「まぁ、アイラさんには・・・
 アイラさんにしかない『いいところ』が、
 きっとあるから、頑張ってね」

「その言い方で賢者様の脳内評価、
 バレバレじゃないですかぁ。
 私も春までに上級火炎魔法覚えますっ!」

「・・・いや、
 ゴミ燃やすのに上級魔法いらないから」

多少バタバタはしているが、
彼女の加入でクリスの仕事は回りだし、
3人揃って定時に帰れるようになっていた。

     ・
     ・
     ・

「・・・珍しいですよねー
 ウチと戦士団が共同会議なんて」

クリスにアイラ・モリノの事務方3名は、
本日緊急で開かれる事になった、
【戦士団】との共同会議に向かっていた。

「アレじゃない?
 最近頻発してる【あばれ熊】対策だろ」

「じゃ、ひょっとして。
 モリノさんに力を貸して欲しいとかですか?」

「いや、戦士団にもプライドあるだろうし。
 そんな直接的な事じゃないと思うけど」

実際は、武器の手配や後方支援。
時間外の見回りの管理くらいの話のはずだ。

「そう、今日は【熊】対策らしいですよ」

声をかけてきたのは【戦士団】の1人。
ベテラン戦士のバンさんだ。

アキ戦士長と同期なベテラン戦士の彼だが、
彼の経歴には空白期間が2年ほどあり、
そのせいか?戦士団での立場は上がっていない。

「じゃ、久々に魔物との実戦ですね。
 自慢の愛剣【巨人魂(ジャイアンツスピリッツ)】が、
 火を噴くチャンスじゃないですか?」

「えぇ、熊なんざぶった切ってやりますよ!
 て、言いたいとこですけど。
 この剣、普通のロングソードですしね・・・」

まともな実戦の乏しい戦士団の装備は、
はっきり言って貧弱だ。
年に1回の手入れの時しか使ってない、
そんな戦士の方が、おそらく多い。

「そう、今回の事務方さんへのお願いは、
 武器等の手配のお願いですかね」

そう言って間に入って来たのは、
戦士団直属のベテラン書士・リカさんだ。

「じゃ、リカさんは今回の僕等の呼び出し。
 モリノさんの実戦投入とかじゃないと?」

「そこまで恥知らずではないですよ、きっと。
 それに、戦力っていうなら実戦より、
 事務仕事をお願いしたいのが実情ですから」

「事務仕事・・・?
 でも戦士団にはリカさんもいるし。
 そっちにも、新人書士入ったって聞いたけど?」

「ええ、入りましたよ。
 ほら、あそこで戦士長と呑気に話してる、
 あの彼女です。」

リカさんに促されて目をやると、
戦士長と新人らしい書士さんが話し込んでいた。

「・・・で、トシキの緊急通信。
 誰にも伝えてなかったのは何で?」

「え~とぉ、トシキさんがぁ~
 誰かいたら至急援軍を、って言われたんでぇ~
 その時、誰もいなかったからぁ~
 明日でもいいのかなって、思いましてぇ~」

「至急援軍をって言ってるんだから、
 非常事態だって想像つくよね?」

「あぁ~ そうですよねぇ~
 トシキさんったら『誰かいたら』とか、
 言わなきゃいいのにねぇ~」

(て、天然の人っ!?)

「・・・あの人がウチの新人書士です。
 すっっごい呑気な上、成長しなくてね」

「中々にカオスですね」

「結局トシキさんは【あばれ熊】と1人で戦って、
 倒せなかった上、今入院中です。
 彼女はずっとあの調子で、
 自分が悪いとは思ってませんね、多分」

リカは、深いため息をついた。
そして続けざまに、クリスに告げる。

「クリスさ・・・あ、今は賢者様でしたね。
 辞められた大臣に感謝した方がいいですよ。
 あの人が【事務方】で、モリノさんが【戦士団】
 それも十分あり得たんですから」

確かに、補充できた新人が彼女だったら、
正気ではいられなかった気がする。

「あ、アキ戦士長はわりと真面目に、
 モリノさんとトレード考えてますから。
 聞いちゃだめですよ。
 これは長い付き合いの私からの忠告です」

(それは、確かに聞けないな)

モリノさんの加入で、
よーやく回り始めたクリスの仕事。
彼女を手放す事など考えられない。

だけど、『武闘家』の方に事務方適性があり、
書士』の方が地雷だとは、ね。
大臣はそこまで見越したうえで、
この人事をしてくれたのだろうか?

「熊と戦う武器って、何手配しましょうかぁ~
 この殺虫剤じゃ、ダメなんですかぁ~?」

(いや、ただの偶然だろうな)

そんな人を見る目があるのなら、
そもそも、この人を採用するはずがない。

今回、自分は運がよかっただけか。
頭を抱えてるアキ戦士長には悪いけど。

    ・
    ・
    ・

「いやー会議長引きましたねー」

「話が一向に前に進まないんだもん」

【あばれ熊対策会議】は混迷を極め、
最新の武器の手配は特になし。
戦士団は明日から3人1組で、
当番制で街を巡回することで決着した。

「まぁ、最新の武器があったところで、
 使いこなす経験もないですし、ね」

ずっと目の前で見てきた事もあるのだろうが、
リカさんの評価は辛辣だ。

「アイラが同行して、
 火炎魔法を炸裂させましょうか?」

「射程1mの火炎魔法なんて当たらないから。
 おとなしくゴミを燃やして・・・
 じゃなくて事務仕事しててねw」

会議が長引き、すっかり遅くなった帰り道。
方向が同じということで、
クリス・アイラとリカさんの3人で、
家路に向かっていた。

「にしても、あの新人じゃリカさん大変でしょ。
 実際、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないですよ。
 正直、彼女が出来るようになるビジョン、
 まったく見えません」

リカさんが、そう言った瞬間。
クリスの五感にかつてない悪寒が走る。

(・・・何っ?
 今なんかとんでもない悪い気を感じたような)

「まぁでも、これも仕事ですから。
 ほどよく戦士長になすりつけて、
 私も消耗しないように努めます。
 じゃ、私はこっちなんで・・・」

「あ、うん気を付けて」

立ち去る彼女の姿を見送っていると、
少し気の毒に思えてくる。

だからと言って、

「モリノさんとトレードしますか」

なんて言ってあげるほど、
さすがにクリスもお人好しではない。
戦士長達を始めとして、
アチラで何とかしてもらうしかない。

「け、賢者様賢者様!!
 アッチが大変で熊が熊熊熊!!」

隣で突然、アイラさんが混乱を始めた。
一体何を?と目をやると・・・

「グガァァァァァッ!」

少し離れた建物の上に、
【あばれ熊】の顔が見えていた。
その出現した方向は・・・
今、リカさんが帰って行った方向!?

「わわわぁ~ 大変です!
 リカさん絶対、熊と鉢合わせてます!」

(確かにそうだけど、どうする!?
 俺とアイラさんじゃ行ってもムダだし。
 でも、逃げる手助けくらいは・・・)

クリスが心の中で葛藤していた、その瞬間。

ゾクッッッ!!


先ほど感じた悪寒。
いや、それ以上の悪寒が体を走る。

(だから何、この悪寒!?)

立て続けに襲ってくる悪寒に眉をひそめる。
あばれ熊の瘴気?
いや、そんなレベルじゃないような・・・

「賢者様、熊さんいなくなりましたっ!?」

「いなくなった!?」

確かに建物の上から顔ひとつ見えていた、
あばれ熊の姿が見えない。
姿が消えた方向に向かって2人で走る。
そこにいたのは・・・

「リカさん・・・!?」

リカさんが道の真ん中に立っている。
あばれ熊の姿は・・・どこにもない!?

「リカさん、あばれ熊がいたでしょう。
 どこに行きました!?」

「・・・逃げ出しました」

「に、逃げたっ!?」

「ひとしきり叫んだ後、
 走ってどっかに行きました。
 お腹でも空いてたんですかねぇ?」

(逃げたにしても、早過ぎないか!?)

辺りにあばれ熊の気配はどこにもない。
こんなに早く痕跡も残さず、
姿を消せるものだろうか?

「何にしても物騒みたいですね。
 私も急いで帰りますから、
 賢者様達も早くお帰りを・・・」

(まったく、嫌になるわよね)

呆然としてる2人から、
逃げるように立ち去りながら、
リカは心中でグチる。

(戦士団は熊1匹、1人じゃ倒せない。
 新人書士は全くもって役立たず。
 その上、脳筋のあばれ熊まで、
 私の魔力に惹かれて、
 フラフラ街に現れる始末・・・)

この【力】に目覚めてから、
ホントにロクな事がない。
いっそこの【力】に従って、
世界征服でもしてみようか?

・・・いや、やめておこう。
コスパが悪すぎる。
仮に一時の勝利を得たとしても、
【私】が最終的な勝利者になる事はない。

そう、過程はどうあろうとも。

【魔王】は必ず最終的に、
【勇者】に滅ぼされるのだから・・・

【第5話に続く】

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くりす 日々の色々を面白おかしく書く事で、日常を楽しく色付けできればと思ってます。書く事はもとより好きなので「毎日更新」頑張ります。よろしければ応援お願いします!